ヒットソングのつくり手は、時代の空気をどのように切り取っているのだろうか? 紋切り型の表現におちいることなく人々の心に共感を生み出す「ことば」は、どのようにして生み出されているのだろうか?
作詞家やソングライター、詩人や歌人のような「ことば」の専門家と共に、現在のJ-POPの楽曲をとりあげ、その歌詞の魅力について語り合うシリーズ企画の第2弾。
執筆は前回に引き続き『Coca-Cola Journey』ライターチーム(*)柴那典さんです。

*さまざまなジャンルで活躍するライターや作家、編集者たちによって結成されたチーム。『Coca-Cola Journey』では、同チームのメンバーが自ら企画を考え、自ら記事を執筆する企画も定期的に掲載しています。

取材/文=柴那典
ゲスト=加藤千恵(歌人・小説家)

 

「集団行動」「私立恵比寿中学」岡村靖幸、小沢健二…… ヒットソングの歌詞から読み解く 「ニッポン」の今と「ことば」の今

2001年に短歌集『ハッピーアイスクリーム』で高校生歌人としてデビューした加藤千恵さんは、短歌、小説、詩、エッセイのほか、ラジオなどのメディアでも幅広く活動中。短編集『いつか終わる曲』には、フジファブリック夜明けのBEAT」、くるりワンダーフォーゲル」、スピッツ冷たい頬」、andymori夢見るバンドワゴン」などの実在する15曲をショートストーリー化し、収録した。

「本当に音楽が好きなんです。邦楽、J-POPが好きで、中学生くらいからいろいろ聴いてきていて。だから『いつか終わる曲』に関しては、完全に私の趣味ですね。普段は編集者さんから『こういうテーマで書きませんか?』と提案いただいて小説を書くことが多いんですけれど、これに関しては私から企画を立てました。たとえば映画でも、音楽がかかった瞬間にすごくグッとくる場面があるじゃないですか。それを小説でもやれたらなと思ったんです」

そんな加藤千恵さんだけに、やはり音楽を聴く時には歌詞がポイントになるという。

「歌詞は大事ですね。当たり前すぎない言葉で『この光景、あるな』とか『この感情、知ってるな』と思わされる歌に惹かれます」

そんな観点から思い入れの強い曲を挙げ、そこから浮かぶ光景や物語について語っていただいた。

 

1曲目 集団行動バックシート・フェアウェル」(作詞:真部脩一

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「元・相対性理論真部脩一さんが結成した集団行動というバンドの曲です。この曲は《真夜中タクシーに乗って 爆心地まで 最短で向かうから》のように、ハッとするフレーズが出てくるんです。しかもこれ、『タクシー』と『爆心地』で韻を踏んでるんですよね。他にも《スレイマンの時代から》とか《1メーターって何km?》とか、すごく記憶に残るフレーズが出てくる。言葉のセンスがずば抜けてますね」

──この歌の主人公は二人でタクシーのバックシートに座っていますよね。どんな物語が思い浮かびますか?

「いろんな風に受け取れますね。ラヴソングにも受け取れるけど、人生のことを歌ったようにも思える。私は許されない二人をイメージしてしまいます。逃げようか迷っているけれど、たぶん逃げられない。『ひょっとしたら心中なのかな?』って思ってしまう。ものすごくドラマチックな光景が浮かぶんですけれど、それを淡々と描いているのに惹かれますね」

「集団行動」「私立恵比寿中学」岡村靖幸、小沢健二…… ヒットソングの歌詞から読み解く 「ニッポン」の今と「ことば」の今

 

2曲目 私立恵比寿中学感情電車」(作詞:田村歩美たむらぱん>

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エビ中はいろんなミュージシャンの方が提供した楽曲のクオリティが高いんですけれど、特にこの『感情電車』は名曲ですね。この曲、Bメロでいきなり違う曲が混ざったような感じになるんですよ。歌詞もそうで、《わかぎたちさくのははるのはな》からの4行って、文字で読んでも『え? 何だろう?』と思う。しかも、1番では『はる』『なつ』『あき』『ふゆ』という言葉が使われていて、2番は《あかねさしまつのはあさのにわ》から『あさ』『ひる』『よる』となって、最後に《となりあうすそねをえにかいた》になる。ここは『わあ、すごい!』って鳥肌が立ちました。美しいフレーズですよね。それに、実際に曲を聴くと、そこがバラバラにならず、サビのところの気持ちよさにつながっていく。字面で見たときの印象が『なるほど、こうなるんだ!』となるのも見事です」

──この歌から浮かぶ情景はどんな感じでしょう?

「これはエビ中の子たちの姿ですね。ミュージックビデオでも箱根旅行をしてるので、そのイメージと重なる感じです。若い女の子たちがいろんな思いを抱えながら進んでいく様子が浮かびますね。この曲、《感情電車は特快で 今もう もう どこにも止まれないよ》って終わるんです。『止まらない』じゃなくて『止まれない』なのがポイントだなって。自分の感情をコントロールできない若い時の感じが表れていると思います」

 

3曲目 岡村靖幸ラブメッセージ」(作詞:岡村靖幸

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岡村さんは中学生の頃から好きなんですけれど、50歳代になった今もずっと青春ソングを歌い続けている。そこに感動しますね。この曲は『ラブメッセージ』っていうタイトル通り、本当にまっすぐなラヴソングだなって思います。サビ前の《アイ ウォント ユー ユー ウォント ミー?》というのも、シンプルだけどすごく切実さを感じる。《電信柱の 剥がれかけた 紙のような気分さ》とか、比喩もいいんですよね。切なさとかみじめさ、不安定な気持ちが伝わってくる。あと、《星座達よ 僕にチャンスを》というのもいいですよね。『星に願いを』っていうのはよくある表現ですけれど、『星座』という言葉を選ぶのがこの曲に合っていて格好いいと思いました」

──この曲からはどんな情景が浮かびますか?

