文=ウィット・ウェルズ

 

コカ・コーラ社が誇る日本市場の看板ブランド

日本のコカ・コーラ社は、他に類を見ない製品の独自性と、そのバリエーションの豊富さが際立つ、世界のコカ・コーラ社の中でも異彩を放つ存在です。今年の3月には、「コカ・コーラ」ブランド初のトクホ製品コカ・コーラ プラスを発売し、大きな話題となったばかりです。

数ある日本のコカ・コーラ社製品の中でも、大きな成功を収めたもののひとつに、缶やPETボトルなどのRTD(RTD:Ready To Drink、容器入り飲料のこと。 以下、RTD)コーヒー飲料「ジョージア」があります(1975年に発売された『ジョージア』のブランド名の由来は、『コカ・コーラ』が誕生したジョージア州に由来しています)。「ジョージア」はRTDコーヒー飲料として世界一の売り上げを誇ります……というと、海外では「日本といえば緑茶」のイメージが強いだけに、驚く人も少なくありません。

実際、日本で最も消費されている清涼飲料は緑茶ですが、コーヒーの消費量も年々増え続けています。全日本コーヒー協会によると、日本における2015年のコーヒー消費量は46万2,000トンと、4年連続で増加し、過去最高となりました。また、日本のコーヒー消費量は世界のコーヒー輸入国の中で3番目となっています(2012年データ)。日本コカ・コーラ社で原料調達を統括する梶原さんによると、日本のコカ・コーラ社は主にブラジルとコロンビアからコーヒー豆を調達しており、そのほとんどが缶コーヒー飲料の原料として使われています。

「日本の缶コーヒー飲料の味の良さや品質の高さについては、海外ではまだあまり知られていないのではないかと感じています」と日本コカ・コーラ社 マーケティング&ニュービジネスのシニアバイスプレジデント 和佐高志さんは言います。

「ジョージア」は、なぜ世界に誇るRTDコーヒー飲料になったのか

和佐高志さん日本コカ・コーラ社 マーケティング&ニュービジネス シニアバイスプレジデント) は子どもの頃、
銭湯でコーヒー牛乳を飲んだ思い出があるそうです

 

■世にも珍しい日本のRTDコーヒー飲料市場

全日本コーヒー協会によると、RTDコーヒー飲料は、日本におけるコーヒーの全消費量の約4分の1を占めているそうです。 世界的に見ると、このようなコーヒーの販売形態(RTD)はかなり珍しく、市場の製品構成も日本特有のものです。 RTDコーヒー飲料は昨今、世界的に、特に米国での人気が高まっています。

RTDコーヒー飲料最大の利点といえば、その手軽さ。日本で缶コーヒーが爆発的に普及したきっかけも、いつでもどこでも飲める、その手軽さが消費者に受けたからでした。1960年代から70年代にかけて、急速な都市開発と自動販売機の普及が進む中で、RTDコーヒー飲料は仕事の合間に一息つくときの定番飲料となったのです。

「缶コーヒー=仕事のお供」というイメージは、今ではすっかり定着しているといえるでしょう。「ジョージア」ブランドは2014年から「世界は誰かの仕事でできている。」というコピーを前面に押し出した広告キャンペーンを展開し、警察官、トラック運転手、鳶職人、営業マンなどさまざまな職業に就く働く人々に光をあてました。このキャンペーンは消費者から熱い支持を受けています。

ジョージア」は日本で最初の缶コーヒーブランドではありませんが、大々的なマーケティング活動と自動販売機での販売を主軸にした販売戦略によって、1975年に発売するやいなや、たちまち市場シェアNo.1に躍り出ました(日本には清涼飲料自動販売機が約250万台あり、そのうちの約98万台がコカ・コーラ社のものです)。

「75年から92年にかけて、当社はRTD飲料市場で圧倒的な競争力を持っていました。日本経済の成長期にあたるこの時期に、働く人を応援する飲料=『ジョージア』というメッセージを、消費者に対し発信し続けたことが奏功したのです。他社も追い上げを図りましたが、当社との20年の差を縮めることはできませんでした」と和佐さんは説明します。

 

■RTDコーヒーの進化

誕生から40年以上を経た今でも、RTDコーヒー飲料が仕事に打ち込む日本人の必須アイテムであることには変わりがありません。日本自動販売機工業会によると、日本の自動販売機の設置率は世界で最も高く、人口23人当たり1台。その大半でコーヒー飲料が販売されていることを考えると、その普及率の高さが分かるかと思います。

