さまざまなジャンルで活躍するライターや作家、編集者たちによって結成された『Coca-Cola Journey』ライターチーム。
同チームのメンバーが、自ら企画を考え、
自ら記事を執筆する不定期連載の第4弾をお届けします。
今回の担当は、音楽ジャーナリストの柴那典さん
作詞家やソングライター、詩人や歌人のような言葉の専門家たちと
今という時代を切り取る“歌”の鮮度について分析していきます。

文=柴那典
ゲスト=いしわたり淳治(作詞家・音楽プロデューサー)

 

歌は世につれ世は歌につれ──

そんな決まり文句は、果たして今の時代も通用するのだろうか? 小さな子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで一つの流行歌を口ずさむことができた昭和の歌謡曲の時代。100万枚を超えるミリオンセラーが続出した90年代のJ-POP全盛期。かつてヒットソングの言葉はCMやドラマを通じてマスに広く伝わり、時代を彩っていた。

一方、00年代に入ってからここ数年は、「J-POPの歌詞が紋切り型になっている」という指摘が見られるケースが増えてきた。たとえば芸人・ミュージシャンのマキタスポーツは著書『すべてのJ-POPはパクリである (~現代ポップス論考)』で、「翼」や「さくら」や「キセキ」など歌詞に頻出するワードがあることを指摘している。

では、今はどうなのだろうか?

筆者としては、今も昔も「歌は世につれ世は歌につれ」だと思っている。ヒットソングのつくり手は、時代の空気を切り取る言葉を、そして今を生きる人たちの心に刺さるような表現を吟味して選んでいるのではないかと思っている。

とはいえ自分だけでそれを言っていてもしょうがないので、作詞家やソングライター、詩人や歌人のような言葉の専門家たちとそういうテーマについて語り合おうというのが、この企画だ。「昔はよかった」ではなく、歌が今という時代を切り取る鮮度について分析していきたいと思う。

というわけで第1回に登場していただいたのは、いしわたり淳治さん。97年にロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー、解散後は作詞家としてキャリアを重ねている。

AI、西野カナ、平井堅…… ヒットソングの歌詞から読み解く 「ニッポン」の今と「ことば」の今

「僕は2005年にバンドを解散したんですけど、そのときにレーベルの社長に『この先は作詞家をやろうと思います』って言ったら『それで食っていけるのか?』と聞かれたくらい、その時点で作詞家というのは先行きの明るい職業ではなかったんです。けれど、今は需要は増えていると思いますね」

実は作詞家という職業のあり方も時代によって変わってきたのだという。

「まず歌謡曲の時代までは、職業作家と呼ばれる作詞と作曲のプロが曲をつくって歌手に提供する形が主流だったんですね。けれど、80年代の頃からシンガーソングライターやバンドのような自作自演の歌詞が増えてきた。それを経て『自作自演こそが価値がある』という感覚に染まったのが90年代から2000年代までの価値観だと思うんです。ただ、やっぱりそれが行き過ぎると、たとえ未熟でも歌う本人が書いた歌詞をありがたがるという感覚になってしまう。だから世の中に未熟な歌詞がたくさん出回っていた時代があったということだと思います。一方、2010年代に入るとアイドルがメインカルチャーとして再注目されるようになって、作詞家の仕事に再び脚光が当たるようになっているという感じだと思います」

AI、西野カナ、平井堅…… ヒットソングの歌詞から読み解く 「ニッポン」の今と「ことば」の今

では、いしわたり淳治さん自身はどんな歌詞が今という時代を象徴していると思うのだろうか? 歌詞を高く評価する最近の3曲を挙げてもらった。

 

1曲目 西野カナHave a nice day」 (作詞:Kana Nishino

(歌詞はこちら)

