文=マッケンジー・ランスフォード

 

■カーホップ=注文の品を車まで届けるウェイター・ウェイトレス

アメリカで1973年に公開されたジョージ・ルーカス監督の映画『アメリカン・グラフィティ』は、1960年代のアメリカ文化を象徴する光景がふんだんに盛り込まれた青春映画の名作です。物語の舞台となるのは、ドライブインレストラン『メルズ』。そこでは、ローラースケートを履いたウェイトレスが、「コカ・コーラ」やハンバーガーを乗せたトレイを手に、クラシックカーの間を行き来します。このように、ドライブインで注文した品をローラースケートで、もしくは歩いて車まで運んでくれるウェイターやウェイトレスは、「カーホップ」と呼ばれています。

第二次世界大戦後のアメリカで、自動車は、経済復興と自由主義社会復権の象徴でした。中でも、自家用車の運転席から離れることなく、ハンバーガーやソーダを好きなだけ楽しめるドライブインは、人々が自由を手にしたことを実感できる格好の場だったのです。モンタナ州のドライブイン『マッツ・プレイス』のロビン・コックヒルは、「若者にとっては、仲間と一緒にいながらもプライベートな空間を確保でき、さらにはおいしい食事も楽しめる便利な遊び場だったんだと思います。一方、子どもを持つ親には、車から子どもを乗り降りさせたり、食事を自分たちで運んだりする手間が省ける点がウケたようです」と語ります。

それから40年以上の月日が流れ、誰もが車の中で食事をしたがる時代も過ぎ去りました。コックヒルによると、現在の『マッツ・プレイス』は、昔ながらのカーホップのサービスを受ける人よりも、店内のカウンターに出向く人の方が多いそうです。「新しい車を汚したくないから車の中では食べない、という風に人々の意識が変わってきているのかもしれません。昔はそれがおしゃれだったんですけれどね」と彼女は言います。

アメリカン・グラフィティ』で一躍有名になったドライブイン『メルズ』は現存し、カリフォルニア州内に数店舗を構えていますが、もはやそこでローラースケートを履いたカーホップの姿を見ることはできません。

24時間営業の『メルズ』ウエスト・ハリウッド店で、深夜~早朝のシフトを担当する従業員のガイ・ウィリアムズにその理由を聞いてみると、「詳しい事情は分かりませんが、安全上の懸念があるからじゃないでしょうか」という答えが返ってきました。『メルズ』は今でも日々、大勢のお客さんを迎えていますが(中には、ハリウッドの大物俳優もいるそうです)、カーホップがいなくなったことへの不満は聞かれないようです。「多くのお客様にお越しいただける理由は、第一に食べ物がおいしいこと、第二にレトロな雰囲気を味わえることだと思いますね」とウィリアムズは言います。

レストランの形態の多様化や消費者の嗜好の変化を受け、カーホップのいるドライブインは今やすっかり珍しくなってしまいました。でも、戦後アメリカの香り漂う昔ながらのドライブインも、ごく一部残っています。そんな、“なつかしの”ドライブインを五つご紹介します。

 

■『ザ・バーシティ』:広さと「コカ・コーラ」販売量が世界一

 

ジョージア州アトランタのザ コカ・コーラ カンパニー(米国本社)からわずか数ブロックの距離にある『ザ・バーシティ』は、世界最大の規模を誇るドライブインです。近くにはジョージア工科大学のアメリカンフットボールチームのホームスタジアムがあり、試合のある日には観客でごった返します。来客数は多いときで、1日3万人にものぼるそうです。

ザ・バーシティ』は87年もの間、アトランタの中心街で営業を続けています。2万平方メートルの広大な敷地には、800席を備えた店舗と、自動車630台分の駐車スペースがあります。『ザ・バーシティ』での「コカ・コーラ」の売り上げ数量は全飲食施設の中でも世界一で、名物メニューの「バーシティ・チリ」、ホットドッグやパイなどとともに、大勢のカーホップによって自動車に届けられています。

 

■『マッツ・プレイス』:合衆国が認定したレトロな店舗

 

1930年にモンタナ州ビュートで開店した『マッツ・プレイス』。1943年にルイスメイローレンス夫妻が事業を買い取り、店舗の2階の住居に移り住んでからは、正真正銘の“家族経営”で存続してきました。前出のロビン・コックヒルは、ローレンス夫妻の娘であり、夫のブラッドとともにドライブインの共同オーナーを務めています。「これまで40人以上もの親戚がここで働いてきました。ここで稼いだお金を学費に充てて、大学に進学した者も何人もいますよ」と彼女は言います。

創業以来変わらぬ姿を保ってきた『マッツ・プレイス』は、その歴史的な価値を認められ、アメリカ合衆国の国家歴史登録財(*1)に指定されています。カーホップをはじめ、自動車の窓の縁に掛けて使うトレイでの提供など、古きよきドライブインのサービスも健在。以前と比べると、それらのサービスを頼まない人も増えたそうですが、逆にノスタルジックな雰囲気に浸るためにやってくる人も後を絶ちません。

「最近では、古いものの良さを見直す風潮が広まってきたと感じます。多くの人にとって、カーホップから受けるサービスはかえって新鮮な体験なので、かっこいいと感じられるのかもしれませんね」(コックヒル

また、店内も見どころたっぷり。コックヒルの母親メイ・ローレンスが内装を手掛け、20世紀半ばから変わらない家庭的なスタイルを守り続けてきました。このなつかしい雰囲気を好んで、店内で食事をする人も多いと言います。

2016年には、ジェームズ・ビアード財団(*2)が、料理の質の高さと時代を超えた魅力を備えたレストランに授与する、「アメリカン・クラシックス・アウォード」を受賞しました。昔ながらのディスペンサーでコーラフロートやミルクシェイクを提供し続ける『マッツ・プレイス』は、この賞にふさわしい存在と言えるでしょう。

*1 アメリカ合衆国国家歴史登録財:アメリカの文化遺産保護制度の一つで、登録されると租税優遇措置を受けることができる。ニューヨーク州会議事堂などが登録されている。
*2 ジェームズ・ビアード財団:多くの料理本を著し、アメリカの料理界の発展に寄与したジェームズ・ビアード氏(1903-85)を記念して設立された財団。優れたシェフに与えられる「ジェームズ・ビアード賞」は「料理界のアカデミー賞」として世界的に有名である。

 

次のページ>> 独自サービスを打ち出す個性派ドライブインの数々

「1」 「2」 次のページ≫