投開票が11月8日に迫ったアメリカ大統領選挙。
良い意味でも悪い意味でもキャラが立った候補同士の一騎打ちは、
これからますます日本人の関心も集めることになるでしょう。
そこで、『Coca-Cola Journey』では、
アメリカ大統領選挙に関するトリビアをまとめてご紹介。
意外と知らない豆知識を学ぶことで、ニュースがもっと面白くなる!

文=小山田裕哉

[トリビア1]

勝手に“フライング就任”してしまった大統領候補がいる。

[解説]
1916年の大統領選挙では、ウッドロウ・ウィルソンチャールズ・E・ヒューズが終盤まで接戦を繰り広げ、決着は最後のカリフォルニア州の開票まで持ち越された。開票が始まると、ヒューズに有利な報告が続いたので、ヒューズは「勝った」と思い込んで寝てしまった。しかし、実は深夜になると得票数で上回られ、ウィルソンが大統領選を制した。それは全投票数100万票中、わずか3,800票差という僅差での勝利だった。翌朝、新聞記者がヒューズの反応を取材するために会いに行くと、記者はヒューズの側近に、「大統領はお休み中だから邪魔をしないように」と告げられた。「起きましたら伝えるので伝言をどうぞ」と言われた記者は、「ヒューズに『君は大統領じゃないんだよ』と伝えて下さい」と答えたと記録されている。

 

[トリビア2]

初の女性大統領候補はヒラリーではない。

[解説]
1872年に平等権利党から立候補したビクトリア・C・ウッドハルという婦人参政権運動家が、女性初のアメリカ大統領候補だと言われている。ただ、当選の可能性はヒラリー・クリントンに比べるとかなり低かった。そもそも民主党でも共和党でもない第3党からの立候補であることに加え、当時のアメリカは女性に投票権がなかった(女性参政権が認められたのは1920年のこと)。そのため、ウッドハルは大統領候補として指名は受けたが、女性票がまったく見込めず、どう頑張っても女性初の大統領になることはできなかったのだ。


[トリビア3]

投票日とキリスト教には深い関係がある。

[解説]
大統領選の一般投票は「11月の第1月曜日の次の火曜日」と法律で決まっている。こんなややこしいルールとなっているのには理由がある。もし「第1火曜日」とした場合、暦によっては11月1日の「カトリックの祭日」と重なる可能性がある。さらに、ほかの曜日でなく火曜日としているのは、選挙日が設定された当時は、有権者の多くが田舎に住んでおり、日曜日の礼拝が終わってから馬車で遠方の投票所に向かうまでに十分な時間が必要だったから。キリスト教の信仰が厚いアメリカならではのルールなのだ。


[トリビア4]

新聞が、その結果を誤報してしまった大統領選挙がある。

[解説]
アメリカ大統領選挙の長い歴史の中でも、「最大の番狂わせ」と言われているのが、1948年のハリー・S・トルーマン vs トマス・E・デューイの戦い。トルーマンの民主党は政治的混乱から三つのグループに分裂し、中間選挙では共和党に議会両院の議席の過半数を奪われていた。世論調査での支持率も低く、トルーマンの敗北は必至と彼の妻でさえも考えていた。実際、とある新聞はデューイの勝利を確信して、投票日の夜に、「デューイトルーマンを破った」と翌日の見出しを印刷した。しかし、翌朝にトルーマンは大逆転勝利。間違った見出しを印刷してしまった新聞を手に取り、ニッコリと笑うトルーマン「現」大統領の写真が各紙の一面を飾ることになった。


[トリビア5]

リンカーン大統領当選の立役者は「少女」だった。

[解説]
立派な髭がトレードマークのリンカーンだが、選挙戦当初は髭を生やしてはいなかった。全米各地を演説でまわっていたある日、リンカーンの元に11歳の少女(グレース・ペデル)が書いた一通の手紙が届いた。そこには「髭を生やしたら威厳のある顔になって、みんなが投票しますよ」と書かれてあった。その手紙を受け取ったリンカーンは、戸惑いながらもすぐに少女に返事を書いた。「私はこれまで髭を生やしたことがありません。私が髭を生やしたら、バカなことをしたと思われませんか?」と。しかし手紙に返事はなく、どうしていいか分からなくなったリンカーンは、ものは試しと髭を伸ばし始めた。それから1ヵ月後、本当にリンカーンは大統領に当選した。大統領となった翌年、リンカーンはワシントンに移動する途中で少女の街に立ち寄り、「君のために髭を伸ばしたんだよ」と言って彼女の頬にキスをした。以来、亡くなるまで髭を剃ることはなかったという。


[トリビア6]

