中学生世代の運動不足解消を目指し、日本オリンピック委員会、
東京オリンピックパラリンピック競技大会組織委員会、
そして、日本コカ・コーラ社の3者が共同して取り組むスポーツ大会
Olympic Movesオリンピック・ムーブス)」。
この大会では、単にカラダを動かすだけではなく、
その楽しさを知ってもらうために
独自に開発された競技が行われる。
『Coca-Cola Journey』は、去る10月1日に品川区立鈴ヶ森中学校で開催された
「Olympic Moves」の模様をレポートする。

文=池田真隆(オルタナS編集部)
写真=松本昇大

 

■バブルサッカーを知っていますか?

「ピーッ」
体育館の中に、ホイッスルの大きな音が鳴り響く。その音に合わせて、コートの両端で向かい合っていた生徒たちが一斉に走り出す。生徒たちが目指すのは、中央に置かれているサッカーボール。われ先にと走り、一人の生徒がボールを蹴ろうとした瞬間、バチーンというゴム状のモノがぶつかり合う音がして、数名が吹き飛んだ……。
これは、10月1日に品川区立鈴ヶ森中学校で開催されたスポーツ大会の競技種目の一つ「バブルサッカー」のワンシーンだ。バブルサッカーとは、バブル(泡)をイメージした巨大で透明なビニールの球体の中に人が入ってプレーするサッカー。通常のサッカーのルールとは異なり、相手にぶつかってもファウルは取られない。だから格闘技さながらの、ボールの争奪戦が繰り広げられる。ただしぶつかって飛ばされても、球体に守られているので怪我はしない。自分もボールになったような感覚で、コートを転がり回り、ゴールを狙う。


「バブルサッカー」はキーパーなしの4人制。
プレーヤー同士の激しいぶつかり合いに特徴があるが、
ボールを持っていないプレーヤーに故意にぶつかると反則になる

 

大会当日、バブルサッカーのほかに行われた競技は五つ。オリジナルの“イモムシウェア”を着て下半身がほとんど動かせない状態でラグビーをするイモムシラグビー、衝撃を与えると赤ちゃんの泣き声がする特殊なボールを使ったBABY BASKETBALL、そして、磁石で連結された軽いバーベルを5人一組で上げ下げするスピードリフティングなどだ。

一般的なスポーツ競技では、運動神経の良い生徒が活躍するものだが、これらの競技では話は別。いくら身長が高くても、腕力があっても、そして、足が速くても、必ずしも活躍できるとは限らない。

たとえば、BABY BASKETBALLは、ゴールプレーヤー1人とフィールドプレーヤー5人で行うバスケットボールだが、リバウンドに有利な上背の高さや相手をドリブルで抜き去るための個人技よりも、味方と呼吸を合わせてゆっくりとボールを運ぶチームワークが勝利へのカギとなる。なぜなら、この競技で使用するボールは強い衝撃を与えると赤ちゃんの泣き声が出るようになっており、ボールを泣かせた時点で、相手ボールになってしまうのに加え、ドリブル禁止。だから、慎重にパスをつないでボールを運んで得点を重ねるしかないからだ(もちろんボールをキャッチする際にも慎重さが求められる)。

これが、衝撃を与えると泣き出してしまうボールだ

 

■深刻化する若者の運動不足

鈴ヶ森中学校で開催されているこの大会は、若者の運動不足の解消を目的としている。なぜなら、日本では近年、中学生世代における運動格差が広がっているからだ。運動部に所属している生徒とそうでない生徒では、日常生活の中でカラダを動かす時間に極端な差があり、それが体力の差につながっているのである。

そこで、日本コカ・コーラ社ではCSR活動の一環として、日本オリンピック委員会(JOC)と東京オリンピックパラリンピック競技大会組織委員会と組み、若者の運動不足を解消するための取り組みを始めた。そのプロジェクトの名称は、「Olympic Moves」。今回のスポーツ大会名になっている()。

*「Olympic Moves」は、ザ コカ・コーラ カンパニー(米国本社)と国際オリンピック委員会(IOC)が共同して2003年より世界各国で展開している。しかし、15年に日本で導入する際に、より日本の実情に合わせたプログラムにしようと、3者は独自の競技を実施することに決めた。


会場スタッフはみな、おそろいのユニフォームを着用(写真上)。
競技を始める前に、全員でラジオ体操をしてカラダをほぐした(写真下)

 

ここまでに記した競技の特色を見ても分かるように、「Olympic Moves」で行われる競技はどれも、生徒たちになじみのあるオリンピック種目をベースにしつつ、運動が苦手な生徒でも楽しめるようにと開発されたものだ。日本で「Olympic Moves」が開かれたのは今回で3回目だが、今後は全国の中学校に教育プログラムとして採用してもらうことを目指す。

