コカ・コーラ・チーフ・オリンピック担当・オフィサー」の北島康介さんが、東京 2020 オリンピック大会への出場が期待されている若手選手を訪ねる連載企画第2弾! 今回も前回に引き続き、スケートボード界の注目姉妹西村詞音(ことね)選手と碧莉(あおり)選手が登場します。

文=細江克弥
写真=松本昇大

 

■いつだって、家族が背中を押してくれた

──まずは、北島さん、彼女たちの滑りを間近に見て、実際にスケートボードに乗ってみていかがでした?

北島 スケートボードは僕が子どもの頃にすごく流行ったんですけど、僕はそういうことをやらせてもらえない環境にいたし、他のスポーツを真剣にやる機会はほとんどなかったんです。だから、引退した今、いろいろなものにトライできることはすごく嬉しいんだけど……まあ、今日は「こんなにできないんだ」という感じでしたね(笑)。

「水泳では身体をシンメトリーに使うことが多いから
スケートボードの、上半身と下半身をバラバラに動かしたり、
ひねりをきかせたりする動きは難しい」と漏らしていた北島さん

 

碧莉 でも、北島さんはやっぱりアスリートなのでボードに乗っても安定していましたし、ちょっと難しい技でもすぐにできそうな気がしました。

北島 いやあ、全然。もし、もっと小さい頃からスケートボードに乗っていたら少しは違ったかもしれないけど。

詞音 私なんて、始めたばかりの頃はホントに何もできなかったんです。いつも妹(碧莉)が先にできるようになっちゃうので、くやしくてずっと泣いてました。

北島 でも、こうやって姉妹で一緒に楽しめることってなかなかないよね。相手の表情を見て気持ちを想像しながら、転んで痛い思いをしているのを見て笑ってるわけでしょ?(笑) それって、すごくいいなと思う。そもそも、どうしてスケートボードを始めたの?

碧莉 お父さんが学生時代から友だちとやっていたみたいで、私たちが小さい頃から家にスケボーがあったんです。お父さんが「やってみれば」と言うので、それがきっかけで。だから、姉弟みんなで一緒に始めました。ハマるまでは少し時間がかかったんですけど、スケートパークに来て、スクールに通うようになってから、その楽しさを知りました。

詞音 スケートパークに行かないときも、犬の散歩にスケボーを持っていって「プッシュ」(ボードに乗りながら片足で地面を蹴って前に進む基本の技)の練習をしていました。私はあまり運動神経が良くなかったんですけど、スケボーを始めてから良くなったんです。

北島 僕の場合、両親は水泳に興味がなかったんだよね。初めて水泳に触れることになった短期教室に連れて行ってくれたのは、実は友だちのお父さん。母親は「いつ辞めていいんだよ」というスタンスだったんだけど、僕は逆にそれをプレッシャーに感じていたところもあって……。ただ、どんな大会でも必ず観に来てくれたし、今になって振り返れば「背中を押してくれたのは家族だった」と思える。二人はお父さんにも教えてもらっていたんでしょ?

碧莉 厳しかったです。新しい技にチャレンジするときは手助けしてもらうんですけど、転んで泣いても「もう1回!」みたいな。

詞音 「痛くても泣くな」とよく言われましたし、褒められることはホントにたまにしかなかったので。でも、小さい頃は手を広げて待っているパパに飛び込むような練習もしていたんですけど、パパはそれで股関節のあたりに水が溜まっちゃったんです。

北島 お父さんも身体を張ってくれたんだ(笑)。

碧莉 はい。だから、ここまで続けられているのはパパとママのおかげだなって思います。

 

■「笑いながら滑ればいいんだよ」

──お二人は、スケートボードのどんなところに面白さを感じていますか?

詞音 一番は、やっぱり新しい技ができたときの達成感や嬉しさです。あとは、仲間と一緒に滑ることの楽しさ。大会に出場すればライバルになるかもしれないけど、普段は仲間として一緒に練習していて……そういうのって、競技をしている人にしか分からないところかもしれないんですけど。

北島 スケートボードの場合、「新しい技」は無限にあるの?

