「飲料アカデミー」では、2015年7月11日に管理栄養士を目指す学生を対象として「脱水症と水分補給」をテーマとした水分補給セミナーを開催しました。
済生会横浜市東部病院 周術期支援センター センター長の谷口 英喜 先生と、日本コカ・コーラ株式会社 技術・サプライチェーン本部 学術調査 プロジェクトマネジャーの金平 努 氏による2つの講演の概要をお届けします。

●講演1
『脱水症と水分補給 ~予防と治療を明確に~』
済生会横浜市東部病院 周術期支援センター センター長 谷口 英喜 先生


脱水症は水分と塩分から成る体液が不足した状態を指します。予防には、水分補給も重要ですが、食事をきちんととることも大切です。より効果的に水分補給を行うには、タイミング、飲料の温度、飲料の種類を正しく選択することが必要です。脱水症の改善・治療目的には経口補水液が有効ですが、予防目的には経口補水液と同じく塩分や糖分を含むスポーツドリンクが適しています。


■脱水症とは?

体液の働き-脱水症は体液の不足
夏になって気温や湿度が上昇すると増加するのが、熱中症です。熱中症とは、暑さが原因で起こる脱水症の一種です。そのため、熱中症の予防や治療を知るためには、まず脱水症について正しく知ることが大切です。

脱水症とは、水分と塩分からなる体液が不足した状態のことを指します。体液は、小児では体の約70%、成人では約60%、高齢者では約50%を占めており、(1)酸素と栄養素を体内に運搬する、(2)尿や汗として老廃物を体外に排出する、(3)発汗により体温を調節する、という3つの重要な働きを担っています。私たちの体を構成する細胞は、体液を介して細胞内外で栄養と老廃物の交換を行っています。しかし、脱水症で体液が減少すると、それらの働きが阻害されるため必要な栄養は行き渡らず、老廃物は蓄積してしまいます。そのため、脱水症を発症すると全身のさまざまな組織で症状が現れます。食事に関連する症状としては、唾液量減少による味覚障害や咀しゃく・嚥下障害が生じ、食欲も減衰します。さらに消化液減少による消化および吸収不良も起こるため、栄養状態も悪化します。このように、脱水症と栄養管理には密接な関係があります。栄養管理の質を高めるために、脱水症があれば改善しておくことが大切です。

脱水症を疑う5つのサイン
脱水症を疑うサインには、(1)急激な体重減少、(2)体温上昇(3)中枢神経の異常、(4)消化機能の異常、(5)神経・筋機能の異常の5つがあります(図1)。

1週間以内に4%以上急激に体重が減少した場合は、脱水症が疑われます1)。ダイエットなどによる栄養状態の変化に伴う体重の変動は、ほとんどが週単位で起こります。一方、水分量は日単位で増減するため、1週間以内の急激な体重減少は体液が失われたことを意味します。また、体温上昇は、汗が出にくくなることで起こります。通常体温は汗によって調節されていますが、脱水症で汗の量が減少すると発汗により体温を下げることができなくなるため、熱が体内に蓄積されます。体重や体温は家庭で簡単に把握できるため、日常的な脱水症管理に有効です。
さらに、認知機能・集中力・記憶力の低下などの中枢神経症状、食欲減少・消化不良などの消化器系の異常、筋力の低下・手足のしびれ・足のつりなどの神経と筋肉の症状も、重要なサインです。このような症状がみられたときには脱水症を疑い、適切に水分および塩分を摂取することが重要です。

図1 脱水症を疑う5つのサイン

■脱水症の予防方法

1日に必要な水分量
脱水症や熱中症の予防には、水分補給としてこまめに飲料をとることが重要と思われがちですが、食事をきちんととることも大切です。私たちは毎日の食事からおよそ1Lの水分を摂取しており、食事も重要な水分補給源といえます。きちんと食事をとったうえで、飲料からの水分補給を行いましょう。

日本人における飲料からの適正な水分摂取量は、食事や文化、気候が比較的日本に近いイギリスでの推奨水分摂取量を参考に、成人で1.2~1.5L程度だと考えられます(2)。ただし、この推奨量は日常生活での目安量であり、多量の発汗や下痢などで多くの水分を失った場合には、この量に加えてその喪失分を補わなければなりません。

表 諸外国の水分摂取の推奨量

Hooper L, Bunn D, Jimoh FO, Fairweather-Tait SJ. Water-loss dehydration and Aging, Mech Ageing Dev. 2014; 136-137: 50-58.

