ファッションシーンの牽引者であり、
イノベーターでもある藤原ヒロシさん清永浩文さん
お二人は、SNS全盛のいま、ファッションビジネスの現状を
どのように捉えているのでしょう。
そして、自らのビジネススタンスを、
どのように確立していくつもりなのでしょう。
Coca-Cola Journey』のために、特別に話していただきました。

*本企画は、『Coca-Cola Journey』主宰で行われた初めてのトークセッションイベントの模様を記事化したものです。

聞き手=榎本一生
構成=神田桂一
写真=森本菜穂子

 

■PRの場所も、やり方も、変わった

榎本一生(以下、榎本):モデレーターを務めます榎本と申します。本日のトークセッションのテーマは「SNS時代のファッション」。スマートフォンの普及は、ファッションの消費のされ方をがらりと変えました。“店頭で買う”から、“ネットで買う”消費スタイルへ、“雑誌広告を見て買う”から、“Instagramのインフルエンサーの投稿を見て買う”消費スタイルへと、消費者の消費行動を変えたのです。この変化は、世界の企業のコミュニケーション戦略にも影響を与え、テレビなどマスメディアによるコミュニケーションから、インターネットや体験型イベントなどによるOne To Oneマーケティングへとその戦略の中心を移しつつあります。

清涼飲料のリーディングカンパニーであるコカ・コーラ社もすぐさまその動きに対応し、『Coca-Cola Journey』を起ち上げました。そして、藤原ヒロシさん清永浩文さんなどのインフルエンサーに関するコンテンツも掲載することで、消費者との新しい関係性を築きつつあります。

この流れは、藤原ヒロシさん清永浩文さんらがご活躍されているファッション業界でも同様だと考えます。おそらく、インターネット社会の到来とSNSの普及はお二人のビジネス(ブランディングやセールスなど)も変えたのではないでしょうか。実際インターネットとSNSはお二人のビジネスをどのように変えたのか。そしてお二人は、今後、どのようにメディアと向き合い、メディアを採り入れていくのか。大いに語り合っていただければと思っています。

藤原ヒロシ(以下、藤原):この手の話しは、みなさんよりも僕の方が勉強しなきゃいけないかな(笑)。SNSを見てものを買いたいと思ったことがあんまりないんですよ。

榎本:企業が商品をPRする場合、昔だったらテレビや雑誌や新聞などのマスメディアを使って消費者に情報を届けることが主流だったと思うんですけど、最近では、web上がPRの主戦場に置き換わったと言っても過言ではありません。その現実は、お二人のビジネスやクリエイションに変化をもたらしましたか?

SNSは、ファッションビジネスをどう変えたのか 藤原ヒロシさん×清永浩文さん 「SNS時代のファッション」

SNSは、ファッションビジネスをどう変えたのか 藤原ヒロシさん×清永浩文さん 「SNS時代のファッション」

この組み合わせでのトークイベントは初めて。
公私共々付き合いのある二人ということもあって、常時和やかに話は進んだ

 

清永浩文(以下、清永):PRの仕方は変わってきましたね。《SOPH.》のインターネット販売がスタートしたのは2016年なので、業界では最後発の方なんですけれども、以前のように、発売前に商品をPRするということはなくなりました。《Apple》のPR戦略などに顕著ですが、4、5年前から、製品の発表後に即売する、あまり前パブ(事前PR)をしすぎない、そのような売り方になってきているような気がします。あまり前パブをしすぎると、発売するまでの間に消費者に飽きられてしまう。

藤原でもファッションは展示会で発表してから発売までタイムラグがありましたよね?

清永世界的にはファッションショーからそのまま販売というのが主流になってきています。日本でも「ガールズコレクション」(*ショーの中でモデルが着ていた服を、その場で買える)がやっていますね。ただ、《SOPH.》の展示会は一般公開していないクローズドなものなので、あまり関係はないんですが。

藤原そういう意味では、僕は今の消費者に近いのかもしれない。基本的に、ほしいと思ったときが買いたいときなんですよ。だから最近は、ほとんど展示会は行かなくて。伊勢丹とか、そういうところにたまたま買い物に行って、いいものがあったら買うスタイル。清永君が言っているスタイルにぴったりはまってる消費者。そういう感じがする(笑)。

榎本それだけにSNSにいつ、どんな情報を出すかが重要になる?

