ifs未来研究所 所長 川島蓉子氏が、日本のビジネスシーンやカルチャーシーンなど、さまざまな分野でブランドの価値づくりに携わるキーパーソンにそのノウハウを聞いていく連載企画。第5回は、東京駅丸の内駅舎の復元を記念したイベントで、駅舎の壁面一杯に映像を投影した「3Dプロジェクションマッピング」(以下、プロジェクションマッピング)を手掛けた「株式会社NHKエンタープライズ」事業本部企画開発センター事業開発チーフ・プロデューサーの森内大輔さんにお話をうかがいました。

文=川島蓉子
撮影=村上悦子(人物写真のみ)


 2012年秋、100年前の創建時の姿に復元された東京駅の前面を使った映像イベントが話題を呼んだ。2日間数万人を動員した「TOKYO STATION VISION」だ。機関車や花火などを盛り込んだストーリーの魅力はもちろん、建物自体が動いているような、あるいは建物から立体物が飛び出してくるような映像が、多くの人々の驚きを誘い、気持ちを動かした。「プロジェクションマッピング」という言葉は、これをきっかけに世に広まった感さえある。
 企画制作を手がけたのは、NHKエンタープライズ事業本部企画開発センター事業開発チーフ・プロデューサーの森内大輔さんだ。以前から、プロジェクトの経緯とその後のことを、お聞きしたいと思っていた。


これは、広い意味でのブランディングである


川島 東京駅で行われた、あのプロジェクションマッピングの仕掛け人が、NHKの関連会社に籍を置いている方と聞いて驚きました。
森内 もともと私は、大学で空間デザインを専攻し、NHKにデザイナーとして入局しました。そして、いろいろな番組のデザインをやってきました。『紅白歌合戦』の舞台装置をはじめ、ドキュメンタリー番組のCGなども手がけました。どのようにしたら魅力的なコンテンツを多くの人にわかりやすく伝えられるか、そこに力を注ぐ想いで仕事をしていました。
川島 凄く面白そうなお仕事です。どうしてそれが、社外に広がったのですか?
森内 番組の中で、セットをはじめとした立体デザインとCGなどの映像デザインを組み合わせる機会が増えてきて、“空間を映像によって一瞬で変える”ことに強い興味が湧いてきたのです。
川島 それはどういうことですか?
森内 『紅白歌合戦』で壁全体を巨大なLEDスクリーンで埋め尽くしたステージを設計した際に、一瞬にしてその場の空気が変わるのを目の当たりにしました。それで“空間の情報装置化”のおもしろさを感じたのです。体験型コンテンツに触れ、番組という枠を越えた可能性に挑んでみたいと思うようになったころ、ちょうどNHKエンタープライズ出向の話がありました。
川島 空間に映し出された映像によって、情報が広く濃く、人々の間に伝わるのではないかということですね。
森内 そうです。出向して間もなく、成蹊学園の創立100周年の記念事業として、先進的なテクノロジーを入れたイベントの企画が持ち上がりました。私はこの機会を通じて、大学の歴史を振り返るのとともに、次世代の学生に向けたメッセージを盛り込んだプロジェクションマッピングができないかと考えました。

[短期集中連載]
ブランドの未来、ビジネスの未来
第5回 「東京駅100年の計と未来」を伝えた
プロジェクションマッピング

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成蹊学園創立100周年記念事業のイベントの一つとして行われた
プロジェクションマッピング。 ©学校法人成蹊学園/NHKエンタープライズ


川島 さっきおっしゃった“空間の情報装置化”ですね。でも、これまでにない種類の仕事を手がけることについて、会社はすぐにOKを出したのですか?
森内 屋外の建物をまるごと使って空間と映像を組み合わせた大規模なプロジェクションマッピングはあまり前例のないことで、成功すれば事業化につながる可能性もあるから何とか取り組めないかと上司に相談しました。
川島 森内さんとしても、NHKエンタープライズさんとしても、まったく新しい試みだったのですね。
森内 あれだけの規模のプロジェクションマッピングが見られる機会は、まだまだ少なかったのです。
川島 それは凄い! 会社のOKが出てから、具体的にどういうやり方で仕事を進めたのですか?
森内 まず取材です。成蹊学園にどういう歴史があって、これからどこへ向っていくのか、学園職員の方々や学生にヒアリングして、シナリオを描いていったのです。
川島 建物が時計となって時を刻むところから始まり、躍動感のある華やかな映像が映し出されていく。フィナーレは、建物を起点に周囲に映像が広がる躍動感が表現されている。見ているだけで、気持ちがわくわくしてきます。
森内 単に100周年という歴史を礼賛するだけでなく、未来に向けて大学が進んでいくイメージを打ち出したかったのです。
川島 プロジェクションマッピングの素晴らしさは、単に建築をスクリーンとして使うのではなく、立体物として意識しながら、時に映像の一部に取り込んでしまうことで、見ている人の気持ちに、建築の意匠や意味をさりげなく刻むところだと感じました。そしてそれが、「建物のルーツ=ブランドの根幹」につながっていく。これは、広い意味でのブランディングだと感じました。
森内 そう受け取っていただくとやりがいを感じます。


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