水分補給の方法
より効果的に水分補給をするためには、水分補給のタイミング、飲料の温度、飲料の種類を正しく選択することが重要です。

水分補給を行うタイミングは「のどが渇く前」が理想的です。その際、一度に多量に水分を摂取すると、大部分は吸収されず排出されてしまいます。生活リズムに合わせてコップ1杯程度の飲料を1日8回程度に分けて飲むなど、こまめな水分補給が望ましいと考えられます。また、自分で判断ができない子どもの場合は「好きな時間に」、のどの渇きを感じにくくなっている高齢者の場合は「時間を決めて」水分補給を行うのが有効です。
日常的に摂取する飲料の温度は、体温に近い温度のものが吸収がよいといわれています。しかし、十分量の水分を摂取することが最も大切なので、水分補給が苦痛にならないよう、飲みやすい温度の飲料を選択して構いません。
また、飲料の種類は、アルコール飲料以外であれば飲みやすい飲料でよいと考えられます。カフェイン飲料は利尿効果があるため、日常的に水分補給のための飲料としては適切でないといわれることがありますが、日常的にカフェインを摂取している場合には利尿作用への影響は少なく、水分補給として有用だと報告されています3)。炭酸飲料も、満腹感が得やすいこと、糖分の過剰摂取になりやすいことに注意が必要ですが、十分に水分補給源になります4)。ミネラルウォーターなどの真水は、単独で大量に摂取すると水中毒(希釈性低ナトリウム血症)を起こし、ときに痙攣や意識障害を起こすこともあります。そのため食事をとらないで大量に飲むことは避けましょう。アルコール飲料は利尿作用があり、アルコールが体内で分解される際にも水分を消費してしまうため、水分補給には適しません。

■脱水症の改善と治療
脱水症を発症すると脳神経に障害が生じ、手足の麻痺や認知機能の低下などの後遺症が残ることがあるため、迅速に適切な治療を行う必要があります。日常の予防的な水分補給法では吸収速度が十分でないため、脱水症の治療には水分と塩分が速やかに補給できるよう設計された経口補水療法(Oral Rehydration Therapy:ORT)、あるいは点滴が用いられます。

経口補水療法では、ナトリウム(塩分)とブドウ糖(糖分)を含む経口補水液を摂取します。塩分は体内に水分を保持させ、糖分は小腸でのナトリウムと水分の吸収を促進させるため、経口補水療法で水分・塩分・糖分を同時に摂取することは、迅速な水分補給を可能にします。実際に、経口補水液の脱水症に対する有効性には複数のエビデンスがあり、在宅医療に関するガイドライン5)や熱中症診療ガイドライン6)などでも脱水症時の使用が推奨されています。
脱水症に対する水分補給法は、その目的に応じて適切に選択することが大切です(図2)。脱水症の改善・治療目的には、水分吸収速度が非常に早い経口補水液が有効です。一方、脱水症になる前の予防目的であれば、経口補水液と同じく塩分や糖分を含むスポーツドリンクがよいでしょう。スポーツドリンクは経口補水に比べナトリウムが少なめでブドウ糖が多めなので、水分の吸収にやや時間を要しますが、最終的には十分量を吸収することができるため予防には有効です。
体液管理は栄養管理の基本であること、また脱水症の予防と治療が異なるということを明確に理解し、日常の対策と緊急時の対応を適切に行うことが重要です。 

図2 脱水症に対する目的に応じた水分補給法の選択

●講演2
『日常の水分補給に役立つ清涼飲料の摂り方』
日本コカ・コーラ株式会社 技術・サプライチェーン本部 学術調査 プロジェクトマネジャー 金平 努 氏


熱中症対策や運動時の水分補給にはスポーツドリンクが有用です。大量に汗をかいた場合、塩分と水分をバランスよく摂取することが重要ですが、スポーツドリンクは適量の塩分を含んでおり、発汗によって失われるナトリウムやカリウムなどの主要な電解質も含んでいます。さらに、スポーツドリンクはおいしいゆえに、十分に量を摂取しやすく、脱水の回復に役立つとも考えられています。