清永SNSでのPRは、TwitterもInstagramもLINEも全部やらないといけない時代です。そこで、何の情報をどう出すか、うちのPRは大変です。よく言われるようにファッション誌の影響力は年々落ちてきていて、ブランドがダイレクトに提供する直前情報のほうが、消費者に届く時代になってきています。しかも、そこではありとあらゆるものを情報公開しなきゃいけないというか、変な話、パンツの中身まで見せないと響かないような感覚です。

 

■Instagramはレディスファッションと相性がいい

榎本わりとヒロシさんはSNSを積極的に利用されていますよね。

藤原そうですか?

榎本早い段階からやってらっしゃいますよね。それは自分のブランディングも含めて、戦略的にやっているんですか?

藤原戦略なんて、ぜんぜんないですよ。

榎本単純に投稿してリアクションがあるのが楽しいから?

SNSは、ファッションビジネスをどう変えたのか 藤原ヒロシさん×清永浩文さん 「SNS時代のファッション」

SNSは、ファッションビジネスをどう変えたのか 藤原ヒロシさん×清永浩文さん 「SNS時代のファッション」

会場には、発売と同時に店頭から消えた
F.C.R.B.×『コカ・コーラ』」ブルゾンのサンプルなどが展示された

藤原:リアクションはあんまり見ないですね。毎日、毎日、日記的に投稿している感じです。僕はTwitterをやっていなくてInstagramだけなんですが、清永くんが言うように、「SNSは自分に関するものをすべて見せないといけない」って感覚を持っている人が多いですよね。でも僕は逆だと思っていて。実はSNSって、めちゃくちゃコントロールしやすいメディアだなと。見せたいものだけ見せて、嫌なものは見せなければいいから、ブランドのイメージはすごくつくりやすいじゃないですか。だから、モデルさんやファッションブランドなどが積極的に採り入れるんでしょう。

榎本: SNSの普及後、街中を歩く人々のファッションが均質化しているように思えるという意見についてはいかがでしょう? インフルエンサーのファッションを真似する人が増えたという話があります。

藤原:それは昔から変わってないですよね。女性ファッション誌なんかだと、人気モデルのファッションを読者が真似するということはよくありましたから。

榎本:SNSでは一般のマイクロインフルエンサーと呼ばれる人々の影響力もかなり増していて、ブランドの世界観をどう伝えるかより、「いかに彼らに宣伝してもらうか?」ということが重視されている印象もあります。

藤原:今はスクープでもない限り、清永くんみたいな制作者側が情報をかなりコントロールできる。たとえばスニーカーであれば、「これは紙媒体で発表」「これはインスタで発表」と選べるんですよね。だから、商品によっては別冊の本をつくって、そこで初めて情報解禁するほうが話題になるかもしれない。今の企業はそういうことをちゃんと考えたほうがいいんじゃないですか。なんでもかんでもインフルエンサーに任せてInstagramで宣伝してもらえばOKみたいな、怠け者気質はよくないと思います。

清永:現代はもはや、ひとつの流行に群がる時代ではありません。いろんな人の“好き”がたくさんあって、いろんな人がいろんなものをつくって発信する時代です。だからインフルエンサーの数が多くなっても当然だと思う。

藤原:70年代の写真とかを見ると、当時は、パンクファッションの服をいろんな人が着ていました。ローリングストーンズのミックジャガーも着ていれば、ぜんぜんパンクミュージックとは関係ないヘビメタのバンドメンバーも着てた。そんな風になったのは、情報も、ものを買える場所も、限られていたからだと思うんです。だから90年代にストリートファッションが流行ったときも、みんなが《STUSSY》を買ったりしていました。それくらい買うものがなかったんです。今は、いろんな人が同じようなものをいっぱいつくるから、かつてのパンクファッションブームのように、先鋭的で象徴的なものが生まれにくいのかもしれないですよね。

 

■何でも見せる時代だから、何も見せない「売り方」がある

榎本:清永さんは、2017年に福岡市内に「KIYONAGA & CO.」というショップをオープンしました。このショップは清永さん自身が全面プロデュースをしたオリジナルの商品構成で、良いものを少しずつ増やしながら時間をかけて育てていく予定だと伺っています。最新情報はInstagramを通じて順次発信されるだけだとか。なんでもかんでも情報がオープンにされる現代において、ある意味、時代の流れに逆行するようなことをやっていますよね。

清永:そうですね。「KIYONAGA & CO.」はネット通販も卸もやらないし、そこでしか買えないものをそろえたお店です。福岡に行かないと味わえないものを食べに行くような、ちょっと体験型に近いコンセプトですね。

SNSは、ファッションビジネスをどう変えたのか 藤原ヒロシさん×清永浩文さん 「SNS時代のファッション」

SNSは、ファッションビジネスをどう変えたのか 藤原ヒロシさん×清永浩文さん 「SNS時代のファッション」

もはやファッションのPRには欠かせないInstagramだが、
藤原清永の両氏によると、メンズファッションよりも
レディスファッションの方が親和性が高いのだという

榎本:今回のトークセッションのテーマは「SNS時代のファッション」ですけど、SNS時代のファッションに対するアンチテーゼみたいなところがあるんですか?

