1個1,000円を超えるハンバーガー、いわゆる“グルメバーガー”のブームが始まってから10年近くが経ち、今ではグルメバーガーは食のカルチャーとして定着しました。
そのブームを牽引した店の一つと言われているのが、『THE GREAT BURGER』。
コカ・コーラ」とも相性抜群なハンバーガーを求める人が連日訪れ、
オープンから9年以上が経った現在でも、行列が途絶えることはありません。
なぜ、同店のハンバーガーは愛されるのか?
その秘密を、オーナーの車田篤くるまた・あつし)さんに聞きました。


文=小山田裕哉
写真=前康輔


■24歳でアルバイトからカフェオーナーに

「このハンバーガー、おいしい」

2007年5月。当時、原宿のカフェ『*ease』のオーナーを務めていた車田篤さんは、このお客さまの一言に自信と着想を得て、当時としてはまだ珍しかったグルメバーガーの専門店『THE GREAT BURGER』を原宿にオープンさせることを決意した。

明治神宮前駅から徒歩5分ほどのところにある『THE GREAT BURGER


もともと車田さんは、ハンバーガー専門店の経営者を目指していたわけではない。それどころか、料理に関わる仕事に就くことすら、想像していなかったという。

学生時代の夢は動物看護師。出身地の名古屋から勉強のために上京したものの、入学を予定していた専門学校が突然の倒産。夢をいったん小休止させ、急遽飲食店でアルバイトをすることになったが、日々働くうちに飲食業界の面白さに惹かれていった。

「母親が地元で喫茶店をやっていたので、小さい頃からお菓子とかパンはすべて手づくりのものを食べていました。外食は滅多にしなかったですね。そのような環境で育っただけに、心の奥底に飲食店に対する想いが眠っていたのでしょうか、飲食店でバイトをしている中で、気がついたら友達と『お店を出してみない?』と話していました。最初は30歳までには出せたらいいなと思っていたんですけど、考え始めたら止まらなくなって、24歳で『*ease』を始めることになりました。なりゆきみたいなものです(笑)」

「料理をつくって、お客さんの笑顔を見るのは楽しい」と車田さんは言う。イタリアンを得意としていたが、『*ease』の業態はカフェ。その特性を活かして、お客さまが喜びそうなメニューならばジャンルにこだわらずにどんどんチャレンジしていた。『*ease』はまるで、車田さんの小さな料理の実験室のようだった。

オーナーの車田篤さん

■独自開発したバンズでブレイク!

あるとき、ハンバーガーを出してみたところ、常連客の間でちょっとした評判になった。それが、冒頭2007年5月のお客さまの反応だったのである。日に日に、車田さんがつくるハンバーガーを目当てにして訪れるお客さまが目立つようになった。

「ちょうど『*ease』の経営も軌道に乗ってきて、2号店の出店も考え始めた頃でした。そこで、こんなに評判がいいのなら、ハンバーガーの専門店をやってみようと考えたんです。僕は昔から『E.T.』や『BACK TO THE FUTURE』シリーズといった、1980年代のハリウッド映画が大好きで、映画に出ているような店をやりたいと思っていました。だから、自分が好きなことを活かせるような店を、と考えたとき、内装はアメリカの西海岸のテイストで、そこにはハンバーガーと『コカ・コーラ』があって……と自然にイメージできましたね」

今も自身の名刺の肩書に「オーナーシェフ」と記すほど料理を愛する車田さんには、料理に向き合う際の哲学がある。

「素材そのもののおいしさを味わってもらうため、余計なものは加えず、塩コショウのみのシンプルな味付けをすることが基本。また、『THE GREAT BURGER』のハンバーガーは肉料理ではなくパン料理だと思っています。パンで素材を挟む料理であり、サンドイッチの延長線上にある料理だと捉えているんです。だからパン、つまりバンズには徹底的にこだわりました」

肉のパティありきでレシピを考え、バンズづくりはパン屋に任せてしまうハンバーガー専門店も多い。しかし、車田さんはバンズもレシピから考え、寝る間も惜しんで試行錯誤を繰り返した。その期間、なんと半年。

「意識したのはモチモチ感とフワフワ感のバランスです。食べ応えは大切だけど、パンがモチモチしすぎるとうまく飲め込めない。フワフワ感を重視し過ぎると、今度は物足りなさを感じてしまう。ちょうどいいバランスを探るのに苦労しました」

その結果、東京のハンバーガー業界に新風を吹き込むような一品が完成した。

一番人気のメニュー「ベーコンチーズバーガー」(税抜¥1,350)

■「1個1,000円」でも一日の客数は500人!

実際に食べてみると、まずバンズのボリュームに驚く。一瞬、こんなにどっしりしたハンバーガーを食べきれるだろうかと思うが、口に運んでみると、なるほど、見た目よりもずっとフワフワしている。それでいて、噛めば噛むほど肉汁とバンズの旨味が口の中で混ざり合う。「コカ・コーラ」との相性も抜群で、一気に食べ終えてしまった。

こだわりを追求した結果、定価は1,000円を超えた。それでも、「一般的な飲食店と比べると、原価率は高い」と言う。クオリティに絶対の自信はあったものの、最初は客に受け入れられるのか不安だった。

「通りがかったお客さんが店頭のメニューを見て、『ハンバーガーなのに高いね』と話しているのがよく聞こえてきました。正直、不安もかなりありました。商売が軌道に乗ったのは、運も大きいですね」

