Twitterなどのソーシャルメディアを活用したプロモーション活動で、先進的なデジタルマーケティングを行ってきた日本コカ・コーラ

同社は、昨年、デジタルマーケティングを次のステージに進めるためのモバイルアプリ「Coke ON」をリリース。ポイントを貯めるとドリンクチケットがもらえるという特典だけでなく、気温と連動させた製品サンプリングなどの独自のキャンペーンでも話題を呼び、リリースからわずか1年で400万ダウンロード(*2017年4月4日時点)を突破しました。進化を続ける日本コカ・コーラのデジタルマーケティングは、どこに向かっているのか。マーケティング本部IMC iマーケティング統括部長の豊浦洋祐さんに話をうかがいました。

文=崎谷実穂
写真=下屋敷和文

 

■「テレビとSNSの違い」を考えるべき時代

──まず、日本コカ・コーラのデジタルマーケティングの歩みを教えてください。

豊浦 コカ・コーラ社製品のことを広く知ってもらい、同時に、サイト内に用意されたゲームなどのコンテンツを通じて、よりコカ・コーラ社製品のファンになってもらうためのサイト『コカ・コーラパーク』を2007年にオープンしました(*現在は閉鎖)。2009年からはTwitterFacebookmixiなどのソーシャルメディアのアカウントを取得し、公式アカウントの運用を始め、2013年には、ソーシャルエンゲージメントセンターを設立。同センターでは主に、消費者が「コカ・コーラ」や「ジョージア」、「アクエリアス」などのブランドについてどのように思っているのかを、SNS上でのユーザーのリアクションをもとに日々リサーチし、それをマーケティングに活かしています。プロモーション施策も、試行錯誤しながら少しずつ進化させてきました。

iマーケティング 豊浦洋祐 統括部長
日本コカ・コーラ入社前も
複数社でデジタルマーケティングを担当してきた

 

──はじめは、どんなことをされていたんですか?

豊浦 2013年当初は、「コカ・コーラ社製品の熱狂的なファン」になってもらうことを目的として、コカ・コーラ社製品についてツイートしているアカウントを見つけ、その方にオリジナルの画像をプレゼントするということをしていました。確かにすごく喜んでもらえるのですが、一人ひとりに向けて発信するだけでは、プロモーション効果を発揮するのにも限界がある。そこで、もっと話題になるような、いわゆる「バズらせる」施策に取り組むように、運営方針を転換していきました。

たとえば、最近の施策でヒットしたのは、菅田将暉さんがCMキャラクターを務める「ファンタ レモン+C」のプロモーションです。

これを立案するにあたり、僕はテレビとソーシャルメディアの役割の違いはなんだろう、と考えたんです。今でもテレビは、製品を認知してもらうのには最強のメディアです。でも、視聴者に製品を認知はされても、製品を購買したり製品について友人と話をしたりといった、次のアクションを起こさせるほどの影響力はないというテレビCMも多い。だからソーシャルメディアでは、アクションを起こさせるための一歩踏み込んだアプローチが必要だと考えました。そこで利用したのがTwitterでできる「くじ」なんです。

──くじというと、アタリとハズレのある、あのくじですか。

豊浦 そうです。「ファンタ」のアカウントをフォローし、該当ツイートをリツイートすると、菅田将暉さんがくじを引かせてくれる動画が観られるんです。動画の最後に「アタリ」と出れば、「ファンタ レモン+C」が贈られます。何万という人がリツイートしてくださるけれど、当たるのは1,000名なので大抵は外れるわけです。でも、たとえハズレたとしても、くじを引いてくれた人みんなに楽しんでもらおうと考えて、いろいろなバージョンの動画をつくりました。菅田さんの「ハズレです」、の言い方が動画によって違っていたりするんです。それが話題になって、毎日たくさんの人がくじを引いてくれるようになり、トータルで約130万回リツイートされる結果になりました。

「ハズレ」でも異なる動画が観られることが話題を呼び、
企業によるTwitterリツイート記録を、2週間連続で更新した

 

──130万リツイートはすごいですね! ソーシャルメディアで情報を拡散させることにかけては、日本でもトップクラスのノウハウがあるのでは?

