競技中や練習中に多くの汗をかくスポーツ選手にとって、水分を補うことは非常に重要ですが、その際は、汗によって体外に排出されたナトリウムも同時に補給する必要があります。水分のみを過剰に摂取すると、血液中のナトリウム濃度が急激に低下し、手や足のむくみ、腹部膨満感、脳の腫脹による異常な疲労や激しい頭痛などの症状を引き起こすことがあるためです。これは運動誘発性低ナトリウム血症と呼ばれ、時に生命に関わる危険性もある病態です。この予防の観点からも、運動時など多くの汗をかく場合の水分補給にはスポーツ飲料が有用といえます。


スポーツ選手にとって、水分補給と同様に、ナトリウム摂取も重要です。運動時の水分補給には水ではなく、ナトリウムなどの電解質を含んだスポーツ飲料が適しています。

水分補給の専門家であるBob Murray先生へのインタビュー
特に気温の高い環境下では、運動中に水分を十分に補給し続けることの重要性をスポーツの専門家はよく知っています。適切な水分補給は、重要な生理的機能の維持に役立つだけではなく、選手の疲労感を減らし、運動能力の向上にも寄与します。

そのため、スポーツ選手は長時間の運動中は過度な水分摂取を避け、十分に塩分を摂ることの重要性も知っておく必要があります。まれに、運動誘発性低ナトリウム血症と呼ばれる、生命に関わる病態を起こす危険性があるためです。

運動誘発性低ナトリウム血症とその予防法についての理解を深めるため、スポーツ栄養学と水分補給の分野で世界をリードするBob Murray先生にお話を伺いました。

<Contents>
1.運動誘発性低ナトリウム血症とは
●運動誘発性低ナトリウム血症とはどういう意味ですか?

●過剰な水分とはどのくらいの量ですか?

●医療と栄養の専門家が低ナトリウム血症について理解することが重要なのはなぜですか?

2. 運動誘発性低ナトリウム血症が発症する背景
●水分の過剰摂取によってどのように血中のナトリウム濃度が低下するのですか?

●特に運動に関連した低ナトリウム血症では、どんな症状が現れますか?

3.スポーツ選手における水分補給の重要性
●運動誘発性低ナトリウム血症のリスクが特に高いのはどのような人ですか?

●脱水症状と低ナトリウム血症が同時に起こることはありますか?

●スポーツ選手は運動中に何をどのくらい飲むべきですか?

●選手はどうやって水分補給状態をチェックできますか?

●脱水状態を判断するにあたり、尿チェックはどの程度の信頼性がありますか?

●選手は運動中にナトリウムを摂取する必要がありますか?

●他の電解質についてはどうですか?

4.スポーツ選手の効果的な水分補給法
●スポーツ飲料が普通の水よりも有効となるのはどのような場合ですか?

●大会前後の食物摂取にはどのような役割がありますか?

●カロリーゼロのスポーツ飲料は、運動誘発性低ナトリウム血症に関与する電解質を含んでいながら糖質を含んでいません。この用途や利点をお話しいただけますか?

5. 運動誘発性低ナトリウム血症のリスクを減らすには
●最後になりますが、身体活動量の多い人は、どうすれば運動誘発性低ナトリウム血症のリスクを減らすことができるのでしょうか?

 

1.運動誘発性低ナトリウム血症とは

運動誘発性低ナトリウム血症とはどういう意味ですか?
  Murray先生:低ナトリウム血症とは、血液中のナトリウム濃度が身体に危険が及ぶ可能性のあるレベルまで低下した状態を指します。中でも運動により起こる低ナトリウム血症を、運動誘発性低ナトリウム血症と呼びます。

本来は体に良いものであっても、それをとりすぎると、体に悪影響を及ぼすことを示す恰好の例が、水における低ナトリウム血症です。運動中や運動後に起こる低ナトリウム血症のほとんどは、水分の過剰摂取によるものです。
 
過剰な水分とはどのくらいの量ですか?
  Murray先生:その質問に対して科学的にお答えするなら、低ナトリウム血症とはすなわち、水分の過剰な状態と定義されます。例えば、運動中に起こる低ナトリウム血症は、水を飲みすぎたことによって起こる体重増加が少なからず関与しています。

