不動産仲介業者からチーズクリスプ店に至るまで、米国では、いま、ミレニアル世代の若者のエネルギーとアイデアがファミリー・ビジネスをどんどん進化させています。1980年から2000年の間に生まれ、幼少期からデジタル機器やインターネットに慣れ親しんでいるミレニアル世代の彼らは、未来を見据えながら現代にも適合し、あらゆる世代の顧客に対応していく方法をベビーブーム世代(1946年〜1959年までに生まれた世代。日本では団塊の世代にあたる)の親から学ぶのと同時に、ときには、逆にそれを伝授しています。
私たちは、ファミリー・ビジネスで成功を収めた34歳未満の米国企業家3人に、事業成功の秘訣と次世代の顧客の心をつかむ方法についてお話を伺いました。

成功事例その1 ジェシカ・タブマンさん(32歳)/家具店運営会社「Circle Furniture」の場合

現在米国内に6店舗を構えるマサチューセッツ州のオーダーメイド家具店「Circle Furniture」は、いまから60年前にジェシカ・タブマンさんの祖父によって設立されました。同店のジェシカさんは事業開発ディレクターとして、「Circle Furniture」で扱う高級家具が時代にマッチした魅力あるものになるように努めています。彼女が父親とおじが経営する店に加わったのは、マサチューセッツ工科大学ビジネススクールを卒業した2012年。入店後すぐに、ウェブサイトの改善、ネット通販への参入、マーケティング方法のブラッシュアップに取り組み、紙媒体への広告出稿数の削減と事業のオンライン化を進めました。

“ミレニアル世代”に学ぶ
「ファミリー・ビジネス」を進化させる方法
3 Millennials Shaking Up Their Family Businesses
Circle Furniture」事業開発ディレクターの
ジェシカ・タブマンさん


当時、彼女の父親とおじは彼女の仕事ぶりについてどのように感じたのでしょうか。
ジェシカさんは、「事業のオンライン化に取り組む必要性があることは、父たちも分かっていました」と語ります。「高級家具の製造・販売という主力事業を守るためには、インターネットを活用してミレニアル世代に働きかけなければなりません。ミレニアル世代は、これから、ベビーブーム世代よりももっと大きな顧客になるだろうからです」。
ジェシカさんの店は、動画やオンライン広告を活用して、「IKEA」の安価な使い捨てのスターターキットではなく、つくりが丁寧で長持ちするソファやキャビネットに“投資する”ことをアピールし続けています。その活動は、本質的には顧客の“啓蒙活動”です。
「骨の折れる作業ですね」と、ジェシカさん。「でも、インターネットを使ってミレニアル世代にどのように語りかけるべきかは分かっているので」。
たとえば、彼女は、同世代の人々は自国製の製品であることや、製品が環境に配慮したものであることに対する関心が非常に高いことを知っています。「私たちの世代は、製品がどこでどのように生産されたかということにこだわりを持っています」とジェシカさんは言います。
Circle Furniture」で扱う木材が植樹活動など持続可能な自然保護活動を実施している森林のものであることを、同社が顧客にアナウンスする理由はそこにあります。「バーモントの木工職人、オハイオの家具職人というように、私たちは、お客様のドレッサーやカウチをつくっている人を実際に知っています」とジェシカさんは話します。
ミレニアル世代の買い物客とその前の世代との違いはこれだけではありません。ジェシカさんは次のように説明します。「私たちはクリックして品物を購入することや、その品物が数日後に届くことに何の違和感も抱くことなく育ってきました。「Circle Furniture」はオーダーメイドなので、注文品が納品されるまでにかなり時間がかかりますが、たとえ時間がかかったとしても、お客様は自分が本当に求めているものを得ることができる。ミレニアル世代は、その注文品にかかる作業の内容さえ分かれば、上質な物を得るためには時間が必要なのだということに納得します」