「私が思うのは、恋が上手くいってない、片思い真っ盛りの男性のイメージですね。10歳代か、あるいは20歳代前半。いろいろ上手くいってなくて、ドジなこともしちゃうけど、ほんとに彼女のことが好きな人っていうのが浮かんできます。不器用な、空回りしがちな男の人。でもチャーミングさもあるという。やっぱり岡村さんのイメージとどこか重なっちゃいますけれどね」

「集団行動」「私立恵比寿中学」岡村靖幸、小沢健二…… ヒットソングの歌詞から読み解く 「ニッポン」の今と「ことば」の今

 

4曲目 小沢健二流動体について」(作詞:小沢健二

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「去年ライヴに行ったんですけれど、披露された新曲がことごとく素晴らしくて。感動してちょっと泣いちゃいました。映像に歌詞が映っていたんですけれど、それを見て、私、短編小説のようだと思ったんです。この曲もその時に最初に聴いたんですけれど、改めてCDになると、やっぱり何度でも噛みしめたい、この世界に浸っていたいと思わせるような空気に満ちた、完成度の高い歌詞だと思いました」

──この曲は東京を舞台にした曲ですね。

「そうですね。出だしが《羽田沖 街の灯がゆれる》となっている。《港区の日曜の夜は静か》というのも『なんて心に残るフレーズなんだ!』って思ったんです。ささやかな言い回しだけど、情景がはっきりと目に浮かぶ。正直、歌詞全体のテーマとしてはそこまでわかりやすいものではないと思うんです。平行世界の話だったり、自分の過去の選択を問いかけたりするような内容になっている。でも、聴いた人が『え? 何これ? 意味わかんない』ってならずに、言葉がすっと入ってくるポップな感じがある。哲学的でありながら、日常に寄り添っている歌だと思いました」

──加藤さんはこの曲を聴いて、どんなことを思い浮かべましたか?

「私は自分の今までの選択について考えました。たとえ細かいことでも日々いろんなことを選択しているじゃないですか。たとえば、何を食べるかとか、何を着るかとか。そういうささやかな選択の積み重ねが今の自分をつくっている。そういうような、日常の中でふとした瞬間に感じることのイメージです」

──この曲の主人公の姿は思い浮かびましたか?

「とくに誰か一人という感じはしませんでしたね。いろんな方が出てきて口ずさんでるミュージックビデオの影響かもしれないですけど、沢山の人、目に映るすべての人だなって思いました。誰か一人について歌ってるっていうよりも、都市を歌ってる、街を歌ってるというか。昔から小沢さんってよく固有名詞を使うじゃないですか。たとえば『痛快ウキウキ通り』の《プラダの靴が欲しいの》というフレーズだったり。そういう曲たちを北海道で過ごしていた中学時代に聴いていたので『小沢さんの歌う東京ってどんな感じなんだろう?』って思っていたんですよね。でも、この『流動体について』を聴いた時は、私が東京に住んでいるからかもしれないですけれど、とても自然な感じがしたんです。『固有名詞を使うぞ』みたいに身構えて言葉を選んでいるわけじゃなくて、目に見える風景を拾い上げているような感覚を感じました」

加藤千恵さんが挙げてくれたのは、どれも「記憶に残るフレーズ」を持つ曲。さりげない言い回しで、鮮やかに情景を呼び覚ます力を持つ曲だ。

「音楽って、その人の記憶と密接に結びついてると思うんです。たとえば昔付き合っていた人と聴いた曲って、お店でふと流れていたのをなんとなく耳にした時にも、その時のことを『ああ!』って思い出したりするじゃないですか。音楽にはそういう記憶再生スイッチみたいなところがあるんですよね」

こう加藤千恵さんは言う。つまり、そういった「記憶に残るフレーズ」を持つ曲は、それを介して聴いた人のパーソナルな思い出とより強く結びつくことができる。長く愛され続けるヒットソングをつくる秘訣は、そんなところにあるのかもしれない。

 

<ゲストプロフィール>
かとう・ちえ / 1983年北海道生まれ。歌人、小説家。2001年に短歌集『ハッピーアイスクリーム』で高校生歌人としてデビュー。小説、詩、エッセイの他、ラジオなどのメディアでも幅広く活動中。著書に『ハニー ビター ハニー』(集英社)、『あとは泣くだけ』(集英社)、『アンバランス』(文芸春秋)、『ラジオ ラジオ ラジオ!』(河出書房新社)、『いつか終わる曲』(祥伝社)などがある。

<著者プロフィール>
しば・とものり / 1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。主な執筆媒体は『AERA』『ナタリー』『CINRA』『MUSICA』『リアルサウンド』『ミュージック・マガジン』『婦人公論』など。『cakes』にてダイノジ・大谷ノブ彦との対談連載「心のベストテン」、『リアルサウンド』にて「フェス文化論」、『ORIGINAL CONFIDENCE』にて「ポップミュージック未来論」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)がある。