■一度悪化した水質の再生には100年かかる

 社会にさまざまな環境問題がある中で、北海道コカ・コーラボトリングが取り組みの対象を水環境に絞ったのはなぜか。

「水資源には限りがあります。今、蛇口をひねって当たり前のように水が出てくるのは、先人たちの努力があったからこそ。私たち飲料メーカーは、多くの人たちが守ってきた貴重な水資源を次世代へと引き継いでいくため、人間と自然の適切な関係を保ちながら環境を守っていく責任を果たさないといけません」(小野さん

このたび、北海道e-水プロジェクトは
第19回日本水大賞の審査部会特別賞を受賞した。
同賞は水循環の健全化に貢献する活動を行う団体などに贈られる

 小野さん自身も保全活動に参加して気づくことがあるという。

「水は山、川、大気はもちろん、人間や動物などの生物の間も循環しています。山の植樹活動や河川周辺の清掃活動に参加してみると、そのつながりを実感したり、遠くから川を眺めていても気がつかない問題が見つかることがあります。水環境は一度悪化してしまうと元の状態に戻すのに100年の努力を要するとも言われます。まだ8年目の北海道e-水プロジェクトですが、この活動を次の世代につなげていくため、人を育てることにも力を入れていきたい。保全活動を通じて、子どもたちに『自分たちも当事者である』ということを知ってもらいたいですね」

 

■「これが僕たちのふるさとの川」

 夕張川支流のハサンベツ里山地に広がる湿原は、前出・夕張川自然再生協議会の高橋さんたちが手づくりで再生させたものだ。この活動も北海道e-水プロジェクトの支援を受けている。同会は他にも自然環境調査や流域の文化遺産めぐり、魚道づくりなどさまざまな活動で支援を受けているが、それらはすべて、「いい川づくり」につながっている。

「ゆくゆくはここをヘイケボタルの聖地にしたい」と語る高橋さん(写真上)
耕作放棄地で再生された湿原。水辺の好きな生き物たちの楽園だ(写真下)

「いい水づくりというのは、いい川づくりでもあります。いい川とは自然にとっていい川であることはもちろんのこと、そこに人間が生活していることも考えられていないといけない。治水、利水、環境。この3つのバランスが取れて初めて、いい川だといえるんです」

 雪解けの季節と秋の台風シーズンの夕張川は、茶色く濁っている。一般的にイメージされる清流とは違うが、「川が濁っているのには意味がある」と高橋さんは言う。

「川が濁っているということは、川の水が動いているということ。川の水が動けば魚も動きだし、山の栄養も海に向かって運ばれていく。透明度の高い川のほうが好きな人は多いけど、夕張川の水は流域の土壌が溶けだした緑褐色です。これが僕たちのふるさとの川の色。地元の川を見つめ直すことが、僕たちの心の柱なんです」

 川の保全活動と並んで力を入れているのが、稚魚の放流や水辺の生きもの調査、川下り体験など、子どもたちが地元の川に親しむ機会をつくる「ふるさと教育」だ。高橋さんの活動の終着点はここにあると言ってもいい。

「栗山町で育った子どもたちの多くは、やがて都会に出ていってしまいます。そのまま戻ってこない人も多いけど、本当は戻ってきてもらいたいですよ。でもそのためには、大人が苦労をしている姿ばかりを見せていてはいけないと思います。僕たち大人がこの土地で楽しく、誇りを持って暮らしている姿を見せていくことが、何よりのふるさと教育になると思う」

放流体験には毎年たくさんの子どもたちが参加する
(写真提供:夕張川自然再生協議会)

 2年前、高橋さんは子どもたちにある奇跡を見せることができた。地道に続けてきた魚道整備や放流活動が実を結び、この栗山町で実に72年ぶりにサケ・マスの遡上が確認されたのだ。例年1万匹ほどのサケ・マスを放流しているが、ふるさとの川に戻ってくるのは100匹ほど。産卵をしてその一生を終えたサケ・マスは、やがて山の恵みへと変わる。

「サケ・マスの放流は、夕張川の自然再生のシンボルです。まるで孫を送り出すような気持ちですよ」

 サケ・マスが遡上するようになったことで、夕張川の自然の循環が一つだけ元通りになった。いい水、いい川のあるふるさとで、高橋さんは人々の循環が活発になる日を願っている。

<取材協力>
北海道 環境生活部 環境局 環境政策課
公益財団法人北海道環境財団 協働推進課

[写真左]たかはし・まこと /北海道夕張郡栗山町生まれ。夕張川自然再生協議会会長と栗山町ハサンベツ里山計画実行委員会の事務局長を務める。

[写真右]おの・ひろし / 2011年、北海道コカ・コーラボトリング入社。2016年より広報・CSR推進部にて、北海道e-水プロジェクトに携わる。

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