通常、喉の渇きは、身体が水分を欲していることを示すよい指標であり、必要に応じて喉の渇きをいやせば、1日の終わりには、身体の水分補給状況は正常に戻っています。しかし運動中は、喉の渇きを感じるタイミングが水分の必要なタイミングよりも遅れることが多いため、スポーツ選手は多量の水分をとって汗による損失を補わなければならないのです。そしてごくまれに、喉の渇きが治まってもさらに飲むように強いられることで、低ナトリウム血症を来すことがあるのです。
 
医療と栄養の専門家が低ナトリウム血症について理解することが重要なのはなぜですか?
  Murray先生:運動誘発性低ナトリウム血症は、疫学的に見るとそれほど危険ではありませんが、人によっては生命に関わる危険性があります。そのため、医療と栄養の専門家はこの症状をよく理解することが重要です。例えば、過去20年間に、低ナトリウム血症により死亡したマラソンランナーの事例が7件報告されていますが、これはスポーツ選手に限ったことではないと認識すべきです。

これまでに低ナトリウム血症で多くの人々が命を落としています。長時間の行進中に水分補給をしすぎた兵士、「しごき」の一環としてトイレに行くことなく飲まされた新入生、両親から罰として水を飲まされた少女たち、トレーニング中に水を飲みすぎた自転車の警官、その他、休憩中や運動中に水分をとりすぎた人たちなどです。
 

2. 運動誘発性低ナトリウム血症が発症する背景

水分の過剰摂取によってどのように血中のナトリウム濃度が低下するのですか?
  Murray先生:急激に過剰な水を飲むことにより、当然、血中ナトリウム濃度は低下します。ヒトは、排尿よりも早く飲むことができるためです。通常は、喉の渇きが治まって飲水を止めると、過剰な水分は尿として排出されるため、ナトリウム濃度が少し下がる程度で、大きな問題にはなりません。

しかしながら、運動の前後や運動中に水分をとりすぎると、血中ナトリウム濃度が生命の維持に危険なレベルまで急激に低下することがあります。身体が過剰な水分を十分な速度で体外に排出できず、血中ナトリウムを安全なレベルに維持できないためです。
 
特に運動に関連した低ナトリウム血症では、どんな症状が現れますか?
  Murray先生:症状のいくつかは、水を飲みすぎたときにみられる症状と同じです。腹部膨満感、手足の指のむくみ、足首や手首のむくみなどです。その他に、低ナトリウム血症によって引き起こされる脳の腫脹による危険な症状もみられます。異常な疲労、激しい頭痛、協調運動障害、攻撃行動、錯乱、発作、昏睡などです。

マラソンやトライアスロンで、医療スタッフとして同行する医師や看護師は、レース当日に数百人の運動選手を見ますが、その際、レース中に起こりうる問題の1つに低ナトリウム血症があることに留意する必要があります。幸い、低ナトリウム血症は簡単な血液検査のみで診断ができ、治療開始が可能です。
 

3.スポーツ選手における水分補給の重要性

運動誘発性低ナトリウム血症のリスクが特に高いのはどのような人ですか?
  Murray先生:運動誘発性低ナトリウム血症は、持久力が必要とされるマラソンなどの競技の前やその最中に、小柄な女性選手が水を多く飲むことでよく起こります。

しかし、大柄な選手であれば低ナトリウム血症のリスクが低いというわけではありません。数年前、全米プロフットボールリーグ(NFL)の選手が夏の合宿中に、約15L(4gal)の水を1日で飲み、重度の低ナトリウム血症になってしまいました。幸運なことにその人は回復しましたが、このように短時間に大量の水を飲む人は誰もが危険にさらされる可能性があるのです。

また、発汗速度に個人差があるのと同様に、汗に含まれる塩分量も人により異なります。「高塩分な発汗」とは、汗に過剰なナトリウムが含まれることを指します。汗に多くのナトリウムが含まれる人は、低ナトリウム血症になる危険性がより高くなります。高塩分な発汗を見きわめる手がかりとなるのは、濃い色の運動着に付着した白い塩の跡や、目、擦り傷、切り傷に汗がしみたりする場合です。
 