詞音 あ、そうです。無限です。

北島 じゃあ、新しい技に自分の名前がつくことも?

碧莉 相当難しい技じゃないとダメなのかもしれないけど、あると思います。今ある技の中にも、人の名前がついているものがあるので。

詞音 ヤバくない? 「NISHIMURA」とか。

碧莉 ちょっとダサい(笑)。

北島 ハハ(笑)。

休憩中も仲良く話していた詞音さん(写真右)と碧莉さん

 

──スケートボードは東京 2020 オリンピック大会の正式種目に採用されました。“遊び”と“競技”は、感覚として全く違うものですか?

詞音 やっぱり変わる……のかな。

碧莉 うん、変わると思う。私たちは“遊び”として始めたので、“競技”になると意識は変わる気がします。正直、今までは“遊びの延長”という感覚だったんですけど、大きな大会に出るようになって、「もっとちゃんとしなきゃいけない」と思うようになりました。スケートボードは日本ではまだいい目で見られていないところもあるから、マナーに気をつけて、一生懸命頑張って、いろいろな人に応援してもらえるようになりたいなって。

北島 僕の場合、「大舞台だから」という“意識”はほとんどなかったんだよね。オリンピックのことしか考えていなかったから、それが近づけば勝手に気持ちがつくられていく。初めて出たシドニーオリンピックのときは、手が震えてうまくキャップをかぶれないこともあったよ。でも、本気で「世界一になりたい」と思うようになってからは、脳が勝手にオリンピックに反応する。無理して気持ちをつくらなくても身体のスイッチが勝手に入るというか。

碧莉 すごい……。そうなりたいです。

詞音 私も(笑)。私は緊張で頭が真っ白になっちゃって、いつも顔面蒼白です。最近はケガで大会に出てなかったんですけど、また出るようになったら……やっぱり顔面蒼白だと思います。

碧莉 笑いながら滑ればいいんだよ。私だって最初は心臓がバクバクするし、足が震えることもあるし、でも、気持ちがノッたらどんどん楽しくなる。そしたら勝手に笑っちゃう。

詞音 碧莉は精神的に強くて、ちゃんと結果を残すんです。私は「記録より記憶」というタイプで、大きな技をやって会場を盛り上げたいと思うから……だから、緊張しちゃうのかも。

北島 基本的には、練習で培った自信をぶつけるしかないんだよね。だからすごく地味な作業だけど、毎日を一生懸命やるしかないと思うんだ。

室内パークを縦横無尽に滑り、次々と技を披露してくれた碧莉さん。
当日は朝から5時間以上も取材・撮影が続いたが、
疲れた表情を全く見せなかった

 

■スケートボードの発信源になる存在に

──確固たる自信を得るためには日頃の地道な作業を繰り返すことが必要だと思うのですが、「今日は調子が悪いな」とか「気分が乗らないな」と感じることもあると思うんです。

碧莉 私、結構あります。

北島 あるんだ! 俺、それはないのかなと思ってた。ずっと「楽しい」という感覚でやってきたのかなと想像していたから、練習するのもイヤじゃないのかなって。

碧莉 自分はちゃんとやっているつもりなのに、親に口出しされたらテンションが落ちるし、やりたくなくなることもあって。ウチのパパはとにかくダメ出しが多いので、どうしてもテンションが下がっちゃうんです。

詞音 たぶん、パパは「天狗にならないように」という意識でダメ出しをすると思うんですけど……にしてもね?

