創業125年を超え、全世界200の国や地域に展開する
グローバル企業コカ・コーラ
長年にわたり成長し続けている同社は、まさに「学びの宝庫」。
いったい日本は、この企業から何を学べるのだろうか? 
ティム・ブレット日本コカ・コーラ社長と
竹中平蔵慶應義塾大学教授が、それぞれの立場から
コカ・コーラビジネスの成功要因」を分析する
連続対談の最終回。


文=山田清機
写真=間仲宇


特別対談 第3回 ティム・ブレット×竹中平蔵
 「日本はコカ・コーラビジネスに何を学ぶ?」

ルイ・ヴィトンとコカ・コーラは相似形?

竹中 このコカ・コーラの瓶、いまだにガラス製ですよね。

ティム そうです。この瓶は実は日本、そして世界でも「容器」として登録商標を取っており、私たちの誇りです。

竹中 とても面白いことだと思うのですが、グローバルビジネスの代表であるコカ・コーラの中に、この瓶のように古くてリライアブルなものと斬新なイノベーションが同居しています。そのあたり、1854年にパリで誕生した鞄屋さんと、よく似ています。

ティム と言うと……。

竹中 ルイ・ヴィトンです。ルイ・ヴィトンというブランド名は創業当時から変わらないのに、現代でも最先端を走るブランドとして存続している。そこがコカ・コーラとよく似ています。ティム社長は、コカ・コーラの強さはどこにあると見ていますか?

ティム たくさんありますよね。ブランド自体に力があることはもちろんですが、最大の強みは、その素晴らしい人材たちによって常にイノベーションが起こされていることではないでしょうか。この対談にもイノベーションという言葉が何度も出てきましたが、実はイノベーションという言葉は誤解をされやすい。イノベーションは新製品の開発だけではなく、たとえば広告などのコミュニケーションの方法、製品パッケージの選択肢を増やすことなど、仕事のやり方の中にもあるのです。

竹中 たとえばどのようなことでしょう?

ティム 実は歴史的に見て、コカ・コーラが世界に先駆けて始めたことはたくさんあります。たとえば今我々の手元にあるもの。このコンツアーボトルのブランド化なども、その代表ですね。

特別対談 第3回 ティム・ブレット×竹中平蔵
 「日本はコカ・コーラビジネスに何を学ぶ?」

イノベーションの本質は、ライフスタイルの提案

竹中 私は、イノベーションの本質はライフスタイルの提案ではないかと考えています。時代が移り変わると、お客様から要請されることも変わってくる。その新しい要請に、新しいライフスタイルを提案することによって応えていく。それこそ、本物のイノベーションではないでしょうか。たとえば、東日本大震災後に要請されたもののひとつに、「節電」の問題がありました。

ティム おっしゃる通りだと思います。われわれは「節電」という時代の要請に対して、自動販売機のイノベーションによって応えました。「ピークシフト自販機」といって、電力使用の少ない夜間のうちに製品を冷やしておくことで、日中は冷却用の電力を使わず消費電力を95%削減(※1)しながら、最大で16時間もの間十分冷えた製品を提供できる画期的なものです。また、天然水「い・ろ・は・す」も革新的な製品でした。飲み終わった後、しぼって小さくできるPETボトルの開発は、省資源化を見事に実現しています。このように、私たちは、日本においても時代の要請を正確にキャッチし、その要請に現実的な解決策を提案することを常に考え続けてきました。それが、グローバルに成功を収めるための秘訣なのかもしれません。

※1 夏の日中の消費電力を従来機比で95%削減


「水」は21世紀最大のグローバル・アジェンダ

竹中 私は「い・ろ・は・す」だけではなく、缶コーヒーの「ジョージア」も大好きなのですが、実は、「い・ろ・は・す」のような飲料水、農業用水、工業用水も含めた水資源の問題は、エネルギー問題よりも重要な21世紀のグローバル・アジェンダです。すでに世界中で水の争奪戦が起きており、御社のように水をたくさん使う会社にとって水資源の問題は深刻な課題のはずです。

ティム 私は企業がサスティナブルであるためには、事業展開をしている地域とのサスティナブルな関係が不可欠だと考えています。なぜなら、進出している地域社会が成長し繁栄することなしに、われわれの成長もないからです。コカ・コーラシステムにとって、水は、そのビジネスの性質上最も重要な資源です。そして地域とのサスティナブルな関係を築くため、製品の製造に利用したのと同量の水は責任を持って自然にお返しするという目標を掲げ、フランチャイズパートナーである全国のボトラー社とともに1つのチームとして、大切な資源である水のリサイクルに取り組んでいます。

特別対談 第3回 ティム・ブレット×竹中平蔵
 「日本はコカ・コーラビジネスに何を学ぶ?」

創業125年超でも古びた存在にならない理由

竹中 地域とのサスティナブルな関係の構築と同時に、200の国や地域のライフスタイルを把握し、その中からグローバルに普遍性を持つものとローカルに意味のあるものを選別しながら、常に魅力的なライフスタイルの提案をしてきたところに、コカ・コーラの成功の秘密があると私は思っています。言い換えれば、200の国や地域からリアルな情報を得られるというネットワークの経済性(※2)を、非常にうまく活かしてこられたのではないか。

ティム それを別な表現で言えば、コカ・コーラは、人々のライフスタイルに変化をもたらすべく、自分で自分のポジションを再構築し続けているということになると思います。それはつまり、決して古びた存在にならない、ということです。

竹中 まさにルイ・ヴィトンですね。これから一層のグローバル化を果たさなければならない日本企業にとって、とても参考になることだと思います。ティム社長は、これからどんなライフスタイルを日本に提案していくつもりですか?

ティム それは企業秘密です(笑)。ただし、コカ・コーラらしく、とても楽観的でハッピーな瞬間で満ち溢れていることはお約束します。

※2 ネットワークの参加者が多いほど、参加者がネットワークから受け取るメリットも大きくなるという法則。

※「コカ・コーラ」「い・ろ・は・す」はThe Coca-Cola Companyの登録商標です。


◆プロフィール

ティム・ブレット/1968年生まれ。91年セント・アンドリュース大学歴史学修士課程修了。同年ザ ギネス グループ入社。95年ウォーカーズ入社。97年ザ コカ・コーラ カンパニー入社。2011年日本コカ・コーラ(株)副社長就任。13年より同社代表取締役社長。

たけなか・へいぞう/1951年和歌山県生まれ。73年に一橋大学卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に入行。ハーバード大学客員准教授などを経て、2001年、小泉内閣に民間人として初入閣。04年には参議院議員に初当選。郵政民営化を本丸に掲げる小泉政権の実質的ブレーンとして活躍する。06年に参議院議員を引退後、慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長に就任。