元『広告批評』編集長が、独自の視点で
コカ・コーラ社製品に関するクリエイティブを分析します。
連載第2回目は、「街角」でのさまざまなキャンペーンについて。


文=河尻亨一


 前回は「Share a Coke and a Song」キャンペーンを紹介した。詳細はそちらをお読みいただきたいが、これは1957年~2013年のヒットソングで構成されたオリジナルのプレイリストをインターネット経由でお客様に提供する取り組みである。そしてこのキャンペーンからは、コカ・コーラがデジタル化の著しい「今」とヴィヴィッドにつながろうとしているのでは? という趣旨のことを述べた。

 そう書くと、コカ・コーラがソーシャルメディアを含む、最新のデジタル技術やトレンドを取り入れることだけに力を注いでいるという印象を与えるかもしれない。しかし、実はそれだけではない。今回は一転して“アナログ”と思える側面からアプローチしてみたい。

 筆者は今、イタリアのナポリにいる。毎年6月に南仏で行われるカンヌ国際クリエイティブ祭の取材を終えたのち、束の間の休暇を過ごそうとやって来たのだが、街中のカフェやピザ屋、海辺の売店を見ていて気づいたことがある。店頭でコカ・コーラのグラフィック(ロゴやイラスト広告等)をやたらと目にするのだ。それらの多くは飲料を冷やす冷蔵庫や店の看板などにプリントされている。

Coca-Cola ADventure―そのクリエイティブ・ストーリーに見るHAPPINESSの届け方
第2回 コカ・コーラはいつでも世界の街角にある

ナポリで見かけた売店。このビジュアルを頻繁に目にした。


 今の時期の日中、ナポリはかなり日差しが強く街歩きには飲料が欠かせない。各種ミネラルウオーターから果実系のジュース、スポーツドリンクなどさまざまな商品が街中のお店に並ぶ中で、それが世界でもっともポピュラーで、歴史のある清涼飲料であるとはいえ、コカ・コーラだけが“別格”扱いされているのが不思議と言えば不思議だ。

 しかし古い港町にコカ・コーラの赤色は映え、それは街の風景に溶け込んでいた。サンタルチアの売店で1本買って飲んでみたのだが、旅先だからだろうか? 日本で飲むコカ・コーラと同じ味なのに、新鮮な感じがした。体験とはそういうものだ。

 多少大げさに言うと、一本のコカ・コーラが私と見知らぬ場所を結びつける。「○○というお店で、評判の□□という料理を食べてみたい」という心理にも似て、味もさることながら、そこにある体験や物語に人は価値を見いだす。

 お気づきのように、これはナポリだけの話ではない。コカ・コーラは街角を“メディア”として活用することに長けたブランドだ。日本で言うと、都会であれ地方であれ、町のアチコチにある赤いベンダー(自動販売機)がそれにあたる。あまりにも見慣れた風景なので我々は日頃それを意識することはないが、言われれば多くの人がそういった光景を思い起こすことができるだろう。

 ナポリの人たちも、街中にそんなにたくさんの“コカ・コーラ広告”があるなんて、日頃意識せずに暮らしていると思う。外国人である筆者が、第三者の視点で街をウォッチしていたからこそ、その多さに気づいただけだ。

 だが、“意識させないのにそこにある”ということは、コミュニケーション戦略上重要なことでもある。「無意識に継続的にアピールするものこそ、人の心の奥底に宿りやすい」からだ。

 私がイタリアでたまたま目にしたように、「Coca-Colaのある風景」は世界中のいたるところに存在しているのだと思う。その意味でコカ・コーラは「街角の力」(無意識の存在感)を知るブランドでもある。

 店先に出ている看板やベンダーの一つひとつは地味なものかもしれない。だが、人びとの暮らしに近い場所で、そうやって“寄り添い続ける”ことで蓄積される何かがある。それは次第に商品ではなくカルチャーとして認識されるようになり、浸透したカルチャーには“賞味期限”がない。

 こういったアプローチでのイメージの伝え方は昔ながらの古くさいものだろうか? いや、必ずしもそうではない。街角(=リアルスペース)は、今ふたたび“メディア”として注目を集めている。前回も述べたように、情報爆発化の進む社会において人びとは、“夢のようなイメージ”というよりも、より“確からしい何か”を求める傾向が強いからだ。

 実際、ここ数年のカンヌ国際クリエイティブ祭でも、ベンダーを用いたコカ・コーラの街角キャンペーンの中には興味深いものがいくつも見られたし、高く評価されもしていた。それは世界中で展開されている。

 たとえば「Happiness Machine」とタイトルされた2010年の取り組みの一つは、通常の2倍サイズの大きなコカ・コーラのベンダーが、メキシコシティをはじめ世界複数の都市にお目見えするものだった。このベンダー、サイズが2倍だから、通行人がコカ・コーラを買おうとしても、コインのインサート口まで手が届かなくなっている。でも、この風変わりな巨大ベンダーに関心を持った人たちは、なんとかコインを投入しようとして、友だちや知り合いに肩車してもらうなどして買う。すると、 1本ぶんの料金で2本のコカ・コーラが出てくるという仕組みになっている。やっと手に入れられたうれしさを友だちや周囲の人びととシェアして欲しいというメッセージが、この取り組みには込められているのだろう。

 特筆すべきはこの映像のYou Tubeでの再生回数だ。実際にこの特製ベンダーでコカ・コーラを購入することができた人はそんなに多くないとはいえ、映像が話題になることで、世界中の人びとがこの試みの存在を知り、疑似体験したことになる。行ったことがない世界の街角を“シェアした”と言える。

 同じくカンヌで昨年グランプリを受賞した「Re-Brief “Hilltop”」プロジェクト(Googleとのコラボレーション/※1)や今年話題になった「Small World Machine」(※2)もベンダーを活用したキャンペーンである。いずれも単なるベンダーではなく、そこに新しいテクノロジーを組み込むことで、「アナログ×デジタル」による相乗効果を生み出しているところがポイントだ。私が前回「古くて新しい」と書いたのは、そういうことでもある。

 街角(リアルスペース)での出来事をその時代や場所に合ったやり方で“楽しい出来事”に変える。コカ・コーラというブランドは、そういった精神を大切にし続けているのではないだろうか? と、ふと旅先で思った。

Coca-Cola ADventure―そのクリエイティブ・ストーリーに見るHAPPINESSの届け方
第2回 コカ・コーラはいつでも世界の街角にある

カンヌ国際クリエイティブ祭60周年の記念ボトル


※1  ベンダーを通じて世界の見知らぬ人たちにコカ・コーラをプレゼントしたり、コミュニケーションできる。世界中の人種が国境を超えて丘の上に集いコカ・コーラを楽しむ往年の名作CMのコンセプトはそのままに、それを「テレビ映像として鑑賞するのでなく、モバイルを使って実現する」という視点でリメイクした。

※2 インドとパキスタンの人たちの交流をサポートするキャンペーン。ベンダーがインターフェイスになっており、互いの姿が見えるモニター越しにさまざまなやり取りができる。