■レールを外れる勇気が人生を変える

──みなさんはお話の中で、自分自身を理解することの大切さを何度か指摘されています。これこそが自分のやるべきことだ、と悟った瞬間はありましたか?

ハーマン 私にはありすぎたくらいです(笑)。むしろ、それが多すぎて一つのことに集中し続けることに苦労するタイプでしたね。

私はカーター元大統領(第39代米国大統領)が立ち上げた女性経営者タスクフォースで、指導的な役割を担いました。その後、自分自身も起業する道を選びました。手元に1万ドルあったので、それで自分のビジネスを始めたんです。しかし、当時はビジョンこそあったものの、明確な戦略は欠いていたかもしれません。明確な指針を持って、目的のためにじっくり取り組むということを意識する必要があったんです。

ゲイル 自分にとってのターニングポイントを振り返ると、いつも誰かの影響を受けていたことに気がつきます。周囲に学べる相手がいること、そして、時にはリスクを取ってでも用意されたレールから外れる勇気を持つことは、とても大事ですね。

ビル&メリンダ・ゲイツ財団から仕事のオファーを受けたときのことを覚えています。私が彼らの偉大さを理解し、アトランタからシアトルに引っ越す決断をするまでに、丸1年かかりました。でもそこでの仕事は、異なる視点で世界を見ることを教えてくれる、全く新しい経験となりました。

 

■「完璧であろう」とする必要はない

──若いころの自分にアドバイスできるなら、どんなことを言いますか?

ゲイル 「完璧である必要はないんだよ」と言いますね。一般化するのは良くないかもしれませんが、女の子は概して、「周囲に気に入られなくちゃ」「完璧にならなくちゃ」と思いながら成長する傾向があると思います。私自身も若い頃は、アフリカ系アメリカ人の女性として「もっと努力してより良い人間にならなくては」と強く思っていました。しかし、高い理想を持つことと、自分らしさを保つことのバランスも重要です。自分の弱い部分を隠さず、時には間違いを素直に認められる人こそが、本当に人望のあるリーダーになれるんだと思います。

いちばん大事なことは失敗から学べること、と言っても過言ではありません。不完全な自分を責める必要なんてないんです。

ハーマン もっと早く気づいていればよかったと思うのは、自分一人で仕事を抱え込まないこと、頼れる人とのサポート体制を築いておくことの重要性です。いろんな人と、「わあ、それどうやったの?」と訊いてお互いに学びあえる関係を持つことは大事ですね。どんな人と一緒に時間を過ごすのかを選択することは、非常に大切なことです。ネガティブな局面に陥ったときでも、自分のモチベーションを保たせるのは、まさに頼れる人・信頼できる人の存在なのですから。

それから、リスクを取ることも大事。常に可能性をオープンに考え、一歩踏み出す意志が必要です。信頼できる人のアドバイスを受けつつ、自分にできることとやるべきことを現実的に考え、夢を実現するために必要な投資をすること。夢を単なる憧れではなく、地に足のついた目標にするのです。時には、次に何をするかということにとらわれて、今日良い仕事をするためにベストを尽くすということを忘れてしまうこともありますが、大事なのはあくまでも、「今日何をするか」なのです。

ラゴマシーノ 若いころ、本質的には理解できていなかったことの一つが、同性の友人のネットワークを持つことの強みです。私は40歳代半ばになって再び旧友たちと集まって、一緒にランチをしたり、キャリアや家族について相談し合うようになりました。その大切さをもっと早くに知って、もっと活用できればよかったと思います。

 

■次世代に残すのは功績ではなく「人としてのあり方」

──ご自身の人生を、他の人にはどのように記憶されていたいと思いますか?

ハーマン まだ終わっていませんけどね(笑)。

ゲイル 他者の人生に変化を起こしたこと、そして良き友人だったことですね。親しみやすく優しい人であること、つまり人格は本当に大事です。できることなら、私は良い人間であり良き友人、そして他者のために尽くした人として記憶されたいです。

ハーマン 子どもが自分の目をまっすぐ見つめて、「大きくなったら、あなたのようになりたい」と言ってくれたとき、自分が次の世代にどのような影響を及ぼすことができたのかを初めて知ることになります。大事なものを次の世代に引き継いだ人として記憶されたいです。

ラゴマシーノ アメリカの著名な銀行家であるデビッド・ロックフェラーと仕事で世界中を旅したとき、彼の人への接し方に感銘を受けました。相手が朝食をつくってくれるシェフ、大学の学長、経営者、誰であろうと関係なく、デビッドは毎朝起きて「どうすれば自分が関わる人を少しでも幸せにできるか」と自問する人でした。私も彼のように、日々接する相手を少しでもハッピーにできる存在でありたいです。

 

■トークセッションに参加した取締役の経歴

ヘレン・D・ゲイル

1984年にアメリカ疾病予防センター(CDC)で初めて公衆衛生関連の仕事に携わり、95年にはCDCのHIV・STD・結核センターのディレクターを務める。2001年から06年まで、
ビル&メリンダ・ゲイツ財団の国際医療プログラムのプログラムディレクター。06年から15年まで、国際的な人権組織であるCARE USAのプレジデント兼CEO。革新的なアプローチにより複雑な社会問題の解決を目指す独立系NPOである
マッキンゼー・ソーシャル・イニシアチブ CEO。

13年からザ コカ・コーラ カンパニーの取締役。コルゲート・パルモリーブ社の取締役も務める。

 

アレクシス・M・ハーマン

1997年から2001年まで米国労働長官。01年から06年にかけて、ザ コカ・コーラ カンパニーの人材タスクフォース会長として人事方針や運用改善に従事。01年から、企業コンサルティング会社ニュー・ベンチャーズ 社会長兼CEO。13年にかけて食品・施設管理サービスを提供するソデクソ社 会長、トヨタ自動車のダイバーシティ諮問委員会・グローバル諮問委員会メンバー。

07年からザ コカ・コーラ カンパニー 取締役。カミンズ社、エンタジー社、
MGMリゾーツ・インターナショナル社 取締役も務める。

 

マリア・エリーナ・ラゴマシーノ

1983年からチェース・マンハッタン銀行に勤め、2003年から06年にかけて同社取締役。00年から16年までエイボン・プロダクツ社 取締役。01年から05年にかけて
JPモルガン・プライベート・バンク 会長兼CEO。05年から12年にかけて、富裕層の家庭の資産運用サービスを手掛けるジェンスプリング・ファミリー・オフィス社 CEO。13年から
WEファミリー・オフィスCEO兼マネジング・パートナー。

08年からザ コカ・コーラ カンパニー 取締役。ザ ウォルト・ディズニー カンパニー 取締役も務める。

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