ヤンバルクイナの鳴き声の周波数帯発見!
 生態調査のため、自動販売機を利用することになったのには理由がある。自動販売機は電源が取れる場所に設置されており、定期的に製品補充のスタッフが巡回している。そのため、ICレコーダーを設置してヤンバルクイナの音声データを収録し、定期的にデータを集取する場所としては最適だったわけだ。
 ただし、データを採るだけでは不完全。その生態を調べるためには、自動販売機3台で録音された音声データから、ヤンバルクイナの鳴き声のみを取り出して調査、パソコンを使って処理をする必要がある。そこでどうぶつたちの病院 沖縄は、国立 沖縄工業高等専門学校に相談、録音した音声データの中からヤンバルクイナの鳴き声のみを抽出するプログラムを新たに開発することになった。

「やんばるの自然と工学を結びつけることができれば、地元の工業高専が調査に協力する意義は大きいと考えた」と語るのは沖縄工業高等専門学校の蔵屋英介先生。ただし調査協力を引き受けてはみたものの、当初、ICレコーダーで録音された環境音からヤンバルクイナの鳴き声のみを検出しての音声分析は困難を極めた。
 そんなときである。蔵屋先生が趣味で行っているアマチュア無線がヒントになり、大きなブレイクスルーを得られたのである。

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わたしたちの地域とコカ・コーラの「未来志向」な関係
第3回 日本初、ヤンバルクイナの命を守る自動販売機

沖縄工業高等専門学校の蔵屋英介先生(左)と

同校電子通信システム工学コース2年の宇根健一郎さん(右)。


「アマチュア無線では、使われている周波数帯をスペクトルとして表示させるソフトウェアを使い、開いている周波数帯を探して電波を送ることでコミュニケーションを取っています。それと同じ考え方で、やんばるの森の自然環境の音を計測したところ、ぽっかりと開いている周波数帯域が発見されました。実はヤンバルクイナの鳴き声は、その空白の周波数帯域を使っていたのです。この発見が、今回の研究の着眼点になりました」(蔵屋先生)

 開いている周波数帯の音データのみを抽出して解析すれば、ヤンバルクイナの鳴き声を効率的に検出することができる。この考え方と、1秒間に6〜8回間隔を開けながら鳴くというヤンバルクイナの鳴き声波形に着目し、プログラムの開発を行った。結果、高い検出率を持つプログラムを開発することに成功した。これは、自然環境音を解析することによってヤンバルクイナの保護に必要な条件を抽出した日本初の研究となった。

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ヤンバルクイナの声の周波数帯の波形。

ヤンバルクイナの生態調査活動に一気に弾みが付いた。


「プログラムの開発は、9割が苦しいことでしたが、自分がつくったプログラムでヤンバルクイナの声が検出された時にはとても嬉しかったです。沖縄独自の研究なので、すごくやりがいを感じました。来年の春に僕は学校を卒業しますが、できれば僕と同じ、やんばる出身の生徒に研究を引き継ぎたいと思っています」

 プログラムの開発を直接手がけた電子通信システム工学コース2年の宇根健一郎さんは、経験の継承こそが大切だと力説する。

「沖縄の宝」を守りたい
 プログラムが開発できたことで、ヤンバルクイナの生態が、少しずつ見えてきた。たとえば雨の日にヤンバルクイナのロードキル(道路上で発生する野生動物の死亡事故)が多いのは、ヤンバルクイナの鳴き声の周波数帯が雨の音で埋もれてしまい、上手くコニュニケーションできないためだと推測できるという。こうした研究をさらに進めることで、多発傾向にあるロードキルへの対応や、人工音がヤンバルクイナの生態に与える影響などの解明にもつながると期待されている。

「ヤンバルクイナはやんばるの森を象徴する動物です。ヤンバルクイナを保護できれば、やんばるの森の生き物全体を守っていくこともできます」。どうぶつたちの病院 沖縄の金城さんは、「絶滅危惧種ヤンバルクイナ生態調査」プロジェクトの成果が、やんばるの自然そのものの保護にもつながると語る。

「この先、沖縄が生き残っていく道は、観光しかないのではないかと考えています。小さな島なので、大規模な農業を行うこともできないし、特別な技術があるわけでもない。沖縄にオンリーワンのものがあるとすれば、それはやんばるの森の生き物たちしかないと思います。やんばるの動物たちを守る活動は、将来の沖縄の宝を守ることになるのです」(金城さん)


 2013年9月、やんばる三村のひとつである国頭村は「ヤンバルクイナ生態展示学習施設」をオープンした。ヤンバルクイナ生態展示学習施設では、愛らしい姿で歩き回るヤンバルクイナを間近に観察することができる。同施設は、NPO法人やんばる地域活性サポートセンターが管理運営し、飼育などはどうぶつたちの病院 沖縄が担当している。こうした自治体、企業、学校、NPOという地元のさまざまな人たちの協力によって、ヤンバルクイナの保護活動は幅広く行われている。

 ヤンバルクイナの鳴き声を調査することで、それらの保護につなげるというヤンバルクイナ生態調査。それは、やんばるの豊かな生態系を守ることで、沖縄の未来を守っていく活動でもある。地元を支える企業とNPO、学校が協力し、沖縄の未来のためにそれぞれの立場から協働したことが、今回のプロジェクトの成果につながった。企業と地域の新しい関係と可能性を示唆する成功事例と言えるだろう。

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