成功事例その2 セス・ノヴィック(33歳)/クリスプ店運営会社「Kitchen Table Bakers」の場合

2003年にインディアナ大学で経営学の学位を取得したとき、セス・ノヴィックさんは父親のバリーさんの会社である「Kitchen Table Bakers」で働こうとは考えていませんでした。その頃、会社は創業されたばかり。ニューヨーク州ロングアイランドにあるバリーさんの自宅のダブルオーブンで焼いた風味豊かなパルメザンクリスプを販売していました。そんな会社を横目に、セスさんは父親の仕事を手伝うことを選ばず、英語を教えるためにプラハへと旅立ちました。
そして数年後、セスさんは帰国します。「私が実家に戻ろうとしたとき、父は本当に助けを必要としていました」と、セスさんは当時を振り返ります。帰国してすぐに彼はキッチンで働き始めました。「毎日毎日実家でパルメザンクリスプを焼いていたのですが、シャワーを浴びてもまだチーズの匂いが染み付いていたものです」とセスさんは言います。それから1年ほど経ってから、ブルックリンのパン屋がその仕事を引き受けてくれることになり、彼はやっとチーズの匂いから逃げ出すことができました。
さらに、その10年後。セスさんはSpecialty Food Associationのソフィー賞を何度も受賞するほどに成長した会社の副社長となっていました。同賞といえば、しばしばグルメ製品のアカデミー賞になぞらえられるほど、食業界に関わる者なら誰もが望む栄誉です。ソフィー賞を受賞するまで会社が成長した要因には、セスさんのビジネスセンスを活かした取り組みがあります。
セスさんは、ミレニアル世代という立場を生かして会社の製品ラインを拡大させてきました。たとえば、ミレニアル世代がスパイシーな料理が大好きなことを知っているので、他社に先駆けてハラペーニョパルメザンクリスプを販売しました。他にも、玉ネギ、ケシの実、ニンニク、ゴマをふんだんに使った「エブリシング」クリスプがありますが、これはセスさんが子供の頃から大好きなエブリシングベーグルを参考にしています。

“ミレニアル世代”に学ぶ
「ファミリー・ビジネス」を進化させる方法
3 Millennials Shaking Up Their Family Businesses
Kitchen Table Bakers」社長のセス・バリーさん(左)と
副社長のセス・ノヴィックさん(右)


それだけに留まりません。彼はスタンディングパウチを利用したミニパルメザンクリスプの販売を進めましたが、それは彼の父親が導入した、貝のようにふたが開くプラスチック容器よりも二酸化炭素の排出量が少ないパッケージに入れられたものでした。「私たちの世代は環境問題への関心が高い」とセスさんは語ります。そしてこの世代はどうやら、カジュアルなスナックに惹かれるようです。「ミニクリスプは手でつかんで食べられるもので、お皿に並べる必要がありませんね」。
セスさんと彼の父親は、だいたいにおいて意見が一致していますが、経営における意思決定のスピードだけは違います。「私は何事にも2倍のスピードで臨みたいと考え、父は慎重なアプローチを採ります」と彼は認めます。「そうすると、だいたいはその中間で収まるんです」。

成功事例その3 スター・ヒューズ(24歳)/不動産会社「Hughes Marino」の場合

スター・ヒューズさんが両親の経営するサンディエゴ最大の商業不動産会社「Hughes Marino」のブローカー兼ディレクターとして働き始めてから、4年になります。「Hughes Marino」は賃貸人ではなく賃借人だけを専門に扱うために競合が少なく、まさに業界のニッチ市場で事業を展開しています。
「私たちは速いペースで成長してきました」とスターさんは語ります。彼女が会社に加わってから、従業員数は15人から41人へと2倍以上に増えたと言います。サンディエゴから始まり、いまでは南カリフォルニア中へと賃貸物件の仲介業を広げてきました。1週間の労働時間はトータルで70時間から80時間になることもありますが、彼女によればこの世代ではよくあることなのだそうです。

“ミレニアル世代”に学ぶ
「ファミリー・ビジネス」を進化させる方法
3 Millennials Shaking Up Their Family Businesses
Hughes Marino」ブローカー兼ディレクターの
スター・ヒューズさん


「自分の会社を愛し、信頼しているのであれば、ミレニアル世代はやる気に満ち、情熱を持って、自ら進んで信じられないほど一生懸命働きます」とスターさんは言います。「仕事とプライベートの線引きはそれほどありません。すべてが重なり合っているのです」。
Hughes Marino」の社員旅行は、素敵なリゾート地での滞在からボックス席での野球観戦に至るまでさまざまですが、必ず配偶者や子供も同伴します。「そうすることによって、社員の皆がより大きな何かの一員であるという風に感じることができるのです」とスターさんは説明します。彼女の社員=チームは団結力が強く、オフィスにある大きなキッチンで朝食会や昼食会を行ったり、休憩時間にサンルームでビリヤードをしたり、社内のジムでエクササイズをしたりします。
スターさんは、職場の柔軟な活用は、彼女と同世代の人々にとって極めて重要なことだと言います。「居心地が良ければ会社から帰る必要はないんです。オフィスに折り畳み式ベッドを置こうかな、と両親に冗談を言ったりしています」。
スターさんは、公私の境が曖昧なファミリー・ビジネスに就いていることの不都合は、まったく感じていません。実際彼女の兄弟も彼女のボーイフレンドも、「Hughes Marino」で働いています。「私の人生の何もかもがこの会社とつながっています」と彼女は言います。「それこそが、私なのです」。