清永:僕、海外に行くと、そこでしか買えないものをすごく探すんですよ。でも、そんなものはないんです。ネットがあれば、どこでも買えちゃうんですよ。だからこそ、そこでしか買えないもの、本当の意味でお土産になり得るようなものを見つけたときの喜びが、一消費者としてあります。そういう喜びをお客さんにも味わって欲しいという衝動が自分のなかにあったから、お店をつくりました。福岡市に出張に行ったら「KIYONAGA & CO.」で買ってみようって。そういう風に思われるお店をつくりたかったんです。ヒロシさんと一緒にやった「the POOL aoyama(*2014年4月~16年4月の2年間、南青山で営業していたコンセプトショップ。テーマ毎に商品構成ががらりと変わる売り場づくりに特徴がある)や「PARKING(*2016年3月~17年3月の1年間、銀座の地下で営業していたコンセプトストア。『the POOL aoyama』同様、テーマ毎に商品構成ががらりと変わる売り場づくりに特徴がある)も、こうした発想に近い店舗でしたね。

藤原そうですね。僕は常々、リアル店舗はそこでしか買えないものがあってこそ、と思っています。《NIKE》とコラボレーションをしていたときも、世界共通で同じものをつくるのではなく、リージョン(販売地域)で分けてつくったほうがいいとよく言っていました。僕も清永くんと同じで、そこで買わないと一生出会うことはないだろうってモノを海外で見つけることが楽しかったから。

榎本確かに、SNS時代には「そこでしか買えない」というものがどんどん少なくなっています。

藤原清永くんみたいにつくり手側が規制して、「福岡でしか買えません」とやっても、誰かがネットで勝手に転売したら、どこでも買えちゃうことになる。

清永それは実際にありますね。

藤原そこはもう仕方ない。本当の意味でそこに行かなきゃ体験できないものって、もはやファッションにはないのかもしれない。

SNSは、ファッションビジネスをどう変えたのか 藤原ヒロシさん×清永浩文さん 「SNS時代のファッション」

清永結局みんな、飲食店のことを話題にする機会が増えたけど、まあ、そういうことなんでしょうね。男4、5人集まっても洋服の話題は乏しくて、そこでしか食べられない飯屋の話ばっかり盛り上がってる。あと福岡と東京の2拠点生活をして気が付いたことですが、東京のライフスタイル誌やファッション誌は「東京のタウン誌」に見えるんです。東京の情報しか載っていないから、自分には関係ないなって。SNSを通じて得られる知り合いや友人からの情報のほうがリアルに感じられる。そういう感覚でいる人は、福岡には多いですね。

榎本「SNS時代のファッション」というテーマでは、今年の流行語にもなった「インスタ映え」というキーワードも欠かせないかと思います。お二人は新商品を考えるとき、SNSで拡散されやすいデザインを意識することはありますか?

藤原個人的にはあまりないですね。へそ曲がり的なところがあるので、みんながやっていることはやりたくないタイプです(笑)。ただビジネスとしては、どうなの?

清永普段の商品ではあまり意識していませんが、コカ・コーラ社さんのような企業とのコラボもの(*2016年の秋、F.C.R.Bと『コカ・コーラ』のコラボレーションモデルが発売された)では、Instagramに映えるというか、ビジュアル的な要素を意識することは多いです。企業とブランドで相互にWin-Winの関係になるためには、うちに求められているものが訴求なので、SNSで広がりやすいものをつくる傾向はあります。

 

■スニーカーネタは「いいね!」がつきやすい?

