


日本にはコカ・コーラ社製品を製造するボトラー社の製造工場が28工場あります。そこで一番多く使用する原材料は「水」。これは世界中どこへ行っても同じ基準・規格です。製品に使用する「水」は、製造工場において飲用適合レベルにある井戸水や水道水を更にコカ・コーラ社独自の方法により処理を行ういわゆる「水を磨く」プロセスを経て、製品の仕様に適した品質の水をつくります。 また、日本コカ・コーラがボトラー各社に供給しているのは自社の原液工場で製造する原液(主にフレーバーや添加物など)だけでなく、果汁、茶葉、コーヒー豆などの原材料も調達し品質確認を行いボトラー各社に供給しています。私が担当する「品質規格」は、これらの原液・原材料を使って全工場が、同じ品質の製品を製造するための基準をつくる仕事です。 製品には「味」、「色」、「pH」の他に、炭酸製品の場合は「炭酸ガス圧」など製品毎に様々な特性があります。また、使用している容器の種類(缶やペットボトルなど)によってもそれぞれ特性は異なります。例えば緑茶製品の「綾鷹」は、緑茶本来の旨みを引き出すため「にごり」を強調している製品です。もしこの綾鷹を製造する工場毎で違った「にごり」や「味」の製品を製造し、市場に出すとお客様の期待を裏切る事になります。そこで、綾鷹の場合は「濁度」や「色調」という指標を規格値の一部として設定し、製造工場で管理していただいています。このように、同じ品質の製品をお客様に提供するため、製品の特性に基づいた製品規格を設定し、製造基準書を作成しています。製造基準書はペットボトルや缶など容器の仕様も含めると年間200アイテムを超えます。この業務を現在は私を含めてわずか2名で行っています。 製造基準書は上記のような「風味」、「色調」、「pH」、「炭酸ガス圧」などの製品の特性を基に設定した「製品規格」、規格値を確認するための検査方法や製品の「レシピ」となる原液・原材料の配合や製造方法などで構成されています。この基準書が製品品質を保証する基本になるので、絶対に間違える事が許されない会社の生命線とも言える重要な任務を担っており、大きなプレッシャーを日々実感しています。


製造工程書の作成にあたってはマーケティング、R&D、コマ―シャリゼーションなどの各部門との連携が非常に大切です。例えばマーケティングでプランニングした製品について、R&Dがフォーミュラ(レシピ)を決めていく過程で、「このフォーミュラだと過去の経験から沈殿や分離が起こりやすい」といった品質上のリスクや製造工程でトラブルが起こらないかなど一つひとつ検証し、R&Dにフィートバックします。 一方、コマ―シャリゼーションではR&Dのフォーミュラをもとに、ボトラー社の各工場で実ラインテストを行い、商業ベースに乗せるための管理方法を導きだすのですが、その際に28工場で同一の品質を実現するために規格を決定するのが私たちの仕事。難しいのは各工場で設備・環境が異なり、なおかつ実際の商業化を急がなければならないという状況で、最終的な数値の落とし所をR&Dが設計したフォーミュラを基に過去の経験と実ラインテストで得られたデータを比較し、検討しななければいけないこと。 もしも我々が設定した規格値をもとに製造した大量の製品が、見本サンプルと味や外観が違う場合、製造途中で製品液を全て廃棄しなければなりません。また、製品が市場に出てしまった場合、、最悪は製品回収の事態になる可能性もあります。この様な場合、各チャネルへの製品納入が遅れますし、、販売計画も狂ってしまうため、絶対に問題を発生させるわけにはいきません。責任は重大です。 そうした事態を回避するために何よりも重要なのは関係者とのコミュニケーション。開発段階では、製造上あるいは商業化した段階で想定されるリスクをいかに潰していくかであり、製造開始後は現場からのフィードバックを吸い上げ、問題がないかを最後まで検証することが不可欠です。新製品の初回製造の日、ボトラー社の製造工場から電話がかかってくるといまだにビクッとしますね。


2008年の7月某日。上司から「日本のコカ・コーラシステムで年内にISO22000の認証取得を実現するように」と指示がありました。ISO22000は食品安全マネジメントシステムの国際規格で、メジャーなISO9001(品質マネジメントシステム規格)と比べると当時日本の食品業界において認証取得の実績が少ない規格でした。また、清涼飲料業界においてもISO22000を取得している企業は殆どありませんでした。ブランド力のみならず品質で常に業界をリードしてきたコカ・コーラ社がここで後れを取ることは許されません。しかし、いざ計画を始めると10月末には認証審査が終了していなければ年内の認証取得は難しいため、8月から3ヶ月間で導入から認証審査を完了するしかありません。通常ISO9001など実績のある規格を認証取得するまでには約1年かかります。しかも外部コンサルタントにサポートを依頼するケースがほとんどです。 しかし、3ヶ月という短い期間で導入サポートを請け負ってもらえる外部コンサルタントは存在しません。コカ・コーラシステム内では初、業界においても実績の少ないISO22000をわずか3カ月で認証取得という結果を出すためには、まず自分がコンサルタントととして工場を全面的にサポートする必要がありました。また、自らがコンサルタントとしてサポートするには、外部コンサルタントと同レベルのスキルを身につけることと、導入する工場側の了解を取り付け、短期間で結果を出すことが前提条件でした。幸いにして前職で食品安全のコンサルタントとしての実績と経験がありましたが、技術や情報は常に変化し進化していきます。そのため、外部講習会に参加し、専門家の方に会い、独学で知識を深めていきました。現場では、まず経営トップと工場長に提案を持ちかけたところ、工場長の反応は予想通り「うちの工場の実力では3ヶ月という短期間では認証は難しい」「夏の忙しい時期なので人に余裕がない」というものでした。私は必死で「年内にコカ・コーラシステム初の認証取得を達成するため私が責任を持って全面的にサポートします。若手のメンバーもこの経験を通じて『自分で何かをつくり上げた』という自信になりますし、必ずや組織の底上げになります」と食い下がり、ようやく「そこまで言うなら」ということでご協力いただくことになりました。 それからは工場の若手スタッフを中心に実行チームを作り、チームメンバーにISO22000についての規格解釈のトレーニングや具体的な実行策を指示することで、徐々に私の「分身」を増やしていきました。メンバーには微生物が得意だとか、設備が得意だというふうにいろいろなタイプの人がいました。その強みをうまく活用してメンバーのモチベーションを高め、プロジェクトを加速させ、組織としてのパフォーマンスを最大化したことで、奇跡的に3ヶ月月という短期間で認証取得を達成する事ができました。 自らがプロジェクトの方向性を考え、組織を動かし、結果を出していくということを求められているのがコカ・コーラ社の特徴。そこでいかにリソースを活かし、目標達成のためにリーダーシップを発揮していけるかが試されます。そういう意味でこのプロジェクトは、自分にとっても非常に大きな財産になったと思います。