同日は、競技を楽しんだだけではない。パラリンピアンとの交流も楽しんだ。

パワーリフティング競技で過去3度パラリンピック大会に出場し、リオ2016パラリンピック大会で8位(88キロ級・160キロ)に入賞した大堂秀樹選手が、ゲストとして登場したのだ。大堂選手は生徒たちを前に、パワーリフティングを始めたきっかけや、パラリンピアンとしてのこれからの目標について話した。


大堂秀樹選手のトークショーでは、実物のバーベルが展示された。
大堂選手は自身の体重の倍以上のバーベルを持ち上げられるそうだ

 

会場となった鈴ヶ森中学校は東京都教育委員会から、「スーパーアクティブスクール」に指定されている。スーパーアクティブスクールとは、生徒たちの運動不足解消と体力向上に取り組む先進的な研究を行う学校だ。今回の大会が鈴ヶ森中学校で実施されることになったのは、同校がスーパーアクティブスクールであることが大きい。

鈴ヶ森中学校の黒田佳昌校長は、最近の中学生世代の運動不足の原因として、「スマートフォンの影響も大きい」と話す。スマホでゲームをするなど屋内で遊ぶことが増えたことで、屋外で遊ぶ機会が減った。日常生活の中でカラダを動かさないから基礎体力が落ち、その影響で、「起立したときに、背筋でカラダを支えられずに猫背ぎみになっている生徒が少なくない」と言う。

鈴ヶ森中学校の黒田佳昌校長。
元スポーツマンで背筋がピンと伸びていた

 

同校の生徒数は、3学年合わせて300人に満たないが、さすがスーパーアクティブスクールだけあって、約7割の生徒は運動部に所属し、日々の生活習慣の中に運動を採り入れている。しかし残りの3割の生徒は、先に述べたスマホの影響などもあってかカラダを動かす機会が極端に少なく、同校であってもその「体力格差」は問題になっていた。

そのような状況下での「Olympic Moves」だった。どこまで効果があるものか、大会が始まる前は皆目見当もつかなかったが、黒田校長は「運動部に入っていない生徒でも、競技を楽しんでいた姿が印象的だった。大会を開催して良かったと思います」と話す。

Olympic Moves」は、生徒たちに運動機会を与えただけではない。仲間づくりのきっかけにもなった。

「今回の競技は、すべてがチームスポーツ。運動が苦手な生徒も積極的にコミュニケーションをとって、チーム共通の目標に向かって一丸となってカラダを動かしていた。スポーツを通して、チームワークを育み、友情を深めることになったのではないか」(黒田校長)。


イモムシになりきってプレーするイモムシラグビー。
這ったり転がったりしながらボールをつないでいく。
動きはスローだけど、運動量は相当なもの

 

■運動が得意な生徒、苦手な生徒、それぞれの声

実際にプレーした生徒たちは、「Olympic Moves」に参加して、どのような感想を持ったのだろう。

9年生(同校では、中学3年生のことを9年生と言う)の野村光里さんは、運動が苦手で、競技をやる前は「自分がみんなの足を引っ張ることにならないか」と不安感で一杯だったという。しかし、競技後のインタビューでは、表情から不安の文字は消えていた。「みんなと声を掛け合いながら、ボールを運んでいくことが楽しかった。またやりたい」と目を輝かせた。

野村光里さんは、カラダを動かすことが大の苦手。
ただ、ゲームをすること自体は嫌いじゃない。
Olympic Moves」の6競技は、そんな野村さんにはまった

 

同じく9年生の脇本武蔵さんは、運動が得意な生徒。小学2年生から野球を始め、現在は地元のリトルリーグのチームでキャプテンを務めている。競技の感想を聞くと、「今日はみんなでエンジョイできた」と答えた。リトルリーグは、勝敗が重視される。そのためチームには、試合中も練習中も緊張感が漂っている。しかし今日は、リラックスしながらスポーツを楽しむことができたという。野村さん同様、脇本さんの顔からもリラックス感が漂っていた。

「高校に進学しても野球を続ける」という脇本武蔵さん。
スポーツをしていたことで体力が付いたのはもちろん、
礼儀やコミュニケーション力などの社会性も身に付いたという

 

朝8時30分に始まり、夕方、幕を閉じた「Olympic Moves」。複数の競技を同時並行で行うことによる慌ただしさはあったものの、生徒も父兄(父兄も一部参加していた)も、カラダを動かした後は充実感あふれる良い表情をしていた。人間も動物だ。やはり、カラダを思い切り動かして、喜んだり、悔しがったり、全身で感情表現をしていた方が人間らしいし、生徒も、活き活きして見える。

Olympic Moves」で使った用具の一部は、そのまま同校に残しておくという。「Olympic Moves」を単発の「イベント」に終わらせることなく、これからも用具を使い、カラダを動かしてもらうためであるし、この日体験した楽しさを、未来の鈴ヶ森中学校の生徒たちに伝えてもらうためだ。

それらのことが成し遂げられ、蓄積され、生徒たちの体力が向上したとき、また一つのレガシー(遺産)が誕生することになる。

参加者全員揃っての記念撮影