第二次安倍晋三内閣による一連の経済政策「アベノミクス」により
明るさを取り戻し始めた日本経済。
この復調は本物か? 
今後どうすれば、日本経済はより強くなれるのか?

ティム・ブレット日本コカ・コーラ社長と竹中平蔵慶應義塾大学教授が、
それぞれの立場から「日本経済復活」のヒントを語る連続対談。

文=山田清機
写真=間仲宇


経済学のそばにはいつもコカ・コーラがあった

ティム 本日は産業競争力会議のメンバーである竹中平蔵さんにお会いできて、とても光栄に思っています。

竹中 実は私、コカ・コーラの大ファンなんです。

ティム ありがとうございます。竹中さんはコカ・コーラとどのような出会いをされたのですか?

竹中 私が通っていた和歌山県の県立高校に、当時、若い倫理社会の先生がいました。私はその先生が宿直の日になると必ず宿直室へ行き、将来何を勉強すべきかを相談していたのです。その先生との対話を通して「経済学を学びたい」と思うようになったのですが、先生への差し入れはいつもコカ・コーラでした。

ティム 興味深いエピソードですね。 コカ・コーラを飲むということは前向きな気持ちを楽しむということですから、未来を語り合う時にはぴったりだと思います。

竹中 ですから今日は、まず、コカ・コーラの中に経済学が好きになる成分が入っているかどうかをティム社長に伺いたかった(笑)。

ティム 経済学を好きになるかどうかは分かりませんが、何らかの助けになると良いですね。ちょっとした幸せを感じることと楽観的な気持ちになること、これもコカ・コーラの秘密の一部ですからね。冗談はさておき、楽観的になるのは今日の私たちのお話にとても関係があると思っています。一人ひとりが自分たちの将来について前向きになることは、日本経済にとっても、企業がデフレを克服し成長していくためにも、とても大切なのではないでしょうか。

特別対談 第1回 ティム・ブレット×竹中平蔵
「アベノミクスとコカ・コーラは日本を救うか?」


文句なしに正しいアベノミクス

竹中 おっしゃる通りです。デフレ脱却の話が出たので少しアベノミクスについてお話ししたいのですが、アベノミクスは文句なしに正しい政策です。いま(対談収録は5月31日)、急速に上がりすぎた株価が少し調整されていますが、それでも半年前に比べれば50%も高い。この事実がシンボリックに表現しているように、アベノミクスは確実に効果を発揮しています。

ティム 確かに、私たちの2013年の第1四半期の数字を見ても成長が伺えます。まだ一般の人たちにまでその効果が届いているという確証はありませんが、変化が起きるであろう兆しのように思います。そして人々は変わることを期待していますよね。今はそういった変化が一過性のものではなく、賃金や企業を後押しする投資につながるように希望を持つことが重要です。

竹中 5月29日、私もかかわった安倍内閣の成長戦略が一部発表されました。成長戦略とは、アベノミクスの基本方針「三本の矢」の一本目「大胆な金融緩和」、二本目「柔軟な財政出動」に次ぐ三本目の矢ですが、実は成長戦略に“マジック・スティック(魔法の杖)”はありません。なるべく税金を増やさず、地道に行政改革と規制緩和を進めて企業に大きな自由を与えていくしかないのです。

特別対談 第1回 ティム・ブレット×竹中平蔵
「アベノミクスとコカ・コーラは日本を救うか?」


世界200カ国の成功を取り込むコカ・コーラのスケール

ティム 日本コカ・コーラでは、日本以外の国や地域のどのようなビジネスモデルや実例がうまくいっているのか、そして、それをどのようにすればうまく日本に導入できるかということを終始考えています。

竹中 今、コカ・コーラは世界何カ国に展開しているのですか?

ティム 200以上の国や地域で、1日に18億杯(1オンス=237ml換算)以上も飲まれています。その200を超えるマーケットでの成功事例は全世界で共有されており、私はその中から日本に持ち込めるものがないかを常に探しているのです。日本独自のアイデアに加えて、世界中から集めたアイデアをうまく活用していけば、成熟市場と呼ばれる日本でも、まだまだ成長の可能性があると確信しています。

竹中 面白いお話ですね。まさに日本には1億2000万人という巨大なドメスティックマーケットがあります。グローバルに事業展開をする企業にとって日本は魅力的なマーケットであることは間違いありません。いつかコカ・コーラのようなグローバル企業に、日本にヘッド・クォーターを置いていただきたいですね。実はそのために、今回の成長戦略では国家戦略特区の創設を提唱しています。これは総理大臣のイニシアティブによる特区であり、東京の一部をアジア太平洋地域におけるヘッド・クォーター特区にしようという構想です。これが実現すれば、日本のランドスケープが確実に変わりますよ。

特別対談 第1回 ティム・ブレット×竹中平蔵
「アベノミクスとコカ・コーラは日本を救うか?」


成功の秘密は巨大金庫の中に

ティム 私は幸運にもこれまでポーランド、チェコ、ハンガリー、オーストリア、そして日本と世界のさまざまな国でビジネスをしてきました。それらの国の都市の中で、東京は最も大きく、とても機能的で、本当に素晴らしいところです。しかし興味深いことに、東京はさらに良い都市になろうとしている。良いアイデアを世界から取り入れることで、ベストな都市がより一層素晴らしものになれるということですよね。これはまさに我々コカ・コーラの哲学と同じで、私たちは常により素晴らしいことを実現できると信じているのです。竹中さんは世界中でお仕事をなさっていますが、米国アトランタにあるコカ・コーラのミュージアムにはいらっしゃいましたか。

竹中 CNNに行く時に立ち寄りました。実に楽しいところです。

ティム コカ・コーラのレシピは、1886年にジョン・ペンバートンという薬剤師がアトランタで発明したのですが、実はその「秘密の製法」はミュージアムの巨大な金庫に保管されているのです。

竹中 そこに日本復活のヒントが隠されている?

ティム さあ(笑)。ぜひたくさんの日本のみなさんに訪れていただきたいと思います。本当に楽しいところですよ! 


◆プロフィール

ティム・ブレット/1968年生まれ。91年セント・アンドリュース大学歴史学修士課程修了。同年ザ ギネス グループ入社。95年ウォーカーズ入社。97年ザ コカ・コーラ カンパニー入社。2011年日本コカ・コーラ(株)副社長就任。13年より同社代表取締役社長。

たけなか・へいぞう/1951年和歌山県生まれ。73年に一橋大学卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に入行。ハーバード大学客員准教授などを経て、2001年、小泉内閣に民間人として初入閣。04年には参議院議員に初当選。郵政民営化を本丸に掲げる小泉政権の実質的ブレーンとして活躍する。06年に参議院議員を引退後、慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長に就任。