■日常での熱中症対策としての水分補給
私たちの体は約60%が水分で構成されており、部位別でみると、血液では約90%、脳では約80%を水分が占めています。この水分は細胞内液として代謝反応を触媒し、細胞外液として栄養素・老廃物の運搬や体温・体液の調節に利用されるため、体にとって欠かせないものです。日常生活で、入浴後、起床時、飲酒後など、のどの渇きを感じるときは、体内の水分が2%程度減少しているため7)、意識的に水分補給を行う必要があります。冷房・暖房の使用時や車・飛行機での移動中も、気づかないうちに室内の空気が乾燥していることがあるので、こまめな水分補給が大切です。

特に夏は、高温・高湿度、強い照り返し、弱風などにより熱中症が発生しやすい環境のため7)、熱中症対策としての水分補給が重要です。熱中症の搬送患者数は6月から増加しはじめ、その後急激に上昇し7~8月にピークに達します8)。熱中症の発生場所は、全体では「住宅」が最も多く(約30%)、「作業中(約16%)」、「運動中(約11%)」と続きます。しかし、性別・年齢別に発生場所をみると、高齢者では男女とも「住宅」での発生が最も多いものの、外で遊ぶことの多い7歳から19歳の若年層では男女ともに「運動中」、暑熱環境下での活動が多いと考えられる男性では「作業中」の発生が最多です8)。熱中症の発生場所は属性によって異なることに留意したうえで、適切な熱中症対策を実施することが重要です。
熱中症対策では発汗により失われた電解質や水分を補うことが大切であるため、スポーツドリンクなどの利用が有用です。また、暑さを避けるための行動・居住環境・衣服の工夫、暑さに備えた体づくり、熱中症対策の目安となる指標(暑さ指数:WBGT)の活用なども、熱中症対策のポイントといえます7)

■運動時の水分補給
運動時は筋肉の活動で体温が上昇し、大量に発汗します9)。大量に水分を失うと運動のパフォーマンスの低下にもつながるため、スポーツ時には電解質や水分の補給が特に重要です。運動時の水分補給のポイントとしては、(1)汗で失った量と同等の水分補給をする、(2)体重の2%以上の水分を失わないように注意する、(3)水分はこまめに摂取する、(4)スポーツの前後と途中に水分補給を行う、(5)電解質も補給する、の5つが挙げられます10)

運動時の水分補給量は、運動前後および運動中の体重測定により決定する方法が簡便でよい方法です。減少した体重を喪失した水分量と考え、同量程度の水分を補給して体内の水分量を調節するとよいでしょう。また、深部体温の冷却効果があり、胃に滞留する時間が短く小腸に速やかに移動することから、運動時の水分補給には冷えた飲料がよいとされています7)。水分補給のタイミングについては、摂取した水分が小腸で吸収されるまでの時間も考慮し、運動前と、運動中(30分に1回程度)が推奨されます7)。特に長時間の運動時には、水分と同時に電解質も補給する必要があります。
また、寒い季節の運動時も水分補給は重要です。寒い季節は利尿作用が働きやすい、厚着により汗をかきやすいなどの理由から、運動時は夏と同等の脱水が起こりえます9)。その一方で、冬は水分補給を怠りがちになるため、意識的に水分補給を行うことが大切です。

■スポーツドリンクと水分補給
汗には電解質も含まれているため、大量に汗をかいた場合には水分の補給だけでは不十分です。水分のみを大量に補給した場合、のどの渇きはおさまりますが、体液濃度が低下します。体液濃度を元の状態に近づけるために余分な水分が排出されるので、結果的に脱水状態から完全には回復しません。そのため、大量に汗をかいた場合は真水でなく0.1~0.2%程度の塩分を含む水分の摂取が推奨されており7,11)、塩分と水分をバランスよく摂取することが重要です。

