夢を叶えようと努力したことが、後の人生に生きてくる

 2000年のオリンピック シドニー大会出場を境に、北島の快進撃は始まった。2004年のアテネ大会と2008年の北京大会では、100m平泳ぎ、200m平泳ぎの2種目で金メダルを獲得。いつしか「夢」は「目標」に変わり、子どもの頃に憧れたオリンピックは「勝負の舞台」となった。その過程には、本人にしか分からない苦しみもあった。
 夢を叶えることができた彼には、夢を叶えるために乗り越えるべきプロセスが分かる。しかし、それがどれだけ苦しく困難なことかも痛いほど分かる。それでも、北島は子どもたちに夢を語る。たとえ叶えられなくても、それに向かって頑張る姿勢が大きな力になる。今だからこそ、そう断言できる。
──初めて夢を叶えたのが、2000年のオリンピック シドニー大会。高校3年生で、まだ17歳の出来事でした。
北島 夢を叶えたという気持ちが強かったですね。今思えば、「世界で勝負する」という気持ちと力を持って出場した大会ではなかった。でも、そこで味わった悔しさがあったからこそ、オリンピックを「勝負する大会」と見ることができました。その時点で夢は終わり。次からは勝ちに行く、メダルを獲りに行く大会に変わったことで、オリンピックに対する僕の夢は終わったんだと思います。
──夢と目標は違う。
北島 違いますね。僕の場合は、シドニー大会を境に夢から目標にすべて変わりました。今もそうですよ。大きな夢があるわけではなくて、目標に向かって頑張りたい。僕にとっての「夢」は、雲の上の世界。それを追う若々しさは今の僕にはないし、今の僕が堂々と夢を語ってしまったら、それはそれでうさん臭いでしょ?(笑)。 だから、「北島さんの今の夢は?」と聞かれるのが一番困るかもしれない。
スペシャルインタビュー
北島康介
「だから僕は、子どもたちに夢を語る」

──すごくよく分かります。ただ、夢から目標に切り替わった瞬間が高校3年生であったことを考えると、その後はものすごく苦しかったのではないかと想像することができる。
北島 つらかったですね。17歳から次のオリンピックに向けた4年間は、水泳に関しては一切の妥協を許さない精神力が必要でした。あの頃の一番のパワーは、自分自身を信じること。だから、「ダメかもしれない」なんてこれっぽっちも思わなかった。今考えると、そういう精神力を持ち続けられたことがすごいなって、素直に思えます。
──もし、今、同じようなストイックさを求められたら……。
北島 「ダメかも」って、すぐに思うでしょうね(笑)。あの頃はいろいろな意味で充実していました。本気で「獲りに行く」という姿勢が崩れなかったと思うし、ケガをしても全く不安にならなかったですから。
──2004年のオリンピック アテネ大会、さらに2008年の北京大会で金メダルを獲って、夢も目標も達成しました。今の北島さんは、どういうメンタリティーで水泳と関わっているのでしょう。
北島 今は楽しく関わっていけたらいいなと思うし、競技者として、良い成績を残せたら素直に喜びたい。その一方で、自分が狙った記録を達成できなかったり、自分が思ったパフォーマンスができなかった時には、ちゃんと悔しがりたいとも思います。嬉しい気持ちだけじゃダメ。どこかで悔しがりながら泳ぎたいと思うし、「もっとできたかもしれない」という気持ちをこの年齢になっても持ち続けたい。自分自身に期待し過ぎてしまうこともあるんですけど、今は、そういう姿勢で水泳と向き合いたいと思っています。
──今、子どもたちに泳ぐことの楽しさを伝える普及活動に積極的に取り組まれている背景には、水泳と「楽しく関わりたい」という気持ちもあるのではないかと思います。ただ、夢を叶えることの意味や苦しさ、難しさを知っているからこそ、それを伝えるのもまた難しいのではないかと。
北島 本当にそう。でも、だからと言って子どもたちに「夢を叶えるということは、つらくて苦しくて難しいことだ」なんて言えないですよね(笑)。夢を叶えることは、宝くじを当てるくらい難しい。でも、そこに向かって頑張り抜く姿勢を小さい頃から持つことで、たとえ夢を叶えられなかったとしても、大人になってから“夢を追いかけていた頃の自分”を語れるし、それってすごくカッコいいことだと思うんです。だから、もし僕が子どもたちに対して何らかのアプローチをして、それによって「夢を持つことの大切さ」を伝えることができたら、少なからず意味があるのかもしれない。もちろん、僕らの時代と今とじゃ、環境が全く違うと思いますよ。僕が何を言ったところで、どれだけ響くかは分からない。それでも、大人になってから「北島康介が夢を語ってくれた」と思い出してくれる子もいるかもしれないし、実際に「あれがきっかけで水泳が好きになりました」と言ってくれる子もいる。そういう可能性がある限り、僕がやってきたこと、感じてきた夢を子どもたちに語り続けることの意味はあるのかなと思います。
──逆に、子どもたちから受け取るものもありますか?
北島 やっぱり、自分の子どもの頃のことを思い出すし、純粋な気持ち、素直な気持ちにさせてくれますよね。子どもたちの泳ぐ姿を見ていると、自分に置き換えて「こうしてみよう」とか「考えすぎていたな」と気付かされることもある。はっきりと夢を口にする彼らが、うらやましいなと思うこともありますしね(笑)。
──では、改めて「夢」をテーマとして子どもたちにメッセージをお願いします。
北島 やっぱり、夢を叶えるために頑張るという姿勢が大切ということですよね。自分で目標を決めて、一つずつステップアップしていくこと。それが夢をつかむための大きなチャンスにつながると思う。そうやって続けていくと、いつの間にか、雲の上にあったはずの夢と同じ高さにいられるかもしれない。そうそう、アレと同じ。「カリン塔」に登るみたいなものじゃないかな。
──マンガの『ドラゴンボール』の?
北島 はい。カリン様に会いたければ、ゴールが見えないようなとんでもない高さの塔でも、一歩ずつ踏みしめながら登るしかない。そういうことだと思います。いや……その例えじゃ、今の子どもたちには伝わらないかな(笑)。

<プロフィール>
きたじま・こうすけ/5歳から水泳を始める。2000年オリンピック シドニー大会に初出場し、4位入賞。2004年オリンピック アテネ大会では100m・200m平泳ぎで金メダルを獲得。2008年オリンピック北京大会でも両種目で金メダルを獲得し、競泳での日本人初となる2種目2連覇を達成。2010年にパンパシ2冠、2011年世界水泳出場を経て2012年、4大会連続出場となったオリンピックロンドン大会で4x100mメドレーリレーにて銀メダルを獲得。また、競技活動の傍ら、2011年には子供から大人までたくさんの人達に水泳を好きになってもらいたいとの想いからスイミングスクール「KITAJIMAQUATICS」を設立。水泳の普及活動を積極的に行っている。日本コカ・コーラ所属。

■「アクエリアス」ブランドサイト http://www.aquarius-sports.jp
■「アクエリアス」公式Facebook https://www.facebook.com/aquarius.jp