コカ・コーラ」壁画広告の前に立つ
ラファイエット壁画広告委員会サリー・マーティン会長

文=ハンナ・ニーマー

 

■壁の奥に眠っていた1.8トンの壁画広告

米国コロラド州の州都デンバーにほど近い小さな街、ラファイエット。この街の消防署には、消防車と同じく“赤”がシンボルカラーのとある“名物”が保管されています。それは、かつては実際に街で見ることのできた「コカ・コーラ」の壁画広告で、古びた木製の壁から丸ごと切り取られたものです。

壁画広告を含む木製の壁の大きさは、幅約8メートル、高さ約4メートル。その重量は約1.8トンにも及びます。しかし、地元の人々がこの壁画広告を誇りにしている理由は、単に大きいからではありません。この街の歴史を象徴したものになっているから、なのです。

動画:ラファイエットの「コカ・コーラ」壁画広告
(*英語のみ)

何十年もの時を経て、現在では、随所でペンキがはがれかけてしまった壁画広告ですが、かつては米国初の自動車専用幹線道路としてにぎわったリンカーン・ハイウェイの横に掲示されていて、のどの渇いたドライバーたちに「『コカ・コーラ』を飲みましょう」と呼びかけていました。20世紀前半には炭鉱の街として栄えたラファイエットは、1956年に最後の鉱山が閉じられると、再び農業の街へと戻っていきます。そんな街の移り変わりを長年見つめてきた壁画広告も、鉱山と運命を共にするかのように、描かれた建物の壁面ごと、新たな外壁で覆われてしまったのです。

その後も建物が改装されるたびに壁も塗り重ねられてきましたが、とうとう数年前に、老朽化してしまった建物ごと解体することが決定。その時点では、壁画のことを覚えている人など、もうほとんどいませんでした。しかし、解体作業を進めていた2015年のある日、何層にも重なった壁を取り除いたところ、忽然と、この壁画広告が姿を現したのです。

「壁画広告を見つけた瞬間、作業に携わっていた地元の人々は一斉に息を呑みました。そしてすぐに話は広まり、街中が壁画広告の話題で持ちきりになりました。これはラファイエットの歴史の一部であり、我々の力で守るべきものだと、誰もが考えたのです」。びっくりして息を呑むジェスチャーを“再現”して見せながら、ラファイエット壁画広告委員会の会長を務めるサリー・マーティンは語ります。

 

■ありのままで残す。それが、ラファイエット流

ラファイエットの住民たちは、壁画広告が長い年月を超えて、今尚その姿を残しているという事実をふまえ、「色を塗り直すことはあえてせず、経年による風合いの変化をそのままの状態で保存しよう」と決めました。そのようにして、壁画広告はボランティアの手によって解体作業中の壁から切り出され、地元の消防署に運び込まれることになったのです。

住民の想いが結集! 街の歴史を見つめてきた「コカ・コーラ」壁画広告救出劇

壁画広告のクローズアップ

「劣化したペンキを取り除くことも、塗り直すこともしませんでした。つまり、私たちが目にしているのは、すべて元の壁画広告に塗られていたペンキの色です。ラファイエットの歴史を守り、後世に伝えていくためには、このような形で壁画広告を残すことが必要だと考えたのです」とマーティンは語ります。

人々は何ヵ月もかけて、壁画広告の木の板のひび割れに入り込んだ汚れを丁寧に取り除く作業を進め、さらなる劣化を防止する保護材で表面をコーティングしました。

こうした補修作業にかかる費用には、スワイヤー・コカ・コーラ(*)をはじめとする民間企業からの寄付金も充てられています。「私たち住民の想いがコカ・コーラ社にも伝わり、支援を受けられることになったのです。この吉報を街の皆に伝えることができて感激しています。何といっても『コカ・コーラ』は、街だけでなく、私たち一人ひとりの歴史にも欠かせないものですからね。『コカ・コーラ』にまつわる大切な記憶は、誰の中にもあるものでしょう?」とマーティンは言います。

スワイヤー・コカ・コーラ:香港を中心とする東アジア、及び米国西部11州でコカ・コーラ社製品のボトリングを手掛ける企業。アジアを中心に展開する国際企業グループであるスワイヤー・グループに属する。

住民の想いが結集! 街の歴史を見つめてきた「コカ・コーラ」壁画広告救出劇

消防署内に保管されている壁画広告

 

■これは、歴史を語るアートだ

マーティンは、この壁画広告は街の過去・現在・未来を繋いでいくための重要な存在になると考えています。「10年前のことでさえ、私たちは覚えているとは限りません。ましてや20世紀初頭の社会の記憶を受け継いでいくためには、当時の日常生活を象徴するものを大切に残していくことが欠かせないのではないかと思うんです」。

補修を終えた壁画広告は、消防署から搬出され、元の掲示場所に近い歴史的建造物の中に設置される予定です。そこでは、あらゆる世代のラファイエットの住民が壁画広告の前に立ち、誕生してから現在までの長い年月に思いを馳せることになるでしょう。

最後にマーティンは次のように語ってくれました。「街の貴重な財産であるこの壁画広告は、『コカ・コーラ』という製品の広告であり、米国を象徴するアート作品でもあります。でも、もしこの壁画広告が言葉を話せたとしたら……どれほど豊かなストーリーを語ってくれるのでしょうね!」。