市販のスポーツドリンクはこの範囲の塩分を含んでいるため、熱中症対策や運動時の水分補給に有用です。さらに、水分補給にスポーツドリンクが適している理由が3つあります。1つ目は、汗に含まれる主要な電解質と同様の種類の電解質を含んでいる点です。スポーツドリンクは、ナトリウム、カリウム、マグネシウムといった発汗により失われる主要な電解質を含むため、汗により失われた成分に似た要素を補給することができます。2つ目は、水よりも優れた水分補給ができる点です。スポーツドリンクのように、水、電解質に加え、適度な糖分を含む飲料は、水のみ、あるいは、水+電解質のみの飲料よりも、血中での水分保持率が高いことが報告されています12)図3)。そのため、水分補給・脱水からの回復により効果的と考えられます。3つ目は、おいしいゆえに十分量を補給できる点です。これまでの研究から、運動中は競技者の好みの飲料のほうが、そうでない飲料よりも摂取量が多くなることが示されています13,14)。よりおいしいと感じる飲料は飲みやすく、十分量を摂取しやすいため、脱水の回復に役立つと考えられています。 

図3 電解質と糖分を含む飲料が体の水分保持率に与える影響

質疑応答

Q. スポーツドリンクによる水分補給は、糖尿病患者さんには勧められないのでしょうか?
A. 糖尿病患者さんの水分補給には水とお茶が推奨されますが、これだけでは患者さんは飽きてしまい、水分補給を怠ってしまうことがあります。そのため、熱中症の危険がある環境下では、糖質の少ないスポーツドリンクなどによる水分補給も有用でしょう。ただし、糖尿病患者さんはスポーツドリンクを飲みすぎてしまう傾向があるため、適切に栄養管理をしたうえで提供してください。
 
Q. スポーツドリンクは糖を含んでいるため、糖の代謝に必要なビタミンB1を同時に摂取しないと、体内のビタミンB1が消費されてビタミンB1欠乏症になる恐れがありますか?
A. 栄養状態が良好な方で、短期的であれば、必ずしも同時に摂取する必要はありません。長期的にはビタミンB1を補う必要がありますが、水分や電解質を補給することで体力が回復し食事が摂れるようになれば、食事からビタミンB1を補えます。

 

「飲料アカデミー」水分補給セミナー
日時:2015年7月11日(土) 14:00~15:30
会場:日本コカ・コーラ株式会社 本社

「飲料アカデミー」は、今後もウェブサイトでの情報発信に加え、飲料と生活を結ぶさまざまな健康テーマにおいてセミナーやワークショップを開催していく予定です。

参考文献
1) EFSA Panel on Dietetic Products, 2010.

2) Hooper L, Bunn D, Jimoh FO, Fairweather-Tait SJ. Water-loss dehydration and aging. Mech Ageing Dev. 2014; 136-137:50-58.

3) Food and Nutrition Board of the Institute of Medicine. Dietary Reference Intakes for Water, Potassium, Sodium, Chloride, and Sulfate 2004. Accessed October 11, 2006.

4) Johnson T, Gerson L, Hershcovici T, Stave C, Fass R. Aliment Pharmacol Ther. Systematic review: the effects of carbonated beverages on gastro-oesophageal reflux disease. 2010; 31: 607-614.

5) 日本老年医学会. 在宅医療に関するエビデンス・系統的レビュー.

6) 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2015.

7) 環境省. 熱中症環境保健マニュアル2014.

8) 国立環境研究所. 平成26年度熱中症患者情報速報.

9) American College of Sports Medicine, Sawka MN, Burke LM, Eichner ER, Maughan RJ, Montain SJ, Stachenfeld NS. American College of Sports Medicine position stand. Exercise and fluid replacement. Med Sci Sports Exerc. 2007; 39: 377-390.

10) Hydration Tips from The Coca-Cola Company.
http://assets.coca-colacompany.com/29/7c/e24a86bf4dc98a28338bd01cf78b/hydration-tips.pdf

11) 全国清涼飲料工業会. 「熱中症対策」表示ガイドライン. 2012.

12) Osterberg KL, Pallardy SE, Johnson RJ, Horswill CA. Carbohydrate exerts a mild influence on fluid retention following exercise-induced dehydration. J Appl Physiol. 2010; 108: 245-250.

13) Passe DH, Horn M, Murray R. Impact of beverage acceptability on fluid intake during exercise. Appetite. 2000; 35: 219-229.

14) Wilmore JH, Morton AR, Gilbey HJ, Wood RJ. Role of taste preference on fluid intake during and after 90 min of running at 60% of VO2max in the heat. Med Sci Sports Exerc. 1998; 30: 587-595.