自販機がプラットフォーム化すると何が起きるか?

川田 僕はAR(拡張現実)の技術開発が専門なので、自販機の表面をすべてサイネージにすれば、そこにいろんな機能が持たせられると想像するんです。

たとえば、スマホのGPSと連動して、マラソンをする際に特定の自販機が給水所の役割を持つ。真夏にはそのサイネージにグラビアアイドルみたいなキャラクターが表示されて、「あと何キロです。頑張ってね!」と応援してくれるとか(笑)。ほかの何でもいいんですけど、重要なのは、自販機に人と人をつなぐ役割を持たせるということです。

──先ほど谷尻さんが指摘したように、まず人が自販機と接したくなる機能を持たせれば、“結果として”飲料を買いたくなるということですね。

川田 そうですそうです。あとは技術革新が進めばスマホの充電が本当に短時間で済むようになるはずなので、電車を待っている間に自販機で充電できるようになったりしても便利です。充電が足りなくなったらスマホから特定のサインが飛ぶようにして、それをキャッチした自販機の前を通りかかると、「そろそろ充電してかない?」と教えてくれるとか(笑)。

川田十夢と谷尻誠の
「自動販売機の未来はこういうことなんだよ会議」
谷尻誠さん

谷尻 サイネージ化した自販機が道順を示してくれてもいいですよね。迷っている人に「渋谷はあっちですよ」と地図付きで指示してくれる。

──2020年に東京オリンピックがあることを考えると、外国人観光客向けにその需要はすごくありそうですね。

川田 要するに、飲料を提供するのと同時にサービスも提供するべきなんじゃないかと思うんです。冬場であれば、「今日は乾燥しています」というメッセージと一緒に、おすすめ商品を教えてくれる。そんな些細なことでも人は惹きつけられる。


iPhoneから学ぼうじゃないか!

──ただ、「モノを売るだけじゃなくてサービスも提供する」と考えると、「じゃあ、人から買ったほうが早いじゃないか」という議論もあり得ますよね。それこそ、親切なコンビニで買えば丁寧なサービスを受けられる可能性があるわけで。だから、“自販機ならでは”のサービスのあり方というのが、自販機のイノベーションを考える鍵になるのではないかと。

川田 僕がやっている仕事って、ひと言でいうと、「技術に表情を与える仕事」なんですね。技術って、それ自体では個性がない透明なモノなんです。そこに特有の“表情”を付けてあげることで、「おお、すごい!」と感じてもらえる。日本はこの分野が苦手で、すごい技術はたくさんあるのに、表情を付けられないからイマイチ広がっていかない。

一方で、欧米の人たちっていうのは、表情を与えるのがすごくうまいんです。iPhoneとかもそうですよね。どんな技術が使われているのか知っていて使っている人は少ないけど、あの個性によって、「iPhoneってすごい」と多くの人が感じているわけです。だから技術の個性をどうデザインしていくのかが、自販機が提供するサービスのあり方のヒントになるんじゃないかと思います。

谷尻 僕はよく、「人間は不便さを探す生き物」だと言っているんです。それこそiPhoneに顕著ですけど、新しいiPhoneに買い換えて数日経っただけで、もう不便なところに文句を言っている人がいる。でも古いモノをずっと使っている人は、「ここがダメなんだよな」と言いながら、「だから俺しか使えないんだよ」とも言う。その愛着の持ち具合を考えると、便利なものには愛着がわかないというロジックがある気がしているんです。

川田 それはすごくわかります。愛着を持てるかどうかは便利さを超えた何かがあるかどうかが重要ですよね。それを人は個性とか表情とか言ったりしている。「自販機AR」のときも、便利さとは違う次元で自販機を捉えてもらえるようにと考えたんです。

谷尻 クラシックカーに乗っている人って、しょっちゅう壊れるたびに、「だから俺しか乗りこなせない」と言うんですよ。モノに便利さを追求されちゃうと、長く使うというより、次が求められちゃいますからね。

──そう考えると、初期のコカ・コーラ社の自販機って、ビンの自販機だったんですよ。これを今設置したら、ものすごい反響がありますよね。

谷尻 粋な感じがしますよね。だから、古いものを見直すということも、自販機のイノベーションの方向としてはあると思います。