ブラジルのサンパウロに住むシルヴィア・スタッチ・クルズはラン通勤のパイオニアです。
「時速10~12キロのペースで走ります。
前より元気になり、走るスピードも上がり、また何よりハッピーになっています」
と彼女は語ります
文=ジェイ・クロフト


■ 健康、環境……良いことづくめのラン通勤

アトランタに住むジョシュ・ウォイダースキにとって、それは実験として始めたつもりでした。

長年熱心にランニングに取り組んでいた彼は、数年前事故で愛車を手放すことになったのをきっかけに、職場に走って通うことにしたのです。

そのようにして始めた「ラン通勤」によって、お金が節約できただけでなく、交通渋滞が全米ワーストクラスであるアトランタ市街を運転するストレスがなくなり、日々のトレーニングの効率も上がりました。そして、世界中で関心が高まっている「ラン通勤」ブームを、予期せぬ形で後押しするようになっていきます。

現在大都市では、多くの人が走って通勤しています。職場と自宅を毎日走って往復する人もいれば、時折走るだけの人もいます。ラン通勤が最も盛んな都市はロンドンと考えられていますが、他にもアメリカ、カナダ、オランダ、スペイン、ブラジル、オーストラリアの各都市も盛り上がりを見せています。走って通勤するというアイデアは、健康や環境、都市の生活スタイルを改善する一手段だとして、メディアにも多く取り上げられるようになりました。

「走るのが大好きで、運転は大嫌い」と言う39歳のウォイダースキは、パラリーガルとして働く職場まで毎朝8キロ走って通っています。「通勤時間がランニングの時間になるので、通勤と別に運動の時間を取る必要がなくなるんですよ」と彼は説明します。

ウォイダースキが立ち上げたウェブサイト ”The Run Commuter” ではラン通勤にまつわる各種情報を提供しており、人気を博しています。

節約、減量、そしてストレスフリーでハッピーに!
世界を席巻する「ラン通勤」

アトランタ市内の職場に向かうウォイダースキ


■ 大幅減量で人生が変わった

フランス出身のジュリアン・デランジェは、昔からランナーだったわけではありません。183cmの身長に対し体重が140キロ近くもあった彼は、生活スタイルを変えようと決心し、パリ市内で歩くことから始め、体重が落ち始めるとランニングを開始したのです。

デランジェは3年前にアメリカのピッツバーグに引越し、現在は研究者としてカーネギー・メロン大学に勤めています。最初のうちは、家から10キロ近くの道のりを車で通い、大学の近くの公園でランニングをしてから、オフィスのシャワーを使っていました。しかしある時、真ん中のステップを省くことを思いつき、自宅と職場間の往復20キロ近くの道のりを走ることにしました。

「渋滞に巻き込まれずにすむし、早起きもしなくて良いし、ガソリン代や駐車代も節約できました」とデランジェは言います。所属するランニングクラブでも、彼に触発されてラン通勤を始めたり、自転車や公共交通機関での通勤に切り替える人が出てきました。今では体重を77キロまで落としたデランジェには、間もなく人生初の100マイルマラソンへの挑戦が控えています。

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ラン通勤のおかげで大幅減量に成功したジュリアン・デランジェ


■ ロンドンのコカ・コーラ社でも、ラン通勤が静かなブーム

「ロンドンは、ラン通勤の一番の “ホットスポット” と言えるかもしれません」と、ラン通勤をテーマとする修士論文を完成させたサイモン・クックは言います。彼は現在、人文地理学の博士課程に在籍し、移動手段など人間と場所との関係を中心に研究しています。

クックは、大半の人が「ちょっと風変わりな思いつき」という印象をラン通勤に対して持っていることを認めます。でも、一度ラン通勤の実際について聞くと、多くの人はそれが混雑した地下鉄を利用した通勤よりも魅力的だと気づき始めます。その意義を実感する人が増える中で、クックは将来的にラン通勤が移動手段の主要な選択肢の一つとなっていく可能性もあると考えています。

「ラン通勤が急速に広まってきた欧米では、移動のためというよりもスポーツや健康目的の取り組みと見なされている傾向があります」とクックは言います。

ラン通勤をする人が多いのは、交通渋滞が起こりやすく、シャワーやロッカーを提供できる大規模な職場が集中する大都市です。「職場という存在は、ラン通勤の普及に非常に大きな役割を果たしています」とクックは指摘します。

毎月の第1木曜日には、ランナーたちがTwitterのハッシュタグ#run2workdayでラン通勤を推進するのと同時に、ラン通勤を優遇する税控除を求める活動をしています。ちなみに、クック自身も熱心なランナーですが、在宅勤務のため、通勤に取り入れる必要性は生じていないそうです。