「もも、もも♪ もも、もも♪ もも、もも♪」
その特徴あるメロディとフレーズが、
多くの人の印象に残る「い・ろ・は・す もも」のCM。
「不思議な中毒性がある」とソーシャルメディアで話題となり、
多くのネットニュースでも取り上げられました。
一度見れば忘れられないこのCMは、果たして、
話題づくりのために“狙った”ものなのか?
い・ろ・は・す」ブランドのCM企画を担当する、
日本コカ・コーラ株式会社 マーケティング本部の松尾アンソニーさんに、
CM制作の裏側について聞いてみました。
 
取材・文=小山田裕哉
写真=村上悦子


■企画のキーワードは“登場感”

──俳優の阿部寛さんと女性たちが円卓を囲み、「もも、もも♪」と繰り返し歌う「い・ろ・は・す もも」のCM。昨年テレビで放映されるやいなや、YouTubeでの動画再生数が100万回を超えるなど、大きな話題になりました。これは社内でも想像以上の反響でしたか?

松尾:そうですね。もともと「い・ろ・は・す」は、ソーシャルメディアと親和性が高いブランドです。誕生した当初から、飲み終わったPETボトルを捨てるときに、しぼってコンパクトにできる「しぼれるボトル」が、ネット上でウケが良かった。おかげさまで、エコブランドとしての認知はかなり広まったと思っています。

そこで昨年からは、今まで以上に、水本来の魅力を伝えることに注力しています。「おいしさも環境も大切にする、水を愛する水」をテーマに、広告を企画・展開してきました。

今回の「い・ろ・は・す もも」も、製品開発の段階から、製品そのものへの評価は高かったんです。しかし、「もも」というフレーバー自体は珍しいものではない。王道を狙った新製品に、どうやって“登場感”を与えるか。それがCM企画のポイントになりました。

──その登場感を演出するための要素が、あの「もも、もも♪」という歌だった?

松尾:ええ。しかし、「ネット上で話題になりそうだな」と狙ったわけではありません。そもそも最初の企画段階では、輪になった女性たちが「もも、もも」とフレーズを何度も言うだけで、リズムもメロディもなかったんです。しかしテストで撮影してみたら、あまりにも印象が重々しかった(笑)。そこでもっと明るく、ポジティブなイメージを与えるためには、どうすればいいのかと考えたんです。

ネット上で話題の「い・ろ・は・す もも」CM企画担当者を直撃!
「もも、もも♪」の歌の意味ってなんですか!?

自然にフレーズを繰り返して言えるように、手拍子を入れてリズムを取り、メロディを載せました。確かに、「もも」というワードを笑顔で何度も繰り返している映像を最初に見たときには、少し違和感もありましたよ(笑)。でも最終的に、「あの『い・ろ・は・す』から『もも』が出ました」という登場感を与えるためには、引っ掛かりとしての違和感はあったほうがいいと判断したんです。

──最初からネットでの口コミによる拡散を狙っていたわけではないとは意外でした。

松尾:「い・ろ・は・す」と「もも」を結びつけて覚えていただくために、何度も繰り返すという発想が生まれただけだったんです。だから初めの質問に戻ると、これほど話題にしていただけたのは想像以上ですし、うれしかったですね。




■表現に違和感があるから口コミは広がる

──ネットでは「もも、もも♪」の歌を二次創作的に使った動画までつくられました。

松尾:何度もひたすら歌を繰り返す耐久動画とかありましたね。公式に認めることは難しいですが、個人的には、CMをああいう風にイジってもらえるのはありだと思っています。コミュニケーションのネタにしてもらうことで、製品がより浸透していく。街で女子高生が「もも、もも♪」と口ずさんでいるのを聞いたときには、さすがに「ここまで広まっているのか」と驚きましたが(笑)。

──製品やブランドを印象づけるために特定のフレーズを繰り返すCMは、ほかにもあります。その中で今回のCMがこれほど話題になったのは、なぜだと思いますか?

松尾:やはり、良い意味で違和感があったからでしょう。これは経験則ですが、私たち制作側の人間もちょっとザワッとするような要素があったほうが、話題になることは多い。反対にみんなが素直に納得できる表現だと、広告としてはあまり話題にならない印象です。

もうひとつの理由は、違和感の中に、ユーザーが楽しんで参加できる要素もあったからだと思います。思わず自分も口ずさんでみたくなる、そういう「プレイフル」な要素があると、ソーシャルメディア上で口コミが広まって行きやすい。

