「アンデスメロン」は「安心ですメロン」の略。
タイヤメーカー「ブリヂストン」の社名は
創業者である「石橋(石=ストーン、橋=ブリッジ)」さんの名前から──。
聞き慣れた名前にも、時には意外な由来があるものです。
では、コカ・コーラ社の製品名には、どんな由来があるのでしょうか?
今回は、日本市場向けに開発された「爽健美茶」「綾鷹」「い・ろ・は・す」の
名前に隠されたストーリーをご紹介します。

文=『Coca-Cola Journey』編集部

 

■最初はあの一文字が抜けていた──「爽健美茶

健康や美容を気遣う女性をメインターゲットにして、1993年に誕生した「爽健美茶」。“爽やかに、健やかに、美しく”というコンセプトを分かりやすく表現するために「爽健美茶」と名付けられましたが、実は、製品名の第一候補は、「爽健茶」でした。

しかし「爽健茶」という名前では、“健康に良さそう”なことは伝わるけれど、何かが足りない……。「今ひとつしっくりこない」という思いをプロジェクトメンバーは抱えていました。そんなとき、お茶ブランドのマネジャーの男性が「“美”を入れてみたらどうだろうか」と提案。「それだ!」と満場一致で、「爽健美茶」という製品名に決まったのです。

“爽やか”“健康”といった価値に、“美”を結びつけるという発想が、男性ならではの視点だったと、当時の女性担当者は語ります。女性にとっての“美”はとても多様で、人によっては“爽やか”“健康”とは別次元にあると捉える人もいるので、もし女性だけで考えていたら、「爽健美茶」という名前は生まれていなかったかもしれません。バブル経済もはじけ、女性たちのファッションが「ナチュラル」「癒し」という方向に向かっていた1993年、「爽健美茶」という製品名は時代のトレンドにも合致し、多くの女性から支持を得ることになりました。

 

■起源は江戸時代末期にあり──「綾鷹

綾鷹」は450年の歴史を誇る京都・宇治の老舗茶舗・上林春松本店協力のもと、「急須でいれたような緑茶の味わい」を目指して開発されました。急須でいれた緑茶にはにごりがもたらす旨みがありますが、PETボトル飲料でそれを再現するのは困難です。そのため、飲料開発の過程では何度も試作と改良を繰り返し、ようやく味わいが決まったわけですが、それにふさわしい製品名の選定に際しても、何度も議論が重ねられました。

そんな中で、メンバーの一人が上林春松家(*)の歴史にまつわる、あるエピソードを思い出しました。江戸時代には幕府用の碾茶(てんちゃ:抹茶の原料となるお茶)をつくり壺詰めしていた上林春松家が、幕末の混乱期に、当時では画期的だった緑茶の新製品(後の玉露)の一種を開発し、一般市民に向けて販売しました。その茶銘が「綾鷹」だったのです。

茶師としての格式にとらわれることなく、これまで培ってきた伝統や技術を活用し、その時代にあった価値を提供していく上林春松本店の“温故知新”の精神を表現した「綾鷹」という製品が、プロジェクトメンバーたちの心を捕らえました。さらに、「織り込む」という意味を持つ「綾」と、「古くから力あるもの、高貴な存在の象徴」という意味がある「鷹」という文字を組み合わせた「綾鷹」という茶銘には、貴重な茶葉を織り込んでつくり上げたお茶だという意味が込められています。まさに、“にごり緑茶の元祖”となる革新的な製品にふさわしい名前であるとプロジェクトメンバー全員が賛同し、新製品の名前は「綾鷹」に決まったのでした。

上林春松家:室町時代の永禄年間から続く茶業を生業とする家系。江戸時代には「御持御茶師ごもつおちゃし)」として、幕府御用のお茶の茶園管理、製造・精製、茶詰め、「お茶壺道中」(茶壺に入れたお茶を江戸まで運ぶ行事)の取仕切りに携わっていた。

 

■二つのキーワードの掛け合わせ──「い・ろ・は・す

い・ろ・は・す」は「おいしくて環境にもやさしい水」として、2009年5月に発売されました。長年かけて開発が進められてきた国内最軽量のPETボトル(当時)を使うこと、そして、「エコ」をコンセプトにした製品にすることなどが決まり、いよいよ開発も大詰めとなった2008年末、名前が決まらず困り果てていたプロジェクトチームは、12月24日のクリスマスイブにも打ち合わせのために集うことになりました。

改めて新製品のコンセプトから振り返って考えていたとき、席を外していたメンバーの一人が「す・す・す」とつぶやきながら戻ってきました。何と、それがブレークスルーとなったのです。

もともと、日本古来の「いろは歌」の最初の三文字をとった、「いろは」という名前が案として挙がっていました。その最後に「す」をつけると、「I LOHAS=私はロハス」という響きを持つようになります。こうして、「ものごとの始まり」という意味を持つ「いろは」と、健康と環境を志向するキーワード「LOHAS」を掛け合わせた製品名、「い・ろ・は・す」が誕生したのです。

ひらがなのみの製品名は、国産の天然水であることが伝わりやすいだけでなく、コカ・コーラ社初の試みという点でインパクトが強かったこともあり、「い・ろ・は・す」は、瞬く間に消費者の心を捉え、発売からわずか3ヵ月足らずで1億本出荷という記録を達成しました。

 

普段、当たり前のように口にしている製品名ですが、ネーミングに至るまでの舞台裏には、プロジェクトチームの「産みの苦しみ」がありました。しかし、多くの人たちが知恵を絞って、考えに考え抜いた名前だからこそ、長きにわたって消費者に親しまれるようになったのかもしれません。今度お店で製品を手に取る際には、ぜひ、製品名が誕生するまでのストーリーを思い浮かべてみてください。