元『広告批評』編集長が、独自の視点で
コカ・コーラ製品に関するクリエイティブを分析します。
第1回目は、「Share a Coke and a Song」キャンペーンについて。

文=河尻亨一


 コカ・コーラのPETボトルのラベルに印刷された「1974」の年号。筆者が生まれた年である。年号の下には9桁のコードが記載されている。それを専用サイトに入力すると、サディスティックミカバンドの「タイムマシンにおねがい」が流れ始めた。 

 筆者がコードを打ちこんだのは、この春スタートした「Share a Coke and a Song」のキャンペーンサイトである(http://www.coke-musicunlimited.jp/)。このプロジェクトは、ブランドコミュニケーションの取り組みとして新鮮さを感じさせるだけでなく、日本と世界で展開されてきた“コカ・コーラ広告史”の秘密をひもとく鍵としても興味深い。

 そこへの扉を開く前に、冒頭でも触れたこのキャンペーンの概要をもう少し詳しく解説しておきたい。ご存知の方も多いと思うが、現在日本で発売されているコカ・コーラのPETボトル(ラベル部分)には、「1957」~「2013」までの西暦年号がデザインされている。1957年は日本でコカ・コーラが発売された年である。

 仕組み自体はいたってシンプルだ。私がやってみたように、キャンペーンサイトにコードを入れるだけで、その年のヒットソング10曲(邦楽と洋楽)で構成されたコカ・コーラ オリジナルのプレイリストがすぐに楽しめる。購入したPETボトルに書かれている年以外の時代の曲も、それぞれ30秒試聴することが可能だ。ここには500曲を超える“思い出の歌”がギュッと詰まっている。

 つまり、「タイムマシンにおねがい」の歌詞ではないが、色んな世代の人びとが“歌を通じて”色んな時代を旅できるようになっている。曲をソーシャルメディアでシェアしたり、自分にとって「どんな年だったか?」を書き込めるようにもなっており、懐かしい思い出を投稿している人も多い。

 コカ・コーラの歴代CMソングからピックアップした歌を試聴できるコーナーもあった。個人的に忘れられないCoke Songをお持ちの方も多いだろう。コカ・コーラのコマーシャルは、多くのヒットソングを世に送り出してきた(※次回以降の連載で詳述)。それらの曲を時系列で追うと、このブランドに貫かれるスタンスのようなものさえ見えてくる。それは「“今”という時代につながろう」とする意志だ。

 ゆえに2010年代においては、インターネットを活用したコミュニケーションにも力を入れているのだろう。「Share a Coke and a Song」は、いわゆる“おまけ付き”キャンペーンであり、その発想自体は昔からあるものだが、新しい技術を用いることで、「イメージ」に留まらない「体験」(このケースでは音楽体験)を生活者にデリバーしているところが、今を考える上で興味深い。

 なぜか? 現代は情報過多を通り越して、その流通量の全体像をイメージすることさえ難しい時代だ。そんな時代のブランドコミュニケーションにおいては、「体験」と「物語」のクリエイションが重要となる。

 自分を見失ってしまいそうな気さえする情報洪水の中で、「確からしさ」を求めている生活者は多い。バラバラに飛び込んでくる情報の受容より、さらに一歩深いところにある生身度(ライブ性)の高いコミュニケーションのほうに信を置く傾向がある。「物語」とは自分との関わりを感じられる一連の情報のつらなりのことだ。たとえば、筆者が自分の生まれ年がラベルに入ったPETボトルを探して購入したのも、そこに自分との接点を感じたからだ。

 このあたりの詳細は次回執筆するが、そういったフィロソフィーに基づくトライアル(「体験と物語」でいかにコミュニケーションするか?)は、日本だけでなく、現在の世界中のコカ・コーラキャンペーンにも見ることができる。

 古くて新しい。ローカルかつグローバル。一見矛盾するかに思える両者を結びつけ、その時代の旬の技術やメディアを用いて果敢に“冒険・開拓”し、コミュニケーションの力で世界を魅了している。それが私が数多くのコカ・コーラ広告に接してきて感じる印象である。

 6月に開催された「Cannes International Festival of Creativity」(カンヌライオン※旧カンヌ広告祭)において、ザ コカ・コーラ カンパニーが栄誉ある「Creative Marketer of the year」に選出されたのも、そこに理由があると思う。

 そして、数々のブランド体験とそこに生まれるコミュニケーションを通じて、コカ・コーラがシェアしたいこと。それは「HAPPINESS」だ。コカ・コーラのボトルにはそれが詰まっているというのが、19世紀に製品が誕生して以来変わらぬこのブランドの真髄だろう。今回の「Share a Coke and a Song」について言えば、「好きな歌、思い出の曲を聴ける幸福」はあらゆる世代に共通でシェアもしたくなる、というインサイトに着目している。誕生年に関わらず、入学・卒業など思い出深い年はだれにでもある。

 変わらぬものがある一方で、幸福観やその伝え方のほうはカルチャーによっても異なるし、時代につれ変化していく部分もある。当連載では、日本と世界、現在と過去のCoca-Colaキャンペーンを行き来しながら、それらを筆者なりの視点で分析し、そこから学べる「HAPPINESS」の届け方を考察していく。読者にとってなんらかの気づきがある記事になれば、書き手にとってこれ以上のハッピーはない。

※「コカ・コーラ」「Coca-Cola」「Coke」はThe Coca-Cola Companyの登録商標です。