アーカイブ(歴史的資料やその保管場所)がビジネスに役立つと言われても、
あまりピンとこないかもしれません。
しかし、グローバル企業の中にはアーカイブをビジネスに活用しているところも多く、
コカ・コーラ社もその中の1社です。
先日、ザ コカ・コーラ カンパニー(米国本社)でアーカイブの責任者を務める
テッド・ライアンが来日し、コカ・コーラ社のアーカイブの歴史と、
ブランディングやマーケティングへの活用方法についての講演を行いました。
その講演の内容を、ご紹介いたします。

語り=テッド・ライアン
文=崎谷実穂
写真(テッド・ライアン)=村上悦子

 

コカ・コーラ社歴代アーキビストの功績とは

 「コカ・コーラ」の最初の1杯が提供されたのは、1886年5月8日、ジョージア州アトランタにある「ジェイコブスファーマシー」という薬局でのこと。薬剤師のジョン・S・ペンバートン博士が「コカ・コーラ」のシロップを発明、近所にあるジェイコブスファーマシーに持ち込んだことが、世界一有名な清涼飲料の歴史の幕開けにつながりました。

 それから「コカ・コーラ」とコカ・コーラ社は132年の歴史を歩んできたわけですが、その間のアーカイブを保管しているのが、ザ コカ・コーラ カンパニーのアーカイブ庫であり、番人の役割を果たしているのが私のようなアーキビストです。

 アーカイブの基礎を築いたのは、1940年に初代アーキビストに就任したフランクリン・ミラー・ガレットと、2代目のウィルバー・クルツ・ジュニア(53年~)です。弁護士の資格を持つアマチュアの歴史家だったフランクリン・ガレットは、その能力を活かして、コカ・コーラ社と「コカ・コーラ」の正式な歴史をまとめあげました。ウィルバー・クルツ・ジュニアは、商標登録に使うための記念品や広告資材を収集、整理していました。

本国の責任者がレクチャー アーカイブが教えてくれる、 「コカ・コーラ」が「コカ・コーラ」であり続ける理由

コカ・コーラ社の歴代アーキビストたち。
フランクリン・ガレット(左)、ウィルバー・クルツ・ジュニア(中央)、フィル・ムーニー(右)

 3代目のフィル・ムーニーは、コカ・コーラ社初のアーキビストとしての専門教育を受けていた人物でした。フィル・ムーニーはその専門知識を活かし、79年に新しく建設された本社ビルに「コカ・コーラ」の歴史をたどる展示を設置したり、初めてアーカイブのウェブサイトを立ち上げたりと、数々の功績を残しています。

 そのフィル・ムーニーは2012年に引退するわけですが、彼の後任としてアーカイブ部門を任されることになったのが私なのです。

 それぞれのアーキビストは、前任者とは異なる能力を発揮することを期待されています。私の場合は、ソーシャルメディアなどを活用することによってコカ・コーラ社のアーカイブの露出を増やし、同時にそれらをデジタルの世界に適したかたちで生まれ変わらせることを期待され、この職を任されました。

本国の責任者がレクチャー アーカイブが教えてくれる、 「コカ・コーラ」が「コカ・コーラ」であり続ける理由

講演を行うテッド・ライアン

 

■アーカイブ=コミュニケーションの秘密兵器

 現在アーカイブ部門が対外的に行なっている活動内容は、「展示」「ストーリーテリング」「ソーシャルメディア」「メディア・PR」という4つの役割に分類することができます。これから、それぞれについて説明しましょう。

 まずは、「展示」について。これまで紹介してきたアーカイブ庫とそこに収蔵されている品々は、あくまで社員のためのものです。それを一般向けに公開した初めての場が、1991年にオープンしたワールド・オブ・コカ・コーラ博物館(ジョージア州アトランタ)です。同博物館は、2007年には場所を移転してリニューアルオープンし、現在でも年間150万人以上の方々が訪れています。アトランタまで来ることのできない世界中のお客さまやパートナー企業に向けては、巡回展にも力を入れています。

本国の責任者がレクチャー アーカイブが教えてくれる、 「コカ・コーラ」が「コカ・コーラ」であり続ける理由

ワールド・オブ・コカ・コーラ博物館の自動販売機コーナー。
1998年 長野オリンピックの限定自動販売機も展示されている

 次は「ストーリーテリング」の役割について。アーキビストの肩書を「チーフストーリーテラー」と変更した会社もあるくらい、私達にとってストーリーテリングというのは欠かせないものです。コカ・コーラ社では、1923年から85年の62年間にわたってCEOを務めたロバート・ウッドラフ本人が会社のメッセージと理念を語っているビデオを、社内外でのストーリーテリングに活用しています。

ウッドラフが有能なビジネスマンである以前に、
コカ・コーラ」を非常に愛していた人物であることがわかるビデオ。
「誰であろうとどこにいようとコカ・コーラビジネスの中心は人です。
人がアイディアに対してつけた名前、それが我々の商品名」(ウッドラフ

 3つ目は「ソーシャルメディア」について。ストーリーテリングに密接に関係している分野でもありますが、アーカイブ部門では、2007年に「コカ・コーラ カンバセーション」というブログを立ち上げ、ソーシャルメディアの活用を始めています。

