写真/文=柴田隆寛

さまざまなジャンルで活躍するライターや作家、編集者たちによって
結成された『Coca-Cola Journey』ライターチーム。
同チームのメンバーが、自ら企画を考え、
自ら記事を執筆する不定期連載の第3弾の「前篇」をお届けします。
今回の担当は、編集者の柴田隆寛さん
食べておしまい、の“消費する食”とは異なる、
“コミュニティづくりに活かされる食”を採り上げていきます。

 

■食べる、つながる

 今から約4年前。当時、僕が編集に携わっていたファッションカルチャー誌『HUGE』(講談社)で“EAT LOCAL, THINK COMMUNITY.~食べる つながる~”という「食」をテーマにした特集号をつくった。その号にゲストエディターとしても参加してくれた編集者の岡本 仁さんから、ロサンゼルスにある「COOK BOOK」というグリーングローサーの話を聞いたことが、特集記事をつくるきっかけになった。

 グリーングローサーとは、善き隣人のための小さな食材屋のこと。地元の旬の野菜などを扱うその店は、地域住民の空腹を満たすだけでなく、生産者と消費者をつなぐハブとしてコミュニティの地産地消活動も満たしていた。やがて、特集記事のリサーチを進めるうちに、それはアメリカに限った話ではないということが分かった。

 食を通して人をつなぎ、自分たちの手で心地良い風景をつくろうとしている人たちを紹介したい。そんな思いに駆られ、僕はコミュニティを特集記事の切り口に据えることにした。

食がつなげる、人と笑顔とコミュニティ。 EAT LOCAL, THINK COMMUNITY. VOL.1 山角や(出張専門・オーダーメイドのおむすび屋/前篇)

鹿児島で毎年8月に開催されている、クリエイティブな活動を森のなかの廃校で楽しむ参加型のフェスティバル 「GOOD NEIGHBORS JAMBOREE」。 写真は、今回取材させてもらった「山角や」と「マウンテンモーニング」の2015年の出店風景

食がつなげる、人と笑顔とコミュニティ。 EAT LOCAL, THINK COMMUNITY. VOL.1 山角や(出張専門・オーダーメイドのおむすび屋/前篇)

アーバンリサーチドアーズ〉が群馬県嬬恋村で開催している野外フェス"KNOCKING ON THE DOORS TINY GARDEN FESTIVAL"。写真は2014年度の「山角や」のブースの様子

 この特集記事で、ブルックリンの食のアルティザン(職人)たちをレポートしてくれた友人でもあるNY在住のライター佐久間裕美子さんは、自身の著書『ヒップな生活革命』(朝日出版社)で、全米各地で巻き起こっているこうした動きやアメリカ人の意識の変化について、こんな風に書いている。

「同じような意識や価値観を共有する人たちの手によって起きている小さなムーブメントは、今の時代にあってインディペンデントな生き方をしたい人たちにヒントをたくさん与えてくれます。世界中に散らばった小さなコミュニティは呼応しあってより大きな文化の潮流を形成し、大きな力を前に無力感に打ちひしがれながら何もできずに生きていく必要はない、ということを私たちに教えてくれるのです」

 もちろん、現在もそのムーブメントは続いている。そして、それはさらに大きなうねりとなって、アメリカだけでなく日本各地にも広がっている。この企画「EAT LOCAL, THINK COMMUNITY.」は、そのレポートのようなものだ。この場=『Coca-Cola Journey』を借りて、その小さなムーブメントの担い手たちを紹介したいと思う。

食がつなげる、人と笑顔とコミュニティ。 EAT LOCAL, THINK COMMUNITY. VOL.1 山角や(出張専門・オーダーメイドのおむすび屋/前篇)

「鉄鍋で炊飯すると、しゃっきり粒感のある炊き上がりになる。おむすびにおすすめです」と水口さん。おむすびの味を決めるご飯の炊き方にも、徹底したこだわりが

 

■なぜ、彼らは「おむすび」をむすぶのか?

