2007年のブランド誕生から10年。
それまでのPETボトル緑茶にはなかった「にごり」を加えるなど、
一貫して「急須でいれた緑茶」の味わいを目指してきた「綾鷹」。
その「綾鷹」「綾鷹 にごりほのか」が、大幅にリニューアルしました。
新しい「綾鷹」は、これまでと何が違うのか?
リニューアルプロジェクトのバックストーリーをお伝えする記事の後篇です。

(前篇はこちら)

文=小山田裕哉
写真=村上悦子

 

綾鷹」ブランドのリニューアルの背景に迫る本記事の前篇では、特徴的なPETボトルの形状は、陶器の湯呑みに見立てたものであることをお伝えしました。

綾鷹」ブランドを統括する日本コカ・コーラ株式会社 マーケティング本部の成岡誠さんは、新しいPETボトルの開発に至った経緯をこのように説明します。

「『急須でいれたような味わい』を消費者に届けるだけでなく、お茶の文化が担ってきた『もてなしの心』も『綾鷹』を通じて伝えたい。そのためには、味わいだけでなく、『お茶を飲む環境』の一つである容器にもこだわろう、と考えました。その結果、持ったときに手にぴたっとはまるように人間の手の形状を考え抜いてデザインされた伝統的な湯呑みの形を、PETボトルで再現することにしたのです」

このようにしてリニューアルのコンセプトが決まった後、開発部門での1年近い試行錯誤を経て、PETボトル飲料には非常に珍しい左右非対称の形状が採用されることになりました。

形状が決まったなら、次なる課題は「もてなしの心」というコンセプトを、いかにしてパッケージビジュアルに落とし込むかです。

「お茶のこころ」を伝えるために──新生「綾鷹」、常識破りのPETボトル開発[後篇]

マーケティング担当 成岡誠さん

 

■「慣れ親しんできた飲料だから、デザインは難しい」

「陶器の湯呑みに見立てたデザインというコンセプトが決まってからは、どうしたら陶器らしさをパッケージで再現できるかを考えました」

そう話すのは、リニューアルのパッケージデザインを担当した、日本コカ・コーラ株式会社 デザインイノベーショングループの原田朋子さん原田さんは従来の「綾鷹」「綾鷹 にごりほのか」のパッケージデザインも担当してきています。

「PETボトル緑茶のパッケージデザインは、ほかの飲料に比べて難しいですね。緑茶は日本人が慣れ親しんできた飲み物ですから、消費者の頭の中に『緑茶とはこういうもの』というイメージができあがってしまっています。そこから外れすぎたら緑茶にふさわしくないし、それをなぞるだけだとブランドの独自性が出せない。人々が抱く緑茶のイメージの範囲内で、どうやって『綾鷹』らしさを出していくのか。それが、当初からのデザインの課題でした」

数あるPETボトル緑茶の中で、「綾鷹」が持つ独自性は「急須でいれたような味わい」を追求していることにあります。では、どうしたら「急須でいれたような味わい」をデザインで表現できるのでしょうか。

 

■手づくりの温かみが感じられるデザインに

「急須でいれたお茶の価値とは何かを考えると、それは『人の手の温もりが感じられる』ことだと思いました。誰かが茶葉から丁寧にいれてくれたような印象を与えなければ、単に喉を潤すだけの飲料になってしまう。PETボトル製品であっても、手づくりの温かみを感じられるデザインにすることが必要だったのです」

そこで原田さんは従来のパッケージのデザインにあたり、徹底的にディテールにこだわりました。和紙の柄を基調にしていますが、その和紙はグラフィックで再現したものではありません。原田さんが自ら「綾鷹」のイメージに合う和紙を探し、そのスキャンデータをデザインのベースにしたのです。

「触ったときの素材感にもこだわりました。ピカピカのプラスチックのラベルではなく、マットコートをかけることで、PETボトルを持ったときに『和』の雰囲気を感じてもらうようにしました。さらに、にごりが舞う様子を表現するために下にいくほど色が濃くなるようにグラデーションを入れました。そうした細かい要素を積み重ねた結果、『急須でいれたような味わい』がパッケージからも直感的に伝わるようになったのです。PETボトル緑茶の中でも『綾鷹』が本格的なお茶であると認識してもらうのに、パッケージデザインが大きな役割を果たすことができたと自負しています」

 

■人々が共通してイメージする“陶器らしさ”とは?

こうした細部へのこだわりによって、「綾鷹」はパッケージからも「本格・上質」といったブランドイメージを伝えてきました。だからこそ、今回のリニューアルでも原田さんは、リアルな陶器らしさの表現にこだわったのです。

「まずは陶器の歴史をかなり調べました。陶器と磁器は原材料が違う(陶器は土、磁器は石)といった基本的な知識から始まって、お碗の呼び方も、お茶を注ぐものは『お茶碗』、ご飯をよそうものは『めし碗』と呼ぶとか、茶道では茶人に好まれる陶器として『一楽・二萩・三唐津』と表現されるなんて知識も身につきました。