脱水症状と低ナトリウム血症が同時に起こることはありますか?
  Murray先生:はい。感覚的にはそれはなさそうに思えますが、不思議なことにこの2つは同時に起こりえます。低ナトリウム血症は、水を飲みすぎたときによく起こるため、水中毒と呼ばれることもあります。

しかし、脱水症状を起こしたスポーツ選手にも低ナトリウム血症になる可能性があります。汗でナトリウムを多く失い、かつ水をたくさん飲むことで、血液が低ナトリウム血症のレベルまで薄まってしまうのです。

例えば、スポーツ選手が鉄人レースと呼ばれるトライアスロン中に10Lの高塩分の汗をかき、8Lの水を飲んだとすると、この選手は塩分損失と水分摂取の組み合わせにより、脱水症状と低ナトリウム血症の両方が起こりえるのです。
 
スポーツ選手は運動中に何をどのくらい飲むべきですか?
  Murray先生:必要な水分補給量には大きな個人差があります。同じ運動をしていても発汗速度が異なるためです。選手が練習の前後に定期的に自分の体重を測定するようコーチが指示するのはこのためです。体重低下は水分の補給不足を意味し、体重増加は水分過剰補給を意味します。

体重測定を何度かやってみると、選手はすぐに感覚をつかみ、体重減少(脱水症状)を最小限にするため運動中にどれだけ水分を補給すればよいのかわかるようになります。ある選手は毎時間0.18L(6 oz.)しか飲まなくてもよいのに対して、他の選手は水分維持のために1.42L(48 oz.)以上必要なこともあります。

汗をそれほどかかず、競技成績があまり重要でない場合には、普通の水を飲んでいて大丈夫です。しかし、選手が汗をたくさんかき、最高の競技結果を出したい場合には、スポーツ飲料の摂取により多くのメリットが期待できます。

選手はどうやって水分補給状態をチェックできますか?
  Murray先生:自ら定期的に練習前後の体重を測定するのに加えて、尿の色や量からチェックすることもできます。水分補給が十分な場合、ヒトの尿は、リンゴジュースではなく、レモネードのような色になります。脱水症状になると、体内の水分量を維持するために尿量が少なくなります。尿の量が少なく色が濃い場合は、脱水症状の可能性が高いといえます。

チームによっては、トイレにカラーチャートを置いて、選手が尿の色に注意するように促しています。
 
脱水状態を判断するにあたり、尿チェックはどの程度の信頼性がありますか?
  Murray先生:研究室での解析であれば、尿を調べることで、色や量、比重または浸透圧からその人の水分補給状態について正確な情報が得られます。しかし競技場のロッカールームでは、もちろん、そこまでの正確さは求められません。

実際には、尿の色に注意するよう選手に促すことで、十分な水分補給の維持が大切だという意識が高まります。
 
選手は運動中にナトリウムを摂取する必要がありますか?
  Murray先生:汗をかくと身体からナトリウムが失われます。したがって、常に汗を流す運動選手にとってナトリウムが重要な栄養素であることは自明です。

ほとんどの人にとって、運動中に失われるナトリウムはそれほど多くなく、食品や飲料により容易に補給できます。しかし、多くのスポーツ選手が毎日2回トレーニングを行い、そのたびに大量の汗をかいていることは心に留めておく必要があります。スポーツ選手だけでなく、建設労働者、兵士、鉱山労働者、道路作業員、農業従事者も1日中汗をかいているので、同様に注意が必要です。

ナトリウムは汗の中の主要な電解質です。大量の汗をかく人のナトリウム損失量は非常に大きく、1日に10gを軽く超えることもあります。運動中のナトリウム摂取には多くの利点があります。例えば、飲水への欲求を保つことで、脱水症状を予防することなどです。

また、運動中のナトリウム摂取は、血液量の維持と排尿量の抑制にも関与します。これらは水分補給において重要な反応です。
 
他の電解質についてはどうですか?
  Murray先生:汗には、ナトリウムの他に、塩化物、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛などの微量なミネラル成分が含まれています。発汗により失われる量としてはナトリウムが他の電解質よりもはるかに多いのですが、大量に汗をかく場合は、電解質損失の総量が増える可能性があります。
 