 ちなみに、14年に立ち上げたアーカイブ部門のフェイスブックページのフォロワーは、現時点で2万2,000人を超えました。YouTubeも積極的に活用しており、公式チャンネルのフォロワーは2,000人以上、総動画再生回数は250万回以上を誇ります。インスタグラムは、少なくとも2、3日に一度は新しく投稿するようにしており、アーカイブ部門が保有しているソーシャルチャネルの中でも最も急速に伸びているメディアだと言えます。

 最後は、「メディア・PR」について。コカ・コーラ社のアーキビストは、コカ・コーラ社の歴史に精通しているエキスパートとして、ニュースになりうる話題について会社を代表して話せるようなメディアトレーニングを受けています。

 だからなのでしょう、私の以前の上司は、「アーカイブは自分の“秘密兵器”なんだ」と常々語っていました。どんな話題を振られても、アーカイブから適切なトピックを取り出せば、いつも好感を持ってトピックをシェアしてもらえるということです。

 良い例があります。みなさんは、「ニュー・コーク」をご存知ですか? 「ニュー・コーク」は、99年続いた「コカ・コーラ」の味を刷新する大胆な試みでした。しかし、消費者の元のフレーバーへの根強い支持により、3ヵ月足らずで元のフレーバーに戻すという顛末になったのです。そして、その登場から25周年のタイミングで、CNNニュースでお話をする機会をいただきました。当時は社内でも混乱が巻き起こりましたが、そのような困難期についての話題を、前向きなストーリーに切り替えてインタビューで伝えたことによって、ポジティブなニュース記事がたくさん世の中に出ることになったのです。

 

■ブランディングとマーケティング

 さて、ここまでは、アーカイブが対外的に果たす役割を説明してきました。しかし、アーカイブにはもう一つ、重要な役割があります。それは、ブランディングとマーケティングへの活用です。

 そのことについて説明する前に、「コカ・コーラ」のブランドに対する考え方が分かるエピソードを一つ、ご紹介しましょう。1954年にピカデリーサーカスに広告スペースを確保したときのことです。ロンドンの一等地であるピカデリーサーカスの広告料は、当時のCEOがマーケティング責任者に「その費用に見合う広告効果が本当にあるのか」と尋ねるほど高額でした。高額ではありましたが、最終的にそこに看板を出すことを決定します。

 私が思うに、平凡な人は平凡な方法を選択するものです。逆に、並外れた人は、並外れたことを、並外れた方法で実行するものです。もしもこのとき平凡な方法を選択していたならば、「コカ・コーラ」ブランドも必然的に平凡なものになっていたでしょう。しかし実際には、並外れたことを並外れた方法で実施した結果、消費者の心の中に並外れたブランドのイメージをつくり上げることができた。現在、「コカ・コーラ」というブランドが備える独自性や特別感は、常に「並外れた方」を選択してきた結果だと考えています。

本国の責任者がレクチャー アーカイブが教えてくれる、 「コカ・コーラ」が「コカ・コーラ」であり続ける理由

ピカデリーサーカスに看板を設置する際、
コカ・コーラ」の最初の文字「C」を丁寧に清掃する姿を捉えた写真

 それでは、並外れたブランドになるために、アーカイブができることとは何でしょうか。

 私たちは、過去のさまざまな「コカ・コーラ」広告をまとめたビデオを作成し、マーケティング担当者へのレクチャーに使用しています。そのビデオを見ると、これまで「コカ・コーラ」が、そのおいしさを、広告でどのように表現してきたのか、「コカ・コーラ」がいかに広告表現に工夫を凝らしてきたのかということが分かります。一方で、表現の方法は変わっても、消費者の“五感に訴える”というコンセプト自体は一貫しているということも理解できます。マーケティング担当者らは過去の広告の歴史を知ることで、マーケティング方針の策定の基礎を築くことができるのです。

 それでは、最後に、デザインチームがいかにアーカイブを積極的に活用しているかを示すビデオをご紹介しましょう。

※英語のみとなります。

コカ・コーラ」の「Taste the Feeling」キャンペーンのインスピレーションも
アーカイブから得たとサマービルは語る

 ビデオには、デザインチームの最高責任者であるジェームズ・サマービルがアーカイブ庫を訪れ、何千という過去の広告を見返している様子が収められています。アーカイブの中から、「コカ・コーラ」の新しいキャンペーンに最適なイメージを探しているのです。

 私は、アーカイブ部門のメンバーにはこのように伝えています。ブランドを今の時代にも通用するようなかっこよくて効果的なものにするために、マーケティング部門とデザイン部門とで連携してアーカイブを活用していこう、と。古くさいだけの“ノスタルジー”を表現するのではなく、“レトロ”でなくてはいけないんです。“レトロ”だからこそ、新しいんです。

本国の責任者がレクチャー アーカイブが教えてくれる、 「コカ・コーラ」が「コカ・コーラ」であり続ける理由

テッド・ライアン / ザ コカ・コーラ カンパニー(米国本社)ヘリテージ・コミュニケーションズ担当ディレクター。97年より、コカ・コーラ社の歴代製品や関連アイテムを保管しているアーカイブ庫の担当者を務め、2013年より責任者を務める。「コカ・コーラ」の歴史資料を展示している『The World of Coca-Colaワールド・オブ・コカ・コーラ博物館)』の歴史物担当者であり、アンディ・ウォーホルの展示を含む“ポップカルチャー”ギャラリーの責任者でもある。『Coca-Cola Journey』のグローバルサイトで記事も執筆している。