「僕は西野カナという人を天才だと思っているんです。というのは、今の時代にどうやったら自分の曲が誰かの暮らしのBGMになるかということに、とても気持ちが届いているんですね。そういう風に機能するキーワードがたくさん入っている。いわばLINEスタンプ的な言葉が歌詞の中にたくさんあるんです。たとえば〈かんばれ私!〉とか〈行ってきます〉とか〈その調子〉とか。そういうスタンプ的なワードが並んでいる。僕はキャッチーの金太郎飴と呼んでいますね」

 

2曲目 平井堅魔法って言っていいかな?」 (作詞:Ken Hirai

(歌詞はこちら)

「この曲はサビがすごく良いんです。〈大袈裟な事は 何も出来ないけど 君を笑顔にする魔法はいくつか持ってるんだ〉と最初に歌って、その後は〈帰り道の 犬の鳴き真似 あの日の本音 君の寝言の話 そして大好きのキス〉とエピソードを羅列している。ここって、恋人たちが自分たちのエピソードで替え歌にできるなと思ったんです。そういう風にして、人の暮らしの中で機能する音楽っていうのもあると思うんですね。歌が聴く人に寄り添う形って、いろんな形があっていいと思うんです」

AI、西野カナ、平井堅…… ヒットソングの歌詞から読み解く 「ニッポン」の今と「ことば」の今

 

3曲目 AIみんながみんな英雄」 (作詞:篠原誠

(歌詞はこちら)

「上の2曲は自作自演の曲ですけれど、この曲はCMソングで、歌詞を書いたのは電通の方なんですよ。今は『上を向いて歩こう』くらいの広さを持った曲を書ける人がどんどん減っている気がして。何故かと言うと、みんなが音楽を自己表現だと思いすぎてるからじゃないかと思うんですよね。そのおかげであけすけな表現が増えているし、さらに言えば皆がイヤホンで聴くようになったことで、音楽が個人的な楽しみになっている。だから、今の時代に広いことを書くのって結構むずかしいんですよ。ありきたりになってしまうから。でもこの曲はリビングで鳴ることをイメージしている。世の中は明るいという気持ちを視点として貫いて、最近ではまれに見る完成度でまとまっていると思います」

AI、西野カナ、平井堅…… ヒットソングの歌詞から読み解く 「ニッポン」の今と「ことば」の今

 実は、いしわたり淳治さんが挙げてくれた3曲には、一つの共通する視点がある。それは、歌が人々の暮らしの中で「機能する」ということ。自分自身の心情や思いを表現するため、曲の物語やメッセージを伝えるためというよりも、聴く人が日常生活の中で口ずさんだ時にどういう気持ちになるかという発想から言葉が考えられている。

「紋切り型になっている」という指摘が増えた00年代の頃と今とでは、J-POPのヒットソングの言葉を巡る状況は少しずつ変わっているようだ。アイドルグループの隆盛もあって、再び作詞家たちの仕事にも注目が集まっている。未熟な歌詞よりプロフェッショナリズムを貫いた歌詞の方が受け入れられるのが、今という時代なのである。

 

<ゲストプロフィール>
いしわたり・じゅんじ / 1997年SUPERCAR(スーパーカー)のメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。バンド解散後は作詞家として、Superflyの「愛をこめて花束を」や、少女時代の「PAPARAZZI」、chayの「あなたに恋をしてみました」など、数多くの楽曲を手がけ、また音楽プロデューサーとして9mm Paraberam BulletねごとGLIM SPANKYなど数多くのバンドやアーティストのプロデュースをつとめる。また、著書に小説・エッセイ集『うれしい悲鳴をあげてくれ』(筑摩書房)がある。

<著者プロフィール>
しば・とものり / 1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。主な執筆媒体は『AERA』『ナタリー』『CINRA』『MUSICA』『リアルサウンド』『ミュージック・マガジン』『婦人公論』など。『cakes』にてダイノジ大谷ノブ彦との対談連載「心のベストテン」、『リアルサウンド』にて「フェス文化論」、『ORIGINAL CONFIDENCE』にて「ポップミュージック未来論」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)がある。