文=マシュー・ヘップバーン

 

■子どもの頃からトラックが好きだった

クリスマスシーズンの「コカ・コーラ」広告には、例年、まばゆいばかりの照明で装飾されたトラック(以下“クリスマストラック”)が幾台も連なって走る、いわゆる「クリスマス・キャラバン」の模様が描かれています。英国在住のマット・スミスはその広告を幼い頃から見て育ち、いつの日からか、「自分でクリスマストラックを運転したい」という夢を抱くようになりました。

「子どものころからトラックが大好きで、おもちゃのトラックで遊んだり、母の日のカードにトラックの絵を描いたりしていました。そして現在の仕事は、好きさ高じてトラックの運転手です。仕事で英国各地を飛び回ったり、欧州の数ヵ国を訪れたこともあります。それでも、世界的に有名なクリスマストラックの運転席に座るというのは、何物にも代えがたい体験だと思うのです」とスミスは語ります。

スミスは嚢胞性線維症(のうほうせいせんいしょう)という難病を患っています。この病気は次第に症状が進行していくもので、いずれ彼は、トラックの運転手を続けられなくなる運命にあります。

「自分が運転できる時間は限られている……」
そう考えた彼は、2015年の8月、友人たちの後押しもあって、「クリスマストラックを運転したい!」という夢を世界に発信する決心をします。

「以前から、嚢胞性線維症のことや、自分が病気に負けずに頑張っていることを多くの人に知ってもらいたいと思っていました。あるとき友人の一人が、『ポスターをつくってインスタグラムやツイッター、フェイスブックで発信してみたら? 私からも友だちに拡散をお願いするから』と言ってくれたんです。すべてはそのアドバイスを実行したことから始まりました」と彼は振り返ります。

 

コカ・コーラ社が受け取ったSNSのメッセージ

スミスがフェイスブックに書き込むや否や、彼のメッセージは爆発的に拡散され、シェアされた数や「いいね!」が押された数は数時間のうちに5万件を超えました。彼の思いは友人の輪を超えて、多くの人々の心に届き、支持されたのです。そして、彼のメッセージはコカ・コーラ社にも届きました。メッセージを見たコカ・コーラ社は、すぐに彼の夢の実現に協力しようと動き出しました。

コカ・コーラ社はまずツイッターを介して、私のメールアドレスを問い合わせてきました。それからメールと電話で何度かやり取りをした後、彼らはクリスマストラックを運転させてくれると申し出たのです。それを聞いたときは、信じられない気持ちでした」とスミスは言います。

「これまでもクリスマストラックが近所までやって来たことはあったのですが、いつも見逃してしまっていたんです。昨年もぜひ見たいと思っていましたが、運悪く入院の時期と重なってしまいました。テレビで見ているだけだと、クリスマストラックは想像上の存在のようで、それが実在しているということをなかなか信じることができません。だから、実際に目にして運転し、その存在を肌で感じたいという思いが膨らんでいったのです」

 

■長年の夢が叶った!!

2015年の10月、とある私有地にクリスマストラックがやって来ました。そして、スミスコカ・コーラ社の関係者以外で初めて、クリスマストラックを運転することができました。応援に駆け付けた友人や家族が見守る目の前で、スミスは幼少期からの夢をついに実現させたのです。

 

「忘れられない体験となりました。クリスマスデコレーションで覆いつくされたトラックが目に入った瞬間から、運転席に乗り込むまでは、ずっと夢見心地でした。運転席に座ると、運転手の一人がギアの入れ方などを指導してくれました。私が最近仕事で運転するトラックは、最新機能を備えたものが多く、運転席はまるで宇宙船のコックピットのようです。しかし、クリスマストラックは従来型のトラックを使用しているので、運転席も慣れ親しんだタイプのものでした。

運転している間はテンションが上がりっぱなしでした。ギアチェンジして加速するたびに、思わず笑みがこぼれてしまったほどです。おかげで頬がまだ筋肉痛ですよ! 指定されたコースの終わりまで来ると、サプライズで、コーラス隊が『Holidays are Coming』の合唱で出迎えくれました。最高の気分でした」

 

■難病患者にだって、さまざまな可能性がある

最後に、スミスに、今後は嚢胞性線維症の啓発活動をどのように続ける予定なのか尋ねてみました。

「できるだけ長く働き続けたいと思っています。嚢胞性線維症を患っていても、トラックの運転手のような仕事の要求度の高いものもこなせるんだということを、身をもって示したいからです。同じ病気で苦しんでいる他の患者さんにも、さまざまな可能性があるんだということを伝えたいですね」

クリスマスシーズンの「コカ・コーラ」の定番コマーシャルソング「Holidays are Coming」は、1995年に初めてテレビで流れました。実は、スミスがクリスマストラックを運転した2015年は、「Holidays are Coming」が登場して20年目という節目の年でもあったのです。

英国コカ・コーラ社でマーケティングディレクターを務めるボビー・ブリテンは、次のように述べています。「スミスさんにクリスマストラックを運転する機会を提供することで、『Holidays are Coming』の20周年をお祝いできたのは、私たちにとっても素晴らしい体験でした。運転席に座って感激している彼の表情が輝きに満ちていくのを見たとき、クリスマスを特別なものするのは、このようなハッピーなひとときなのだと、あらためて実感しました」