碧莉 うん。たまに褒めてもらえると、嬉しくてテンションも上がるんですけど。

北島 でも、やっぱりお父さんのアドバイスは大事なんだよね。

碧莉 大事です。客観的なアドバイスをくれるので、それはすごく大きいと思います。

詞音さんは昨年怪我をして、現在もリハビリを続けている。
詞音さんのチャレンジに対し、
碧莉さんがエールを送っている様子が印象的だった

 

北島 僕の場合はホントに毎日、「水に入りたくない」と思っていたからなあ(笑)。ただ、社会人になったり、いい成績を残すようになってからは、自分に課した課題をこなさないと次の目標をクリアできないと分かってくるんだよね。気持ちが乗らないときでも、自分が大舞台で勝つイメージや大声援を受けているイメージをふと思い浮かべると「やらなきゃいけない」という気持ちになれた。しんどい時期はたくさんあったけど、それを乗り越えてきたからこそ強くなれたと思う。だから、ケンカすることもあると思うけど、姉妹で支え合って成長してほしい。

碧莉 しょっちゅうケンカします(笑)。

詞音 だいぶ減ったよ。碧莉が大人になってきたから、最近は仲いいじゃん。

碧莉 ううん、碧莉だけじゃなくて、お互いに成長したから。

北島 ハハ(笑)。でも、やっぱり二人はスケートボードの良さを伝えていく宿命にあると思うんだよね。大きな舞台に立てば、そこで自分を表現できる喜びも感じると思う。それが人に伝わっていくと、応援の声もどんどん大きくなるはずだから。

──3年後の東京 2020 オリンピック大会、ワクワクします?

碧莉 ワクワクはするんですけど……プレッシャーもすごそうだなって(笑)。いろいろな人に注目されて、期待されて、それでもし結果を残せなかったら……。

詞音 怖いよね。

北島 分かるよ。でも、オリンピックが持つ自分に対しての影響力、周りに対しての影響力がどれだけのものかということをぜひ感じてほしい。スケートボードが新たに正式種目になったことで、間違いなく、二人は日本の顔になると思う。だから、自分のパフォーマンスを最大限に発揮して競技の面白さをどんどん伝えていってほしいし、スモールな輪じゃなく、日本中を巻き込んで盛り上げる選手になってほしいなと思います。

日本はガールズスケーターがまだ少ないが、
二人の活躍を見て、これから競技人口が増えていくかもしれない

 

<プロフィール>
きたじま・こうすけ / 1982年東京都生まれ。5歳から水泳を始める。2000年シドニーオリンピック大会に出場、100m平泳ぎで4位入賞。04年アテネオリンピック大会及び08年北京オリンピック大会100m・200m平泳ぎにおいて日本人唯一の二大会連続二種目で金メダルを獲得した。16年4月、惜しまれながらも現役引退。現在は、「コカ・コーラ・チーフ・オリンピック担当・オフィサー」としても活動。14年6月より東京都水泳協会の理事を務め、15年1月より自身の冠大会「北島康介杯」を開催。

にしむら・ことね / 1998年東京都生まれ。西村家4姉弟の二女。学生時代スケーターだった父親の影響で、家にデッキもあり、スケートボードは身近な存在だった。そのような環境のなかで、友人がスケートスクールに通っていると聞き、3姉妹で参加。詞音10歳、碧莉8歳のときだった。それ以来、スケートボードに熱中している。全日本スケートボード選手権<レディース部門>では2013年優勝、14年3位、15年2位という戦績を残している。

にしむら・あおり / 2001年東京都生まれ。西村家の4姉弟の三女。姉二人に付いていくようなかたちで、3姉妹でスケートスクールに参加。それ以来、スケートボードの楽しさに夢中になり、現在は海外の大会に出場するまでに活躍の場を広げている。全日本スケートボード選手権<レディース部門>では、12年優勝、13年2位、14年優勝、15年優勝。その他の主な戦績に、16年米国ワシントン州シアトルSkate Like a Girl's 7th Annual Wheels of Fortune 2位、米国テキサス州オースティンX Games Austin 2016 - Women's Skateboard Street 8位、米国カリフォルニア州ロサンゼルス2016 SLS Nike SB Women's Super Crown World Championship 5位。17年には「X Games Minneapolis Women's Skateboard Street」で優勝。