豊浦 いえいえ。それでもやはり、見てもらうだけでなく、行動を起こしてもらうようにするのは、毎回とても大変です。「これさえやっていればいい」という正解はありません。ソーシャルメディアのテクノロジーも年々進化していますから、前のプロモーションと同じことはできないんですよ。毎回、知恵を振り絞って、動画などのクリエイティブにもアイデアを詰め込んで、成功の確率を上げるだけです。

そして昨年、デジタルマーケティングの次のステージとして、「Coke ON」というアプリをリリースしました。「Coke ON」はコカ・コーラ社の自動販売機で製品を買うとポイントが貯まる、ポイントカードのようなアプリです。

 

■自販機と連動するアプリ「Coke ON」の誕生

──自動販売機×デジタルマーケティング、ですか。どうしてそのアプリを開発したのでしょうか。

豊浦 二つの背景があります。一つは、先にお話しした『コカ・コーラ パーク』の利用者が少しずつ少なくなっていたこと。これを立て直すにはどうすれば良いかという話し合いをしていたのですが、小手先の改善ではきっと消費者には振り向いてもらえないから、抜本的に新しいサービス、新しい自社のプラットフォームが必要だろう、という話になっていました。そしてもう一つは、自販機での販売額が緩やかに減少していたこと。これにはコンビニエンスストアの店舗数の拡大や消費税の増税など、さまざまな社会的要因が関係しています。この二つの背景に対処するにはどうしたら良いかと考えたときに、まずは屋内自販機の近くでICカードを配布して、自販機で買うたびにカードにポイントが貯まるという施策をテスト的に実施してみよう、ということになったんです。そして15本または20本買うと1本無料、などの特典をつけました。

「『ポイントカード』という仕組みは分かりやすく、
幅広い世代の消費者に利用してもらいやすい」と分析

 

──結果はどうだったのでしょうか。

豊浦 その仕組みを導入した自販機の販売額が明らかに上がったんです。それを認識したとき、まさに、自販機復活の光明を見た気がしました。当然、次にはこの施策を広げていこうという話になるのですが、毎回ICカードを配るわけにはいかない。そこで、モバイルアプリにその機能を代替させることになったわけです。

──そして、そのアプリが『コカ・コーラ パーク』に代わる新しいデジタルプラットフォームになったんですね。でも、日本コカ・コーラは、これまでアプリを開発した経験がなかったように思います。どのように開発に着手したのですか?

豊浦 すでに世の中には300万を超えるアプリがリリースされていて、その中でもみなさんがスマートフォンに入れているアプリというと30個くらいでしょうか。さらには、日常的に使っているアプリとなると、10個もないかもしれません。「Coke ON」を軌道に乗せるためには、その10個の中に入る必要があります。そこで、たくさんの人に使われているアプリを徹底的に分析したんです。その結果、「明確な利点がある」「便利」「楽しい」という三つの要素を抑えるべきだとの考えにたどり着きました。そこで「Coke ON」では、「明確な利点=ポイントが貯まると製品と引き換えられる」「便利=スマホをかざすだけでサービスを受けられる」「楽しい=限定キャンペーンで遊べる」という形で三要素をクリアしたのです。またその上で、日本コカ・コーラならではのサービスを提供できるよう、アプリ全体の世界観も構築していきました。

──単なるポイントが貯まるアプリでは意味がなかったんですね。

豊浦 それでは、いつも使いたくなるアプリにはなれないと思ったんです。同時に、使いたくなったらいつでも使えないと意味がない。だからこそ、アプリ開発と並行して、自販機側に「Coke ON」に対応するための通信機器をどんどん取り付け、既存の自販機をポイントを貯められる「スマホ自販機」にしていきました。現在、15万台がスマホ自販機になっています(*2017年4月4日時点)

2016年4月にリリースされた「Coke ON」は
日本独自の取り組み

 

──「Coke ON」をリリースしての手応えはいかがですか。

豊浦 この1年、ダウンロード数が右肩上がりに増えていきました。何もプロモーションをしていない日でも、毎日数千人がダウンロードしてくれる。この数字自体が、サービスのポテンシャルを物語っていると感じました。ソーシャルメディア上でも、「『Coke ON』のアプリいいよ」と勧めてくれているユーザーを見かけるのは、本当に嬉しいことですね。

 

■ リアルとデジタルの掛け合わせで生まれるイノベーション

──昨年の「Coke ON」を使った施策で、印象に残っているものはありますか?