榎本先程のメディアの話に戻りますけど、Instagramであれば、自分でイメージをコントロールできる。何をどのタイミングで、どういう見せ方をするかを考えられる……。

清永:簡単にできて、簡単に投稿できるけど、簡単に忘れられて、あまり人々の記憶に残らないのかもしれないですね。

榎本:流れていく。

清永:そういうところが時代にマッチしているのかもしれない。

SNSは、ファッションビジネスをどう変えたのか 藤原ヒロシさん×清永浩文さん 「SNS時代のファッション」

SNSは、ファッションビジネスをどう変えたのか 藤原ヒロシさん×清永浩文さん 「SNS時代のファッション」

会場は立錐の余地もなし。
モデレーターの榎本一生さんがお二人の対面に座る(お客さまに背を向ける)
珍しいレイアウトは、「公開記者会見」をイメージしたものだった

榎本今日のイベント前の打ち合わせの際、清永さんが「InstagramなどのSNSは常時情報が流れる“フロー”で、雑誌は情報を溜める場所=“ストック”、つまりは、まとめサイトみたいなものだよね」っておっしゃってましたけど。

清永メディアによって役割が違うんです。やっぱり僕は、金属みたいなハードウェアでコンテンツを読むのが苦手なタイプのようで、やっぱり紙の方が“残すもの”、もしくは人々の“記憶に訴えかけるもの”には向いているのかもしれないですね。まとめサイトのwebのリンクに飛んでいくよりも、紙で読む方がいい選択だという場合もあるし、紙には紙の役割があるような気がしますよね。

藤原印刷物になっていると、ちょっと信頼感はあるよね。webだとフェイクニュースじゃないけど、本当なの? っていうような記事もいくつかあって、それを信じちゃうと危険だったりするけど、紙の出版物の情報なら校閲を通しているからそこまで怪しいものはないだろうという信頼感がある。考えてみれば、そもそもメンズファッションにSNSはあんまり向いてないですね。逆に女性は、洋服もアクセサリーもチョコレートもみんなファッションだから、「かわいいもの」で括れちゃう。だから、Instagramには向いている。

榎本ただ、メンズファッションと言っても、スニーカーはSNSと相性がいい?

SNSは、ファッションビジネスをどう変えたのか 藤原ヒロシさん×清永浩文さん 「SNS時代のファッション」

イベント会場となったSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSは 本屋さん。
会場内にはコカ・コーラ社関連の貴重な書籍が展示された

清永スニーカーファンは世界中にいて、フォロワーも多いから、インスタを使う人たちの共通言語みたいな感じなのかもしれない。異常にスニーカーだけ違う感じがします。

榎本ヒロシさんがInstagramにスニーカーをあげると「いいね!」がいっぱいつきます。やっぱりスニーカーに特化したインフルエンサーみたいな人も。

清永スニーカー、《Supreme》に特化した人いますね。

藤原ぼくの場合は、スニーカーに「いいね!」6,000、天むすのおにぎりに「いいね!」2,000。

会場:ははは。

藤原そんな差はありません。

榎本SNSで常に情報が出ていくと、世の中に登場したときの驚きが薄れてしまう危惧もあるのではないですか?

藤原僕は驚きをつくりたいので、発表のタイミングを自分なりにコントロールしたい。外からどう見えているかわからないですけど、SNSの情報発信に積極的なブランドでも、自分が付き合っている企業はそこのコントロールをかなりやっていますね。「これをつくっていることは絶対に言わないでください」みたいなことは未だにかなりありますし。

清永うちのPRはこれからも大変そうですね(笑)。

SNSは、ファッションビジネスをどう変えたのか 藤原ヒロシさん×清永浩文さん 「SNS時代のファッション」

<プロフィール>
[写真右]
ふじわら・ひろし / 1964年、三重県生まれ。DJ / プロデューサー。fragment design主宰。80年代からDJとして活動し、ヒップホップ、クラブミュージックを中心に自らもステージに立つ傍ら、UAなど人気アーティストのプロデュースも手がける。現在、音楽プロデューサー、アーティスト、ファッションデザイナーなど、複数の肩書で、多方面で独自の活動を続けている。2016年、デジタルメディアのRing of Colour を起ち上げた。2017年11月には4年ぶりのニューアルバム『slumbers』をリリースした。

[写真左]
きよなが・ひろふみ / 1967年、大分県生まれ。SOPH. CO.,LTD.代表取締役社長。《A.P.C.》を経て1998年《SOPH.》ブランドを立ち上げる。翌99年に立ち上げたフットボールラインのコンセプトブランド《F.C.Real Bristol》が大ブレイク。2002年にはブランド名を《SOPH.》から《SOPHNET.》へと改称。13年全株式と商標権をジュンに売却したが企業としてのSOPH.の体制はそのまま社長業も継続する。「もともと《A.P.C.》もジュン傘下だったし、佐々木進さん(ジュン代表取締役社長/SOPH.代表取締役会長)は当時から“東京の兄貴”みたいな存在でしたから」と説明する。17年には福岡にて実験的ストア「KIYONAGA&CO. 」をスタート。