世界一有名な飲料「コカ・コーラ」を筆頭に、
数々の清涼飲料を企画・製造・販売しているコカ・コーラシステム。
その現場を、現役大学生の平野紗季子さんがレポートします。
第1回目はコカ・コーラ製造ラインについて。
宮崎県にあるコカ・コーラ えびの工場にお邪魔しました。


文=平野紗季子
写真=鈴木泰介


大学生の社会科見学vol.1
「コカ・コーラの製造ラインを見学してみた」

 それは人口2万人の宮崎県えびの市、緑と青の美しい自然に包まれた盆地の中にあります。アンディ・ウォーホルのスープ缶然り、ジェフ・クーンズのバルーンドッグ然り、日常物を巨大化すると、途端にアートが降りてくるのは常ですが、こちらのコカ・コーラもご多分に漏れず、その非現実っぷりを発揮しています。

 巨大コカ・コーラが背負うのは「グリーンパークえびの」。全国に数多あるコカ・コーラシステムの工場の中でも最も新しい工場の1つです。その総面積は6万6千坪(東京ドーム5つ半分)、製造ラインを3つ備え、24時間休むことなく稼働。景観は、工場と公園が一体化しているのが特徴で、夏にはひまわり、秋にはコスモスが咲き誇る花畑が自慢。地域と環境に優しい開かれた現代風の施設なのです。

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「コカ・コーラの製造ラインを見学してみた」

 そもそも工場内というのは、映画『チャーリーとチョコレート工場』のように日常生活から遠いところにあるからこそ、常に謎めいた存在として想像や夢を背負ってきたのではないかと思います。そのうえコカ・コーラは、そのレシピすら他言されない機密っぷりゆえ神秘性を帯びた液体。そんな製品が生まれる瞬間を覗き見ることができるのだから、そりゃあわくわくします。

 ちなみに清涼飲料の企画・研究開発・原液製造を務めるのは、日本コカ・コーラ株式会社。そこから原液を受け取り、製品の製造・物流・販売を務めるのは、ボトラー各社の役目です。全国には2013年7月現在で9つのボトラー社が存在し、えびの工場は南九州コカ・コーラボトリング株式会社に属しています。

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「コカ・コーラの製造ラインを見学してみた」

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「コカ・コーラの製造ラインを見学してみた」

 ご案内いただいたのは工場長の柳さん(上)と品質管理課の松元さん(下)。その道30年の眼差しには、厳しくも愛に溢れたオーラを感じます。私も給食服以来の白衣に着替えて、エアシャワー室で異物をすっかり取り除いて、いざ工場潜入です。いよいよコカ・コーラの誕生の瞬間に立ち会える……!

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「コカ・コーラの製造ラインを見学してみた」

 衛生状態が徹底的に管理されている施設内は、エクストリームな歯医者のようにクリーンな香りに包まれています。チリ1つ漂うことも許されない厳しい衛生管理は、NASAの基準を採り入れているのだそう。そこには、安心して飲める製品の品質をどこまでも追求する姿勢が表れています。先陣を切って進んで行く工場長の背中が逞しい。すれちがう工場員の方との挨拶もキビキビと交わされていきます。

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「コカ・コーラの製造ラインを見学してみた」

 「さあ、どうぞ」の一言とともに開かれた扉の奥。ずら〜っとものすごい数のコカ・コーラです。圧巻です。迫り来るコカ・コーラおよそ2000本。丁度中味の充填が終わったばかりの生まれたてのコカ・コーラたちが、まるで鮭の産卵のように放出されていきます。実はここ、ものすごいパワーや迫力に包まれた場所で、興奮がおさまりません。それくらいのエネルギーある場所から、コカ・コーラは生み出されているのです。

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「コカ・コーラの製造ラインを見学してみた」

 こちらは、私たちが手にするペットボトル容器の製造過程。ペットボトルの赤ちゃんである「プリフォーム」を金型にセットして熱と空気で膨らませると、ペットボトルができあがります。その後、ボトルに飲料を充填させていくのですが、その速さ、PETボトルの炭酸飲料なら1分間で600本(ちなみに缶の炭酸の場合は1100本だそうです)。1秒で10本。機械ってすごい。

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「コカ・コーラの製造ラインを見学してみた」

 このえびの工場の製造過程はほぼ自動化され、工場内に人影はほとんど見当たりません。従業員数は約131名、うち工場勤務は104名で、この規模の工場にしてはかなり少ない人数だといいます。

「昔はね、製品のチェックは目視でやっていたんですよ」

 柳工場長は語ります。

「ずーっと、4人くらいで、15分毎交代でね。今は自動化されているからそういうことはないんだけど。でも、逆に言えば、機械の調整も難しいんです。機械の面倒をしっかり見られなければいけませんから」

 なるほど、やっぱり人の努力が必要なんですね。

「そう、最終的には人です。機械が疲れた時、何かが狂った時、その問題の傾向をいかにつかみきるか。いかに日々チェックをして問題に的確な答えを出すかが、オペレーターの腕の見せどころなんです。いくら機械が良くても、良い製品を生み出す要はそこにある」

 機械ジャングルの中で血の通った職人話に心を打たれながら、工場見学は進みます。

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「コカ・コーラの製造ラインを見学してみた」

 完成したコカ・コーラが、ロボット(段ボールケーサー)により、狂いもなく箱詰めされていきます。これらの作業を通して生まれる飲料は500mlのPETボトルで1日に50〜80万本。やっぱりすごい。

「子どもを見送る親の気持ちになったりしませんか?」と伺うと「毎日のことなんでね(笑)。いつも新製品は大丈夫かなあ、と心配して送り出していますよ」だって。愛ですね、愛。


 そして倉庫へ。お客様のもとへと旅立つコカ・コーラたちが、ぎっしりと並んでいます。まったくもって壮観。写真だけでは伝わり切らない気迫です。

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「コカ・コーラの製造ラインを見学してみた」

 この光景を前に私の頭には、ある言葉が巡っていました。

「Coke is it!」

 これは日本で1985年から展開された世界的なコカ・コーラのキャンペーンに使用されたコピーです。どこかマイケル・ジャクソンの『THIS IS IT』にも似ています。たとえば、マイケルさんのダンスがあまりに神がかっているためにそれを言葉では説明できないように、工場内で起こっていることもまた、“ラベルが着せられた”とか“日付が印字されていく”といった事実の羅列では伝わらない、現実を凌ぐ“何か”がありました。それは機械による圧倒的な製造力によってもたらされるのか、工場を支える人間の智慧によってもたらされるのかはわかりませんが、とにかく工場見学には思いのほかの熱狂体験がありました。

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「コカ・コーラの製造ラインを見学してみた」

 ちなみに、コカ・コーラの原液の秘密には触れることすらできませんでした。 記念に原液が調合される「シロップタンク室」の写真を1枚だけ。もちろんここは、入室不可でした。ミステリアスはミステリアスのままなのも、コカ・コーラの深淵なる魅力の一つだと思いました。
 (つづく)