豊浦 夏に実施した、熱中症を予防するための「アクエリアス」の製品サンプリングですね。気温が35度を超えたエリア限定で、「アクエリアス」を無料で受け取れるドリンクチケットを発行したんです。「Coke ON」に表示されるチケットをスマホ自販機にかざすと、「アクエリアス」に引き換えられるという仕組みでした。これは、位置情報がわかるモバイルアプリならではのプロモーションでした。

リオ2016オリンピックの開催時期には、日本が金メダルをとるたびに「コカ・コーラ」のドリンクチケットを配布しました。今までは「◯◯選手、おめでとう!」とツイートすることしかできなかった。でも今は、祝うだけではなく、「コカ・コーラ」を飲みながらその瞬間を楽しんでもらうことができるようになった。この「Coke ON」というプラットフォームが破壊的なのは、リアル自販機とデジタルのアプリの掛け合わせで、「これやってみたらどうだろう」というアイデアがたくさん生まれること。デジタルの領域だけで閉じているとそういうことは起こり得ないのだけれど、その殻を破るとイノベーションの幅がすごく広がるんですよね。

──ダウンロード数はどのくらいまで伸びているんですか?

豊浦 400万ダウンロードを突破しました。昨年12月に、「ジョージア」のキャラクターである山田孝之さんが出演するテレビCMと40種類のインターネット限定の映像を公開する大々的なプロモーションをかけたときに、ぐっとダウンロード数が伸び、その後も順調に伸びたんです。

──40種類も!

豊浦 縦型、横型といった画角の違うものから、6秒バージョン、50秒バージョンの長さの違うものまで、いろいろとそろえてみたんです。それを流してみて、どの媒体ではどのパターンの動画の効果が高いか、つまりアプリのダウンロードにつながるか、ということを検証していきました。ダウンロードされた先で、「Coke ON」を使って実際に商品を購入してもらえたかどうかまで追うことができます。デジタル広告では、すべてその日のうちに結果が出るので、高速でテストを繰り返すことができるんです。

──それで、効果のあるバージョンを、FacebookYouTubeなど各媒体で採用していくと。

豊浦 しかも、媒体によって効果のあるバージョンが違うんですよね。なので、それぞれに最適化したものを流すことで、より大きな成果を出すことができました。こうしたデータ分析は、テレビCMなどインターネット以外の広告コミュニケーションでも応用可能ではないか、と考えています。最初にインターネットで何パターンか試して、どれが一番購買につながるのかを「Coke ON」のデータで確認する。そこで効果があると判明した映像を、テレビCMを含めた大々的なキャンペーンに活かす。こうした、データに基づいたクリエイティブ施策ができるのではないでしょうか。

──CM好感度などのあいまいな指標ではなく、実際に何が販売増につながるのかが分かるというのはおもしろいです。すべてのマーケティング領域にデジタルが入り込んでくるような未来が訪れるのかもしれませんね。

豊浦 そうなると、僕が所属しているiマーケティングという部署もなくなってしまうのではないか、と考えています。だから、「昨年と同じことをやっていたら、仕事がなくなる」という危機感をもっているんです。昔はデジタルって、他の領域とはまったく別のものだと思われていました。でもいまや隣の部署のメディアチームも、デジタルのメディアを扱っています。

僕は、デジタルマーケティングってなんだろう、ということを常々考えているんです。ソーシャルメディアで自分たちのアカウントを立ち上げて、そこにコンテンツをアップしていればいいのかというと、そうではない。それだけをやっていては、本当の意味でのビジネス貢献にはならないんです。もっと、既存のビジネスモデルやマーケティングモデルそのものを、デジタル化していきたい。今回、自動販売機をIoT(Internet of Things)化したように、リアルな場所で行われているビジネスに対して、新しいデジタルのモデルをかぶせたり、置き換えたりしていく。それが、これからやっていくべき仕事なのだと思っています。

とようら・ようすけ / 2001年にP&G Japanに入社。デジタルマーケティングを統括。09年にナイキ・ジャパン入社。デジタルマーケティングの責任者を経て、ランニングカテゴリーの広告クリエイティブ、メディア、デジタル全般の消費者コミュニケーション開発を担当。13年に日本コカ・コーラ入社。iマーケティング統括部長として、オウンドメディア、ソーシャルメディアを含むデジタルマーケティング全般を統括。

>>「Coke ON」のダウンロードと使い方はこちら