食べておしまい、の“消費する食”とは異なる、
“コミュニティづくりに活かされる食”を採り上げていく
「EAT LOCAL,THINK COMMUNITY.」。
今回は、前回に続き、
出張専門・オーダーメイドのおむすび屋「山角や」の主宰者たちの、
おむすびに対する熱い想いなどを描いていきます。

(前篇はこちら)

写真/文=柴田隆寛

 

■にぎるんじゃない、むすぶんだ

 活動を始めた当初は、「おにぎりや」と名乗っていたという「山角や」。とあるイベントで客として訪れた神主さんと出会ったことがきっかけで、「握る」のではなく「むすぶ」という言葉に自覚的になったと主催者のひとり、水口拓也さんは語る。

「おむすびの形は、昔から日本の信仰の対象だった山を模したものだったとのこと。さらに日本には、左手と右手があわさることで特別なエネルギーが生まれるという考え方があって、それを“むすひの神”と呼ぶということを教えてもらったんですね。それから、人と人を結ぶ、つなげるということを意識するようになりました」

 おにぎりを英語では、“RICE BALL”と訳すが、おむすびに当たる英語は見当たらない。水口さんは、“米の塊”ではなく、英語に翻訳できない「おむすび」に、日本人ならではの“おもてなし”の精神を込めようとしている。

「様々なイベントに出店して、日本各地の生産者と知り合ううちに、彼らと消費者を“むすぶ”存在になりたいと思うようにもなりました。もしかしたら、それは石川県で米農家を営む父方の祖父の影響があるのかもしれません。とにかく一番、おいしいものをいちばんいいタイミングで結んで出す。そのプロセスをすべて可視化することで、ダイレクトに人に喜んで貰えるおむすびをつくりたいといつも思っています」

 その言葉通り、どんなイベントであっても、オーダーが入ってからおむすびを結ぶ「山角や」のスタイルは、まるで江戸前の寿司屋のよう。ビジネスとして考えると、それは決して効率的とは言えないかもしれない。ただ、決してつくり置きをお客さんに提供しないのが、彼らのポリシー。よりおいしいものを届けたいという思いが尽きることはない。

「生産者と交流するようになって、米や海苔、塩や醤油といった素材についても、より詳しく知りたいと思うようになりました。ただ、ニーズがあって出店する出張専門だとなかなか思うように突き詰めることができないし、客前で腕を磨く料理人には太刀打ちできない。日々のルーティンワークの中で精度を少しでも高められたらという思いもあり、いつかはお店をやりたいという気持ちが強くなってきました」

虎ノ門での「おむすびワークショップ」の風景。みんなでテーブルを囲み、おむすびを結ぶと、参加者同士の輪が自然と広がる

 

山角や」の人気メニューの一つである、焼鮭甘酢漬けのおむすび。上に乗せた大葉と鮭の皮の食感も美味しい一品

 

■「おむすび」が伝えるこころ

 今や、水口さんのライフワークとなった「山角や」。ここ最近、彼が力を入れているのが、人とより親密に向き合うことができるワークショップだ。

「親から子へ、そして子から親へ。親子でおむすびを結び合うワークショップを行ったりしています。日々の生活の中で、食を通して互いを思い合うような機会をもっとつくれたらいいなと思っています」

 店主と客といった垣根を超えて、フェアな交流ができるワークショップは、彼にとって、新しいアイデアを得ることができる貴重な機会。そして、何より参加者と喜びをシェアできるのがたまらなく楽しいという。

「生前、お会いすることは叶わなかったのですが、青森に『森のイスキア』という施設をつくり、日本のマザー・テレサと呼ばれた佐藤初女さんには、本を通して大切なことを教えてもらった気がします。すべての食べ物を命として扱うこと。そして、おむすびを結ぶことは、結ぶ人の心を伝えること。だからこそ、彼女が結んだおむすびは、多くの悩める人の心を救ったのだと思います。『本格的なビジネスにしないのか?』と聞かれたりもするのですが、売り上げ規模の拡大を求めると食材を無駄にしてしまうリスクも増えるし、一つひとつの味の純度も薄くなってしまう。だからこそ、僕は自分の手の届く範囲で活動を続けていきたいと思っています」

 ただ真っ直ぐに、目の前にいる人を喜ばせたい。その気持ちは、撮影現場でおむすびを結び始めた頃と少しも変わらない。日本人にとって身近なおむすびという「食」を通じて、心の交流を生み出し、人と人の縁を結いたい。そんな思いを胸に、今日もまた、彼はおむすびを結んでいる。

山角や
水口拓也(右)と山形祐也(左)が主宰する出張専門、オーダーメイドのおむすび屋。固定の店を持たず、行く先々のニーズに合わせた最適なかたちで、でき立てを提供するのがポリシー。イベントやワークショップなどを通じて、日本人のソウルフード「おむすび」の新しい魅力を提案している。
http://sankakuomusubi.jp

 

<筆者プロフィール>
しばた・たかひろ / 編集者/編集事務所Kichi主宰/クリエイティブコミュニティ「MOUNTAIN MORNING」メンバー。webビークル『P Vehicle For New Days』編集長。創刊から39号まで、マガジンハウス『&Premium』のエグゼクティブディレクターを務める。現在は雑誌・書籍・web・広告・イベントのディレクションなど、ファッョン・ライフスタイルの領域を中心にシームレスに活動中。主な編著書に『TOOLS』、『リサ・ラーソン作品集』、『ビームスの神戸』など。編書に『柚木沙弥郎 92年分の色とかたち』、『恐竜人間』(写真・藤代冥砂、恐竜制作・下田昌克、詩・谷川俊太郎)、『LIFE CYCLING』などがある。
http://www.mountainmorning.jp