化粧を拒否して選挙に落選した大統領候補がいる。

[解説]
大統領選挙の結果を大きく左右するテレビ討論会。今では名物となったこの討論会が最初に行われたのは、1960年のケネディ vs ニクソン選でのこと。昔気質の政治家であるニクソンは、討論が始まる数時間前まで遊説を続けることに固執し、しかもブラウン管に映えるようなメーキャップも「男らしくない」と拒否した。その結果、疲労のために顔色が青ざめ、目の下にはくまが目立ち、スタジオの照明の暑さにやられて終始汗をぬぐっているニクソンの姿がテレビ放映された。そんなニクソンの様子は視聴者にはまるで病人のように映り、心配した母親が「息子は病気ではないか」と電話してきたほどだった。それに対して、ケネディは討論会の前には休養を取り、メーキャップを念入りに行い、「若く活力にあふれたリーダー」と視聴者に印象づけた。討論をラジオで聴いていた人々は「ニクソンが勝った」と思ったようだが、もはや時代は、大統領選挙の情報=テレビで得るものという風に変わっており、ほとんどの有権者は、「ケネディの圧勝」だと結論づけた。これ以降、政治家はテレビ映りを気にするようになり、選挙の参謀として「イメージコンサルタント」が重要な役割を果たすようになる。


[トリビア7]

ケネディ人気でバカ売れした椅子がある。

[解説]
デンマークのハンス・ヨルゲンセン・ウェグナーは20世紀を代表する家具デザイナーだったが、1950年に発表した椅子は、当時としてはあまりにもデザインがシンプル過ぎると受け取られ、「みにくいアヒルの子」と酷評。まったく売れなかった。しかし10年後のケネディ vs ニクソンのテレビ討論会で使用され、爆発的な人気を博すことになった。特に、軽やかに足を組んで椅子に腰掛け、ニクソンを制したケネディの姿は視聴者に強く印象付けられ、「自分もケネディのようになりたい」とあこがれた人々から大量の注文があった。もともとは「ラウンドチェア」という名前だったが、現在は完璧な機能美が高く評価され、「椅子の中の椅子」という意味を込め、「THE CHAIRザ・チェア)」と呼ばれている。


[トリビア8]

投票のデジタル化で、投票率が下がった地域がある。

[解説]
アメリカの投票は日本のように紙と鉛筆の記入式ではない。それぞれの地区によって方式は異なるが、ポピュラーなのは記入したマークシート用紙を機械が読み込んで集計する「光学スキャナー」や、タッチスクリーンで候補者を選び投票する「DRE(直接記録装置)」を使ったものだ。さすがアメリカはデジタル化が進んでいる──と思いきや、ほとんどの機械は古く、サポート期間が終わったWindows XPや2000を使っている地区も多い。しかも、入れ替えにかかる費用が負担できない地区もあるため、バグやフリーズが頻発し、投票所が混乱することも珍しくない。実際に2012年の大統領選挙では、約73万人の有権者が長蛇の列が原因で投票しなかったと言われている。フロリダ州では102歳の女性が3時間以上も待たされ、問題となった。デジタル化すれば万事OKとはいかないようだ。


[トリビア9]

大統領選挙がいつも白熱するのは「オハイオ州」と「フロリダ州」。

[解説]
アメリカ大統領選は各州の選挙人を勝者が総取りできる方式を採用しているため、選挙人の多い州での勝敗が当落につながるケースが多い。特に民主・共和両党の地盤ではない州は、選挙のたびに傾向が揺れ動き、趨勢が読めない「スイング・ステート」と呼ばれる。中でも有名なのが、オハイオ州とフロリダ州である。2000年のブッシュ vs アル・ゴアでは、フロリダ州での得票数があまりに僅差だったため、再集計をめぐって法廷闘争にまで発展。2004年のブッシュ(再選) vs ジョン・ケリーでも、今度はオハイオ州の勝敗が焦点となった。アメリカ大統領選の行方を知るためには、この両州の趨勢に注目しておこう。


[トリビア10]

日本のゲームソフトになったアメリカ大統領選挙がある。

[解説]
1988年10月に「ヘクト」という日本のメーカーから『アメリカ大統領選挙』というゲームソフトが発売された。これは、投票を間近に控えた同年の大統領選の結果をシミュレートするというゲームソフトだった。プレイヤーは共和党か民主党の候補となり、政党の予備選挙、全国党大会、そして本選挙を戦い、最終的にアメリカ合衆国大統領を目指す。ニュース番組「CNNデイウォッチ」のメインキャスターを務めた伊藤信太郎氏が監修をしており、ゲームに登場するキャラクターも実際の候補者たちがモデルになっている。


参考文献:
明石和康『アメリカ大統領選物語─ホワイトハウス彩った42人』(時事通信社
The Strange Tale of the First Woman to Run for President(Politico Magazine
砲火のなかで停戦交渉 サンフランシスコへ 日米外交60年の瞬間(日本経済新聞
討論会での一挙手一投足に注目、失敗は命取りも 初のテレビ討論はケネディvsニクソン産経ニュース)
織田憲嗣ハンス・ウェグナーの椅子100』(平凡社
アメリカ大統領選、予算不足で3割近くが不正懸念の電子投票機使用(ニューズウィーク日本版)
フロリダ・オハイオ…大統領選、注目の激戦州(日本経済新聞