4.スポーツ選手の効果的な水分補給法

スポーツ飲料が普通の水よりも有効となるのはどのような場合ですか?
  Murray先生:きちんと配合されたスポーツ飲料は、選手にとって付加価値のある水となります。スポーツ飲料は約94%が水であり、残りの6%のほとんどが炭水化物や電解質であることを覚えておいてください。

選手にとって、スポーツ飲料が水よりも有効な場合はたくさんあります。例えば、自発的な水分摂取の際は、脱水症状の危険性を減らす点において、水よりもスポーツ飲料の方が優れています。

スポーツ飲料は、血液量の維持および尿からの水分損失を減らす作用において水よりも優れています。さらにスポーツ飲料は、持久力と瞬発力の両者において活動筋が必要とする糖質エネルギー源を、即座に補ってくれます。選手が長時間の激しい運動で汗を流す際に、自分の身体を最大限活用したい場合、スポーツ飲料には、普通の水だけでは得られない効果が期待できるのです。

運動中にエネルギーではなく体液や電解質の補充を行いたい人には、カロリーゼロのスポーツ飲料という選択肢があります。
 
大会前後の食物摂取にはどのような役割がありますか?
  Murray先生:食物摂取は全般に、汗で失われるナトリウム、カリウムなどの電解質補充に役立ちます。さらに、練習や試合の前に良いタイミングで食事や軽食をとることでエネルギーが保たれ、より長く快適に運動できるようになります。また、食事や軽食は、選手が移動中に水分をとる絶好の機会にもなります。
 
カロリーゼロのスポーツ飲料は、運動誘発性低ナトリウム血症に関与する電解質を含んでいながら糖質を含んでいません。この用途や利点をお話しいただけますか?
  Murray先生:カロリーゼロのスポーツ飲料は、運動中に水分と電解質を補充したいけれどもエネルギーは必要ない、という人にとって、優れた水分補給の選択肢です。電解質は、正常な血中ナトリウム濃度の維持など、水分補給において重要な役割を果たしています。
 

5. 運動誘発性低ナトリウム血症のリスクを減らすには

最後になりますが、身体活動量の多い人は、どうすれば運動誘発性低ナトリウム血症のリスクを減らすことができるのでしょうか?
  Murray先生:活動内容に関係なく、汗をかく作業を行う人は誰でも、身体活動中の脱水症状を最小限に抑えるために、十分に水分をとることが最も重要です。ただし、飲みすぎてはいけません。

水分の必要性を測る最良の方法は、身体活動の前後に体重を測定することです。体重の減少、特に2%以上の減少は脱水症状の危険なサインです。反対に、体重の増加は飲みすぎの徴候であり、水分摂取量を減らしなさいという明確な警告です。また、長時間にわたって汗をかくスポーツ選手には、運動中にナトリウム入りスポーツ飲料を摂取し、食事中のナトリウム制限は避けるよう奨励すべきです。

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経歴
Bob Murray, PhD, FACSM
Dr. Bob Murrayは、現在、Sports Science Insights, LLCの創設者兼社長を務めている。ピッツバーグ出身で、スリッパリーロック大学で体育学の学士号と教育学修士号を取得。1974~1977年にオスウィーゴ州立大学の体育学助教授と水泳部監督を務めた後、大学院に戻りオハイオ州立大学で運動生理学博士号を取得した。1980~1985年にボイシ州立大学の体育学の助教授/准教授を務めた後、シカゴに移り、Gatorade Sports Science Institute(GSSI)の設立に尽力。学術書や科学雑誌への掲載・投稿多数。米国スポーツ医学会(American College of Sports Medicine:ACSM)の特別会員であり、ACSMの評議会の委員も務めた。2008年4月にGSSIを辞し、企業や組織が運動科学やスポーツ栄養学において科学的知識の価値と影響を最大限に利用できるよう、Sports Science Insights, LLCを設立している

免責事項
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本記事に記載されている情報は、医療と栄養の専門家によるアドバイスとは異なります。
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