文=アンナ・ラマン

 

■小さな町が「コカ・コーラ」ファンの“聖地”になった

ザ コカ・コーラ カンパニー(米国本社)があるジョージア州アトランタ市から車で1時間ほど北に向かったところに、カーターズビルという小さな町があります。この町には、122年前に描かれた、「コカ・コーラ」史上初の壁面広告が当時の姿のまま残っており、米国内のみならず海外からも数多くの「コカ・コーラ」ファンが訪れています。

122年前の姿でよみがえった 世界最古の「コカ・コーラ」壁面広告

この広告は、赤く塗られた長さ30メートルほどの壁面に白字で「コカ・コーラ」ロゴを描いたもので、ヤング・ブラザーズ・ファーマシーという薬局の建物の外壁の一部を占めています。1894年にアトランタ市からやってきた「コカ・コーラ」シロップ(※)のセールスマン、ジェイムズ・クーデンが描いたものだと言われています。

※当時の「コカ・コーラ」はシロップの状態で販売店に卸され、薬局などの一角に設けられたソーダファウンテン(カウンター形式の喫茶店のような施設)で炭酸水と混ぜて提供されることが一般的でした。

 

■歴史的壁面広告再発見の立役者

ジェイムズ・クーデンが壁面広告を描いてから何十年もの時が流れた1960年、ディーン・コックスヤング・ブラザーズ・ファーマシーで働き始めました(何度もロゴを塗り直し、時代に応じてデザインを変化させた『コカ・コーラ』の壁面広告は、当時も、誇らしげに薬局の壁を飾っていました)。コックスは大学を卒業したばかりの社会人1年生。初めての仕事に就いてワクワクしていたと言います。

その8年後、社長を務めていた薬局の創業者の娘が退任することを決め、コックスに事業を買い取らないかと持ちかけます。コックスはこれに同意し、さらに1970年には、薬局の建物を建てた人物のひ孫から、建物自体も買い取りました(コックスが事業と建物を買い取る以前は、創業者の家族が76年間、建物の所有者に家賃を払い続けていたのです)。

コックスによると、1970年代後半までは、ザ コカ・コーラ カンパニーが定期的に壁面広告を塗り直し、補修していたそうです。それはつまり、何層にも重なった塗装の一番下には、最初の壁面広告が眠っていることを意味します。コックスは、その可能性を確かめるため、1980年代に入った頃、ザ コカ・コーラ カンパニーに問い合わせました。そして、同社に残っていた壁面の補修歴の記録は、その仮説が正しいことを裏付けていました。

 

■よみがえった広告、盛り上がった人気

コックスは数年かけて「コカ・コーラ」の壁面広告のことを調べ上げました。そうするうちに、最初の広告を復元したいと考えるようになったのです。彼は1989年に、古い「コカ・コーラ」広告の修復に精力的に取り組む二人の女性、アリソン・フリーアギー・ファーガソンに作業を依頼します。二人は何週間もかけて、25層にも及んでいた塗装を根気強く取り除き、ついに最初に描かれた「コカ・コーラ」ロゴを掘り起こすことに成功しました。そして、修復作業によって当時の風合いを可能な限り再現し、壁面広告をよみがえらせたのです。

122年前の姿でよみがえった 世界最古の「コカ・コーラ」壁面広告

復元された壁面広告のことが全国の新聞で採り上げられると、コックスは「コカ・コーラ」ファンの世界にどっぷり浸からざるを得なくなりました。薬局には国内外から多くの人が押し寄せ、数多く届けられた郵便物の中には、その宛先に「ジョージア州カーターズビル、最初の『コカ・コーラ』壁面広告」とだけ書かれたものまであったそうです。

 

■「コカ・コーラ」愛が地域を救う

現在、コックスは薬局事業を義兄弟のウィリアム・テイタムに引き継がせ、自身は引退しています。1972年からこの薬局で働いているテイタムによると、現在は店頭でさまざまな「コカ・コーラ」関連グッズも販売、訪れた人々がメッセージを書き込むためのゲストブックも常備されているそうです。

テイタムは、「コカ・コーラ」ファンの来訪は、薬局の売り上げを助けているのはもちろん、町全体の活性化にも繋がっていると言います。「壁面広告を見にカーターズビルまで来てくださった方々は、町内の他のお店もご利用されますから、町全体に素晴らしい経済効果がもたらされています」。

122年の歴史を持つ壁面広告は、コックス自身の長く幸せなキャリアの記念碑のようなものです。現役時代、懇意にしていた顧客の中には両親、祖父母、曽祖父母が同じ薬局を利用していたという人たちもいました。「私は50年にわたって同じ会社に雇われ、同じ仕事を同じ場所で続けることができたわけですから。それはすごく恵まれていたと思いますね」と彼は言います。

また、未だ衰えることのない壁面広告の人気は、「コカ・コーラ」という製品が幅広い世代の人々に愛されていることの表れだとコックスは考えています。「世界中に二つとない、『コカ・コーラ』の象徴ともいうべき存在に関わることができるなんて、本当に素晴らしいことです」と彼は最後に語ってくれました。