企業を強くするためには、内なる革新が必要だ。
そして革新は、優れたリーダーシップの下でのみ起こる。
今、日本に必要なのはどのようなリーダーシップなのか?
ティム・ブレット日本コカ・コーラ社長と
竹中平蔵慶應義塾大学教授が、それぞれの立場から
「日本を強くするリーダーのあり方」を語る
連続対談の第2回目。


文=山田清機
写真=間仲宇


日本企業復活の鍵はメタボリズム

竹中 今回は、日本企業はどうすれば元気を取り戻せるかということについて考えてみたいと思います。かつてティム社長がお仕事をされていた国、オーストリア出身の経済学者、ジョセフ・シュンペーターの言葉に「資本主義はその成功の故に失敗する」というものがあります。企業は成功を収めて成長するとどうしても官僚主義に陥ってしまい、イノベーションの活力をなくしていずれ事業に失敗する。残念ながら、今の日本企業の一部にその傾向が見られることは否定できません。

ティム 日本コカ・コーラは日本ですでに56年間も事業を展開していますが、それでも今なお成長を続けています。いまだに日本というマーケットの中で、革新的な仕事のやり方を発見することができるのです。今、竹中さんはイノベーションという言葉を使われましたが、私は絶えざるイノベーションのためには、常に「今、改善できることに」に目を向けることが大切だと考えています。ザ コカ・コーラ カンパニーの名物CEOだったロバート・ウッドラフはかつて「不満足を抱えている者のために世界はある」ということを言っており、これは今では私たちにとっての指針になっています。私たちは、仕事のやり方をより良くするための方法を探し続けなければいけないのです。

竹中 なるほど。私は日本企業がイノベーションを生み出す力を取り戻すためには、メタボリズム(新陳代謝)が大切だと思っています。よく「日本は企業の開業率が低い」と指摘する人がいますが、実は、ニューエントリーだけでなく廃業率も低い。つまり、収益力の弱い会社がマーケットに居座って、新しい会社の参入を阻害しているのです。だから、メタボリズムが進まないのです。

特別対談 第2回 ティム・ブレット×竹中平蔵
「企業に“革新”を起こすリーダーシップ」

「2020 Vision」は健全なプレッシャー

ティム 変化を起こすためには、常に健全なプレッシャーが必要ですね。ザ コカ・コーラ カンパニーは中長期成長戦略「2020 Vision」の中で、今後10年で事業規模を倍にするという目標を掲げており、これはまさに健全なプレッシャーでもあるのです。

竹中 いま“healthy pressure(健全なプレッシャー)とおっしゃったけれど、日本企業にはまさにそれが不足しています。収益力の弱い会社が居座るだけでなく、ちゃんと業績を上げられない社長に辞めてもらうために“healthy pressure”をかけるシステムがない。これはコーポレート・ガバナンス(企業統治)に関わる問題ですが、欧米の企業と比較してみると、日本企業はコーポレート・ガバナンスのシステムが大変にゆるいですね。だから新陳代謝が悪くなってしまう。

ティム 興味深いお話ですね。「2020 Vision」のお話をすると、私は、事業規模の倍増は実現可能だと確信しています。なぜなら、コカ・コーラやジョージアなどのように既に確立されたブランドであっても、常に新鮮な感覚で皆さんに見てもらえるような新しい機会はあるからです。竹中さんがおっしゃるように、イノベーションをつくり出して企業の新陳代謝を促すことはとても大切であり、これはブランドのみならず、ビジネスの構造にもあてはまることです。たとえば日本のコカ・コーラシステムでも新陳代謝と進化をつづけており、今年7月、関東のフランチャイズパートナー4社を統合して世界でも上位に位置する規模のボトラー社をつくるといった大改革を行います。それらを実現するためにも楽観性は欠かせないと思います。要するに「素晴らしい現状であっても、それをさらに良くすることはできる」と信じることです。

竹中 コカ・コーラを飲めば楽観的になれると(笑)。

ティム もちろんです!


特別対談 第2回 ティム・ブレット×竹中平蔵
「企業に“革新”を起こすリーダーシップ」

馬車を何十台繋いでも自動車にはならない

竹中 再びシュンペーターの言葉を引用しますが、彼は「馬車を何十台繋いでも自動車にはならない」という名言も残しています。

ティム 面白い言葉ですね。

竹中 要するに、イノベーションは非連続なものであるということでしょうね。同じ物をいくらたくさん集めても、イノベーションなんて起こらない。前とはまったく違う原理のもの、つまり非連続なものを生み出すことこそがイノベーションであるという意味です。私は、企業がそうした本物のイノベーションを起こすためには、強いパッションを持ったリーダーの存在が不可欠だと思っています。

ティム 私もまだまだ学ぶべきことは多くあり、日々、優れたリーダーになるための努力をしています。パッションについては大賛成です。そしてしつこいようですが(笑)、リーダーには楽観性が不可欠です。よりよい未来、より幸せな未来を約束してくれるリーダーでなければ、誰もついて行きませんからね。

竹中 おっしゃる通りです。私も一つつけ加えれば、「ここを変えれば全体が変わる」というポイントを見抜く能力も必要だと思います。“Real strategy lives in details”(戦略は細部に宿る)と私はよく言うのですが、パッションのあるリーダーは往々にして事業のディティールを理解していない。反対に、ディティールを理解しているリーダーはパッションに欠けることが多い。このトレード・オフをいかに統合するか。そこが、リーダーにとって肝心なことです。

ティム コミュニケーションの能力も重要ですね。ビッグ・ピクチャー(企業のビジョン)の中で従業員がそれぞれどのような役割を担っているかについて自分の部下に理解してもらうためには、頻繁に対話をすることが必要です。そして部下とのコミュニケーションをよくするためには……。

竹中 楽観的になれるコカ・コーラを飲みながら?

ティム おっしゃる通りです!

※    「コカ・コーラ」はThe Coca-Cola Companyの登録商標です。

特別対談 第2回 ティム・ブレット×竹中平蔵
「企業に“革新”を起こすリーダーシップ」

◆プロフィール

ティム・ブレット/1968年生まれ。91年セント・アンドリュース大学歴史学修士課程修了。同年ザ ギネス グループ入社。95年ウォーカーズ入社。97年ザ コカ・コーラ カンパニー入社。2011年日本コカ・コーラ(株)副社長就任。13年より同社代表取締役社長。

たけなか・へいぞう/1951年和歌山県生まれ。73年に一橋大学卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に入行。ハーバード大学客員准教授などを経て、2001年、小泉内閣に民間人として初入閣。04年には参議院議員に初当選。郵政民営化を本丸に掲げる小泉政権の実質的ブレーンとして活躍する。06年に参議院議員を引退後、慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長に就任。