「私も、自宅では自分でコーヒーを淹れますが、会社では缶コーヒーを飲みます。昼食後に自動販売機で1本買い、疲れを感じる午後4時頃にも、また飲みますね」と、和佐さん

缶コーヒーならではの香り、味わいに魅力を感じている消費者もいる、と和佐さんは言います。株式会社コカ・コーラ 東京研究開発センターのスタン・マー社長が“加熱済の味”と表現するその風味は、長年缶コーヒーに親しんできた消費者にとっては、愛着のある味わいとなっているのでしょう。また、近年では、淹れたてのドリップコーヒーの風味をRTDコーヒー飲料で忠実に再現すべく、コカ・コーラ社をはじめ多くの企業が研究と改良を続けてきてもいます。

RTDコーヒー飲料を飲みやすくする一つの方法が、ミルクや糖分を加えること。だから約30種類ある「ジョージア」製品の約3分の2には、ミルクが入っています。しかし日本では、甘みの強いコーヒー飲料の人気は徐々に下がっており、代わりに糖分やミルクの量を抑えた微糖タイプやブラックコーヒーの人気が上がっています。

淹れたての味に近づけるための別のアプローチが、殺菌方法の改良です。現在、RTDコーヒー飲料は衛生管理の観点から、中身を詰めた後に、容器ごと約120度で加熱殺菌することが主流となっています。しかし、この加熱の工程がコーヒーの酸味を弱め、苦みを強めてしまう要因となっています。「殺菌時間が短いほど味も良くなるので、さらなる短縮を目指す取り組みが現在も続いています」とマー社長は説明します。

もう一つ、コーヒー業界で最近脚光を浴びているのが、「コールドブリュー」と呼ばれる製法です。これは挽いたコーヒー豆を冷水に12時間以上浸してからろ過する製法で、コーヒーの酸味を抑えつつ、豆の味わいをフルに引き出すことが可能となります。

コールドブリューは通常の抽出方法よりも時間やコストがかかるため、大量生産・大量流通させる製品には向いていませんでした。しかし昨年、株式会社コカ・コーラ 東京研究開発センターが新たに開発した低温抽出法により、ジョージア コールドブリュー (ブラックとカフェラテの2種類)が完成。コカ・コーラ社は、コールドブリュー製法によるRTDコーヒー飲料を日本で初めて発売したのです。新鮮な味のコーヒーの開発に取り組んできた日本の清涼飲料メーカーにとって、大きなブレークスルーとなりました」とマー社長は語ります。

「ジョージア」は、なぜ世界に誇るRTDコーヒー飲料になったのか

ジョージア」ブランド 製品ラインナップの一部

 

■「ジョージア」が世界を席巻する日も近い!?

ジョージア」は日本のコカ・コーラ社が抱えるブランドの中でも有数の成長ブランドであると同時に、RTDコーヒー飲料の熾烈な市場競争に勝ち、シェアNo.1の地位を守り続けています。

そして、日本に端を発したRTDコーヒー飲料の波が、世界にも急速に広がりつつあります。米国の非営利組織スペシャルティ・フード・アソシエーション(SFA)によると、過去数年で米国におけるRTDコーヒー飲料の販売数量は飛躍的に伸びており、2013年から15年にかけて実に3倍にも増加。ブルームバーグのレポートによると、米国のRTDコーヒー飲料市場は11年以来毎年2ケタ成長を続けているそうです。

この躍進には、コカ・コーラ社も一役買っています。今年1月には、コカ・コーラ社がマーケティングなどを手掛ける「ダンキンドーナツ」ブランドのアイスコーヒー飲料が、米国のスーパーやコンビニエンスストア、ダンキンドーナツの店舗で発売されました。お茶のブランド「ゴールドピーク」も、コールドブリューのRTDコーヒー飲料を発売しています。

現在「ジョージア」は、日本だけでなく、中国、香港、インド、韓国、マカオ、シンガポール、台湾でも販売されています。「『ジョージア』は世界一のRTDコーヒーブランドですが、現時点では、日本と韓国での販売が中心となっています。おいしいRTDコーヒー飲料をつくるノウハウを蓄積してきた私たちにとって、これは、アジアやその他の地域での大きな成長の可能性を示しています」とマー社長は語ります。数十年にわたるたゆまぬ改良を経た日本生まれのRTDコーヒー飲料が、世界中を席巻する日もそう遠くはなさそうです。