車田さんが「運」と語るのには理由がある。オープンして1週間後に『バーガーキング』の再上陸が決まり、雑誌やテレビの情報番組などで、グルメバーガーが頻繁に採り上げられるようになったのだ。グルメバーガーを紹介する書籍も次々と出版された。

気がつけば『THE GREAT BURGER』は、オープンから半年で行列の絶えない人気店となっていた。お客さまの層は、若者から年配の方まで幅広い。ファミリーで訪れる人もいれば、お一人様もいるという。また、ハンバーガーというと男性客が多いイメージだが、女性客も多い。「男女比率は半々ですね。オープン前から並んでくださる方もいます」と車田さん。その人気は今でも続き、1日の平均客数は500人にも上る。

しかし、これだけ東京にグルメバーガーを扱う店が増えた中で、『THE GREAT BURGER』がブームに埋没せずに、多くの人から愛され続けているのは、なぜなのだろう?


■ハンバーガーと同じくらいに“おいしい”アメリカンスタイルの内装

「一言で言えば、『いちいち、こだわる』からだと思います。1,000円を超えるハンバーガーを食べてもらうためには、料理がおいしいだけでは十分じゃないんです。お店に来てもらったときに、一瞬で『ここは違うな』と感じられるくらいのお店の世界観をつくり込まないといけない。うちで言うと、それがアメリカ西海岸のリアルな雰囲気です」

インテリアや小物はアメリカから買い付けてきたものも多い

徹底した非日常性へのこだわりは、小物にも表れている。たとえば、トイレ横に置かれたレトロな公衆電話。実際にアメリカから買い付けてきたものだが、なんと、これはオブジェなどではなく、電話線がつながれた本物の電話だ。受話器をとって耳につけると、「ツーツー」と聴こえるのはもちろん、実際に電話をかけることもできる。

「トイレが空くのを待っているときに、ふと受話器を取るお客さんがいないとも限らない。そういうときに、何も音がしなかったら興ざめじゃないですか。そういう細かいこだわりを積み重ねていった結果として、ブームに埋没しない、オリジナルな店になったのだと思います」

実はスタッフでも「通話できる」ことを知っている人は少ないそう

現在はハンバーガー店のほかにも、パンケーキ店(『BROOKLYN PANCAKE HOUSE』東京・原宿)やドーナツ店(『GOOD TOWN DOUGHNUTS』東京・原宿)など、アメリカンスタイルの店を展開している。プロデュース店も含めれば、車田さんが関わる店は全国に広がっている。それだけ手を広げながら、ファンを失わずにいられるのは、スタッフにも「いちいち、こだわる」精神が浸透しているからだ。

「今も年に1回はスタッフを連れてアメリカに行きます。『百聞は一見にしかず』というか、僕があれこれ口で説明するよりも、実際に見て、触れたほうが伝わると思うんです。アメリカの文化に直に触れているということがスタッフにとっても自信になるし、それが結果として、店づくりにも活かされていく。僕も年に4、5回はアメリカに足を運んで、リアルなアメリカを持ち帰るようにしています」

■『THE GREAT BURGER』がチェーン展開しない理由

これだけ人気を集めれば、『THE GREAT BURGER』の2号店、3号店の誘いもあったはずだ。しかし、現在も同店はチェーン展開をしていない。

「お客さんからも、『うちの街にも来てくださいよ』とよく言われます。でも、店を増やすと僕らが大切にしている世界観が薄くなってしまうと思うんです。そもそも、全国の人、あらゆる層の人に気に入られる店は目指していない。自分たちが好きなことを追求していった結果として、人口の10%の人に刺さればいい。東京に1,200万人いるとするなら、120万人。この街なら、それで十分ビジネスとしてやっていけます」

最近はクラフトビールやサードウェーブコーヒーなど、アメリカのクラフト文化が日本でもブームになっている。が、『THE GREAT BURGER』には、その流行に乗っかろう、採り入れてやろうという気はない。

「そこはあまり考えていません。ブームを追いかけても自分たちが一番手の企業に勝てるわけじゃないし、時代の先を行きすぎてもお客さんが付いてこられない。僕らが基準にしているのは、『こういうことをやったら、うちの店のお客さんが喜ぶかどうか』だけ。時代の一歩先ではなく、半歩先を見つめて、これからもお客さんがハッピーになるものを提供していきます」

今年8月には代々木上原にダイナー『GOOD TOWN BAKEHOUSE』をオープン。そして間もなく、『GOOD TOWN DOUGHNUTS』のロサンゼルス店もオープンする予定だ。

あこがれ続けたアメリカ西海岸に、車田さん流の“アメリカンスタイル”がどう受け止められるのか。楽しみでならない。

 

<プロフィール>
くるまた・あつし / 2002年、東京・原宿にカフェ『*ease』、07年にはハンバーガー専門店『THE GREAT BURGER』をオープン。以降、パンケーキブームを先取りした『BROOKLYN PANCAKE HOUSE』、ブルックリンスタイルのドーナツ専門店『GOOD TOWN DOUGHNUTS』などの飲食店のほか、レーディースアパレルブランド『Frederick』、メンズアパレルブランド『GOOD TOWN』、USA雑貨を扱う『THE GIFT』など、さまざまな業態の店舗を運営・プロデュースしている。


<店舗情報>
THE GREAT BURGER
東京都渋谷区神宮前6-12-5 1F
TEL. 03-3406-1215
営業時間:平日11:30〜23:00(L.O. 22:30)/土日祝日9:00~23:00(L.O. 22:30)
定休日:無休
http://www.the-great-burger.com/