い・ろ・は・す」というブランドには、「プレイフル イノベーション」というコンセプトがあります。エコを実現するために「ボトルを小さくしぼって捨てよう」と提案しているように、ユーザーが楽しんで参加できる要素を組み込むことがブランドの方針なんです。ブランドとしてのコアのコンセプトと、広告のコアのコンセプトが合致したからこそ、「い・ろ・は・す もも」のCMはこれだけ話題になったのではないでしょうか。




阿部寛さんも実際の桃畑で撮影しています

──単に話題づくりを狙うだけの広告ではダメで、ブランドのコンセプトに合致していなければ、ユーザーには響かないということですね。

松尾:さらに付け加えると、プレイフルな要素がありつつも、表現のクオリティも追求していかなければならないと思います。遊びの中にも、細部にちゃんとこだわりを見せていかなければ、ブランドは確立しない。「い・ろ・は・す」ブランドのCMで言えば、水の美しさ、おいしさを伝えることに妥協してはならないということです。

──具体的には、どういったかたちで表現したのでしょう?

松尾:たとえば、頭上に登場する桃の形をした水の表現です。CGで瑞々しさを伝えるのって意外と難しいんですよ。そこで「い・ろ・は・す もも」では、「もも、もも♪」の手拍子に合わせて、桃の形をした水を大きくし、最後に弾けさせました。水の表現に動きを加えることで、フレッシュ感を表したんです。

ネット上で話題の「い・ろ・は・す もも」CM企画担当者を直撃!
「もも、もも♪」の歌の意味ってなんですか!?

細部へのこだわりはまだあります。桃の形の水はCGで後から付け加えていますが、撮影自体は山梨県の桃畑に行ってロケをしているんですよ。

──そうなんですか!? てっきりスタジオ合成だと思っていました。

松尾:それも狙いのひとつで、「い・ろ・は・す」ブランドの広告では、ファンタジーとオーセンティシティ(信ぴょう性)の融合を表現のテーマにしています。実際に桃畑まで行って撮影することで、「山梨県産の桃を使用している」というポイントをしっかり伝える。そのうえでCGによる表現を加え、映像にファンタジックな魅力を与えています。

真夏の暑い現場でしたが、阿部寛さんにもご協力いただいて、リアリティのある映像と、CGによる幻想的な表現を組み合わせた、こだわりのあるCMがつくれたと思っています。




■あれは「召喚の儀式」? 噂の真相は……

──「い・ろ・は・す」は2009年の誕生から7年が経っても新製品が話題になる、ロングセラーブランドとなりました。2016年もユーザーの話題になるために、計画していることはありますか?

松尾:2016年は「エコ」というコンセプトをさらに進めて、「WATER NEUTRALITY(ウォーター・ニュートラリティー)」を実現していきたいと思っています。ボトルをリサイクルするだけでなく、製品に使った量と同じ量の水を自然に還元する取り組みです。具体的には、天然水の売り上げの一部を、採水地の水を守る活動に寄付していきます。

さらに、この「WATER NEUTRALITY」の活動にユーザーが参加できるよう、ウェブで「い・ろ・は・すの森」というサイトも立ち上げました。ユーザーが「い・ろ・は・す」と一緒に写っている画像を投稿することで、「い・ろ・は・すの森」に樹が植えられていくプロジェクトです。

「もも、もも♪」の歌によるものとは違う、ネットならではのインタラクティブな参加感を提供することで、より深く「い・ろ・は・す」というブランドを知ってもらいたいと思っています。

──なるほど。ちなみに、「もも」の次のフレーバーは決まっていますか?

松尾:次のフレーバーは……まだ秘密です。まもなく発表する予定です。

──楽しみです! 最後に、これだけ教えてください。「い・ろ・は・す もも」のCMがネット上で「桃を召喚する儀式ではないか?」と噂されていたことについては、どう思っていたのですか?

松尾:うーん……、面白い解釈だとは思いましたけど(笑)。あれは召喚の儀式では決してなく、「い・ろ・は・す もも」という新製品の登場を祝うための会という設定だったんですよ。「待ってました!」という感じを伝えたかったので、みんなで一緒にテーブルを囲んでいるのです。

──ようやくスッキリしました(笑)。これからも魅力的なCMを期待しています。

「い・ろ・は・す」ブランドサイト
http://www.i-lohas.jp/



<プロフィール>
ネット上で話題の「い・ろ・は・す もも」CM企画担当者を直撃!
「もも、もも♪」の歌の意味ってなんですか!?

まつお・あんそにー/ 1976年、米国カリフォルニア州サンフランシスコ生まれ。ワイデン+ケネディネイキッド・コミュニケーションズを経て、2014年日本コカ・コーラに入社。「い・ろ・は・す」をはじめ、「アクエリアス」「Toreta! とれた!」などのCM企画に携わる。