 今回紹介する「山角や」は、出張専門・オーダーメイドのおむすび屋だ。現在のメンバーは男子ふたり。ともに、グラフィックデザインと映像制作というクリエイティブな本職を持つユニークなユニットだ。店を持たない彼らは、不定期で原宿の「VACANT」でポップアップショップを行うほか、イベントやワークショップなどを中心に精力的に活動を続けている。しかし、一体なぜ? おむすびなのか? 主宰者のひとりである水口拓也さんに話を聞いた。

食がつなげる、人と笑顔とコミュニティ。 EAT LOCAL, THINK COMMUNITY. VOL.1 山角や(出張専門・オーダーメイドのおむすび屋/前篇)

食がつなげる、人と笑顔とコミュニティ。 EAT LOCAL, THINK COMMUNITY. VOL.1 山角や(出張専門・オーダーメイドのおむすび屋/前篇)

2016年より原宿の「VACANT」で開催しているポップアップショップの様子。開催スケジュールは、「山角や」ホームページをチェック

「最初は、撮影現場で食べる朝ごはん用に、自分でおむすびを結んで持っていってたんです。グラフィックデザインという仕事柄、チームで動くことが多くって。それで、次第にスタッフの分も用意するようになったんです。いつの間にか、それが現場の定番になってしまって(笑)。おいしい朝ごはんがあると、スタッフの仕事のモチベーションも上がるし、仕事の成果にもつながるということが分かったんです」

 何よりも人に喜んでもらえることが嬉しかったという水口さん。やがて彼は、でき立てのおむすびを食べてもらいたいという思いから、撮影現場で米を炊き、その場でおむすびを結ぶようになる。そんな彼が「山角や」としての活動を始めたのは、2012年のこと。前年の3月11日に起こった東日本大震災がひとつの大きな転機になったという。

「今の仕事に対して、このままでいいのかと自問自答していた頃、震災が起こったんです。そんな時に、メンバーの山形と出会って。彼も映像の撮影現場で、スタッフのためにごはんを炊いたり、食事をつくったりしていたんですね。その時、価値観を共有する人間が食べることを通じてリアルにつながっていくのっていいなって思って。もっと社会に対して働きかけられるようなこと、生活に身近なこと、直接的に人と関わるようなことがしたいと思い、『山角や』を始めました」

食がつなげる、人と笑顔とコミュニティ。 EAT LOCAL, THINK COMMUNITY. VOL.1 山角や(出張専門・オーダーメイドのおむすび屋/前篇)

“都市と農業のおいしく新しい関係”をコンセプトに、渋谷の「FabCafe TOKYO」で開催されたイベント「Farm to Table / Table to Farm #2」でのおむすびワークショップの様子

食がつなげる、人と笑顔とコミュニティ。 EAT LOCAL, THINK COMMUNITY. VOL.1 山角や(出張専門・オーダーメイドのおむすび屋/前篇)

子供たちにダントツの一番人気だという「塩むすび」。シンプルながらも、素材の味がダイレクトに味わえる逸品だ

(後篇につづく)

食がつなげる、人と笑顔とコミュニティ。 EAT LOCAL, THINK COMMUNITY. VOL.1 山角や(出張専門・オーダーメイドのおむすび屋/前篇)

山角や
水口拓也(右)と山形祐也(左)が主宰する出張専門、オーダーメイドのおむすび屋。固定の店を持たず、行く先々のニーズに合わせた最適なかたちで、出来立てを提供するのがポリシー。イベントやワークショップなどを通じて、日本人のソウルフード「おむすび」の新しい魅力を提案している。
http://sankakuomusubi.jp

 

<筆者プロフィール>
しばた・たかひろ / 編集者/編集事務所Kichi主宰/クリエイティブコミュニティ「MOUNTAIN MORNING」メンバー。webビークルP Vehicle For New Days』編集長。創刊から39号まで、マガジンハウス『&Premium』のエグゼクティブディレクターを務める。現在は雑誌・書籍・web・広告・イベントのディレクションなど、ファッョン・ライフスタイルの領域を中心にシームレスに活動中。主な編著書に『TOOLS』、『リサ・ラーソン作品集』、『ビームスの神戸』など。編書に『柚木沙弥郎 92年分の色とかたち』、『恐竜人間』(写真・藤代冥砂、恐竜制作・下田昌克、詩・谷川俊太郎)、『LIFE CYCLING』などがある。
http://www.mountainmorning.jp