綾鷹』の開発協力をしている上林春松本店のお茶は、は古田織部(戦国時代の武将で、茶人としても名高い人物)も愛したお茶です。そんな縁があるので、織部焼についても調べたのですが、検証していくほど、陶器の茶碗は特徴を追求しすぎると、産地や流派が際立ってしまうことが分かりました。つまり、デザインを特定の茶碗に似せてしまうと、それにしか見えなくなってしまうということです。たとえば、萩焼っぽいデザインにすると、萩焼にしか見えなくなってしまい、『綾鷹』らしさがなくなってしまいます」

だからパッケージビジュアルは、人々がイメージする“陶器らしさ”の記憶の断片と重なるような、でも実在はしない、綾鷹オリジナルな表現にする必要がありました。

「お茶のこころ」を伝えるために──新生「綾鷹」、常識破りのPETボトル開発[後篇]

パッケージデザイン担当 原田朋子さん

 

■形状は左右非対称、焼き物ならではの色ムラも再現

「まずは形状がアシンメトリー(左右非対称)であること。それによって手づくりの温かみが感じられます。それから釉薬(ゆうやく。陶器を焼く際にかけるうわぐすりのこと)がたれている様子が分かること。ほかには焼き物ならではの色ムラがあり、質感もマットな部分とツヤのある部分の両方があること。そうした特徴を兼ね備えることで、誰が見ても陶器の湯呑みを再現したものと感じられるデザインになりました。

ただ印刷の際の加減が難しくて、印刷所での校正を何度も行いました。陶器の貫入(ひび割れ)を表現した部分の色が濃くなりすぎると、PETボトル飲料のデザインとしては重い印象を受けすぎますし、薄すぎると貫入を入れた意味がなくなってしまう。だから、PETボトルの凹凸のゆがみに応じて文字の位置も微調整を繰り返しました。その結果、PETボトル飲料としては、これまでにないパッケージデザインになったと思います」

「お茶のこころ」を伝えるために──新生「綾鷹」、常識破りのPETボトル開発[後篇]

並べてみると、
それぞれの違いとこだわりがよく分かる

一方、「綾鷹 にごりほのか」には、「綾鷹」に比べて苦みが抑えられており、より繊細な旨みが楽しめる味わいであることを伝えるという課題がありました。それを「綾鷹」と同じ形状のボトルでどのように表現するか。行き着いた答えはまったく異なるモチーフを採用することでした。竹の梁に和紙を張った灯りに着想を得て、和紙に透ける光のやわらかさを「綾鷹 にごりほのか」の味わいのイメージに重ねて表現したデザインにしました。こちらも和紙の素材感の表現にこだわった結果、「綾鷹」同様、完成までに50~60ほどのデザイン案を作成したそうです。

 

■お茶の文化を牽引するブランドを目指す

湯呑みに見立てた凹凸のある左右非対称の形状は、実際に手に取ると、驚くほど手に馴染みます。しかし見た目のインパクトが強いため、前出の緑茶グループマネージャーの成岡誠さんにも、「果たして消費者に受け入れられるのだろうか?」という不安があったそうです。

「開発にあたっては何度も消費者調査をかけたのですが、結果が出るまでに1ヵ月くらいかかるんです。その期間は正直、不安でいっぱいでしたね(笑)。でも最終的には、『新しいPETボトルで飲むことで、<綾鷹>の味わいがさらにおいしく感じられる』という反響が得られて、これまでの苦労が報われたと思いました」

パッケージデザインを担当した原田さんも、同じ思いを抱いていました。

「従来のPETボトル飲料の常識を超えたデザインなので、本当に消費者調査をクリアできるのかなと心配でした。陶器らしさにこだわったパッケージが、かえって重い印象を与えてしまったら、『苦そうなお茶』という間違ったイメージを持たれるかもしれない。本格的なお茶を気軽に手に取ってもらいたいという思いがあったので、ポジティブな評価を得たと分かったときには、ほっとしました」

3月20日から、新しい「綾鷹」「綾鷹 にごりほのか」は店頭に並んでいます。成岡さんはリニューアルによって、「『綾鷹』が日本のお茶の文化を牽引するブランドになってほしい」と語ります。

「私たちが伝えたいのは、『急須でいれたお茶』のある生活の豊かさです。手でいれたお茶に『綾鷹』が取って代わろうとは思っていません。本格的なお茶の入り口として、『綾鷹』を手にとってほしい、そしてお茶のおいしさを知っていただくことで、実際に急須でいれたお茶を飲むきっかけをつくれるのが理想だと考えています。特徴的なパッケージも、日本のお茶の『もてなしの心』を消費者のみなさんに感じていただくための手段です。伝統的なお茶の文化を伝えることが、『綾鷹』の使命だと思っています」

 

<プロフィール>
なりおか・まこと / 1999年、日本コカ・コーラ入社。2003年よりマーケティング本部にて、「爽健美茶」「ジョージア」「アクエリアス」を担当。14年からはティーカテゴリーの緑茶グループにて「綾鷹」ブランドを担当。15年から同グループのグループマネージャーを務める。

はらだ・ともこ / ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの運営会社で、パーク内の店舗開発や商品デザインを担当した後、2004年に日本コカ・コーラ入社。「ジョージア」などの担当を経て、現在は「爽健美茶」「い・ろ・は・す」「ファンタ」「綾鷹」などのブランドビジュアルデザインを主に手掛けている。

 

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