東京駅のプロジェクトが伝えたかったこと


川島 ところで、東京駅のプロジェクトには、どのようなストーリーが込められているのですか?
森内 東京駅が、世に生まれて100年ということを踏まえ、「これまでの100年とこれからの100年」を表現すべきだと考えました。日本における鉄道の歴史を紐解いてみると、東京駅は上野と新橋を結ぶ高架鉄道が由来の中央停車場として誕生し、鉄道黎明期を代表する地としての意義も大きいものがあります。また、日本が近代化=欧化していく象徴的存在であり、一等国としてのプライドを賭した建物でもあったのです。戦後の高度経済成長時代には、日本中から人が集まってくる憧れの場となりました。今ではオフィスビルや多くのショップも併設し日本全体のターミナル的存在となっています。そのような歴史を踏まえ、明治、大正、昭和、平成と、各時代で東京駅にあった「時空を超えた旅」をテーマに据えたのです。
川島 全国に及ぶ新幹線をはじめ、鉄道網の起点であり終点でもある東京駅という存在。その威風堂々とした佇まいは、歴史の厚みと役割の重みを感じさせますが、「TOKYO STATION VISON」は、そんな東京駅の持っているストーリーを感じさせるものでした。

[短期集中連載]
ブランドの未来、ビジネスの未来
第5回 「東京駅100年の計と未来」を伝えた
プロジェクションマッピング

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プロジェクションマッピング

東京駅のプロジェクションマッピングでは、
巨大な蒸気機関車が駅舎に映し出された。
©JR東日本/NHKエンタープライズ


森内 プロジェクションマッピングのテーマは「時空を超えた旅」でしたが、東京駅開発プロジェクト自体のグランドコンセプトは「東京ステーションシティ」です。それを踏まえ、駅が街としての機能を備えるとともに、人が集まってつながる場であること。国内に限らず、世界の人を迎え入れ、送り出す場であること。それをイベント全体では、理論理屈ではなく、エンタテインメントとしても描き、世界に向けて発信したかったのです。
川島 そういった意図とイメージが、見ているだけで伝わってくるイベントでした。プロジェクションマッピングの冒頭では、駅舎の窓に人影が映り、それが増殖しながら速度が増していく。次に、駅舎がゼロからできあがっていく様子がリズミカルに映し出される。そして巨大な蒸気機関車の登場とともに「線路は続くよどこまでも」が流れ出す。嬉しいサプライズの連続です(笑)。
森内 音楽も重要な存在です。だから鉄道にゆかりがあって、誰もが知っている曲を選びました。鉄道の先進性を伝えながら、旅することの楽しさも感じてもらえたらと思ったのです。建物と映像と音楽が一体となって、駅舎全体が楽器を備えたオーケストラになり、場と場をつなぐ、人と人をつなぐ、新しい「つながりの場」をつくることができればと考えました。


一瞬で日常空間を劇的に変える


川島 森内さんの仕事は、今までになかった専門職と言えるのではないでしょうか?
森内「日常を劇場に」というテーマを掲げて「劇的」というプロジェクトを推進しているのが、今の私の役割です。
川島 「劇的」とはどういう意味ですか?
森内 駅や空港などの日常的な空間には、歴史とか未来とか、さまざまな人の見方、とらえ方といった目に見えない息づかいがあります。それを、音楽と映像を用いてストーリーとして浮き彫りにする。つまり、人が何となく普段から感じている空気みたいなものをエンタテインメントとして描く。 “一瞬で日常空間を劇的に変える”ことを「劇的」と表現しています。
川島 確かに、「TOKYO STATION VISION」のケースで言えば、日常的に利用している駅は、単に電車を乗り降りする場ではなく、久しぶりに会う人を迎えたり、新しい暮らしに向けて旅立ったり、人が何らかの思いを抱き、感じてきたところでもあります。ぴかぴかのモダンな建物でなく、歴史の重みをそのまま復元した建物という観点から、日本や東京のルーツに思いを馳せる人もいそうです。
森内 そういったことが、「劇的」が意図していることです。
川島 何より「東京駅っていいな」という気持ちが動き出すことがいいですね。
森内 私がお手伝いしてつくっているのはエンタテインメントなんです。いわば娯楽なわけで、楽しんでもらうことが最も大切なのです。
川島 エンタテインメントって、学ぶとか知るというより、その名の通り楽しむものです。しかも、一人じゃなくて、大勢と一緒に体感できるのもいいところです。何だか昔の映画館とか芝居小屋とか、そういったものを想像しちゃいます。
森内 決しておおげさなことではなく、都市や景観というのは、日々の暮らしの一部として既に存在しているもの。プロジェクションマッピングは、日常を劇場に変えてしまう。そうすることで、あたりまえの生活空間の中でも驚きのある豊かな情報コミュニケーションが成立していくことを、もっともっと訴えていきたいのです。


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