自販機が「記憶に残る体験」を与えるために必要なこと

川田 あと僕が思うのは、「IoT」(Internet of Things=モノのインターネット化)にどう自販機が対応していくのか。僕はよく例えに出すんですけど、「IoT」の普及の鍵を握っているのはおじいちゃんおばあちゃんなのではないかと。

──というと?

川田 入れ歯にBluetoothやWi-Fiを付けるんです。そうすると、ウェアラブル端末になるじゃないですか。それでエネルギーは人間の体温を変換して動かすと。それが実現すれば、あるおじいちゃんの周辺では「すげえ電波が通じる!」みたいなことが起こる(笑)。若者に大人気になったりしてね。

まあこれは冗談だとしても、つまり、これまでつながっていなかったモノ同士をつなげるのが「IoT」なんです。これを自販機に置き換えて考えると、生体情報を読み取れるようにして、糖尿病の人が何かを買おうとしたときには、その人が飲んでいい商品だけが表示されるってことがあってもいい。

川田十夢と谷尻誠の
「自動販売機の未来はこういうことなんだよ会議」

──レコメンド機能をもっと進化させる方向ですね。

川田 自販機がサイネージ化するということは、それ自体がメディアになるということでもある。だから、缶コーヒーに豆の原産地が書いてあるように、商品を買ったら、インフォグラフィックでそうした情報が数秒間表示されるとか。

あと僕の願望としては、コカ・コーラを買ったら、コークが出てくる映画のワンシーンが流れるとか、小説の一節が表示されるとか、そういった仕組みがあれば、商品と自分との間に連続性が生まれて、愛着を感じるようになる。商品が落ちてくるまでのわずかな時間でもいいんです。そういう工夫があれば、たった100円ちょっとの商品であっても、買ったときの記憶がすごく残りますからね。


これが究極の「夢の自販機」だ

谷尻 そのお話にはすごく共感するところがあって、というのも、僕は少し前にバス停をつくったんですよ。

川田 え? バス停ってつくれるんですか!?

谷尻 依頼があったんです(笑)。そのときも、「今のバス停にはバスを待つ機能しかないな」と思ったんです。だから映画『となりのトトロ』の雨宿りをしながら猫バスを待つシーンを参考にして、傘のかたちをした屋根がいっぱいあって、まるでそれを持ちながらバスを待っているように見える停留所をつくりました。

そうすると、バスを待つだけじゃなくて、そこにいる人が記念撮影をしてくれるんです。そして、その写真をFacebookとかにアップする。つまり、バス停が広告機能を持つことになるわけです。こうしたことは、自販機に通じると思います。

──なるほど。そもそも自販機は、メーカーの広告媒体としての機能もありますからね。

谷尻 ええ。とにかく、自販機は全国に約380万台も設置されているのに、モノを売るだけの機能しかないのがもったいないんですよ。僕らが使っているスマホだって、電話であり、インターネットブラウザであり、カメラであり、お財布にもなっているわけです。それなのに「携帯電話」と呼んでいるのはすごく不思議じゃないですか。でもみんなが受け入れている。だから繰り返しになりますけど、自販機をモノを売るだけの存在から開放してみることが、イノベーションの鍵になっていることは間違いないと思います。

──最後に、本当に夢のようなレベルでいいんですが、こんな自販機があったらいいのになと思うモノってありますか?

川田 LINEで友だちにスタンプがプレゼントできるじゃないですか。それの飲料バージョンが実現できたらめちゃくちゃ嬉しいですよね。自販機にあらかじめプレゼントを仕込んで置いて、その人が買おうとすると、サイネージで「あちらのお客様からです」って表示される。100円ちょっとのプレゼントなのに、嬉しさは何倍にもなります。

こうした自販機をあちこちに設置するのは難しいかもしれないけど、モーターショーで各メーカーがコンセプトカーを発表するみたいに、定期的に“コンセプト自販機”をつくってみてほしいですね。今ある技術を組み合わせれば、近いものはできるはずですから。

谷尻 わざわざそこまで買いに行く人もいるでしょうね。

川田 観光スポットになったりしてね。あと、これは完全に夢ですけど、蛇口からジュースが出てくるのが子供の頃の夢だったので、それはいつか実現してください。自販機に蛇口が付いていて、そこからコークが流れてくると。料金は、そうだな。水道料金と同じ月額制で!


川田十夢と谷尻誠の
「自動販売機の未来はこういうことなんだよ会議」

写真右:川田十夢かわだ・とむ)/1976年熊本県生まれ。99年にメーカー系列会社に就職後、独立。技術開発ユニット「AR三兄弟」の長男としての顔を持つほか、作家としても活動。2013年にはTBS系『情熱大陸』に出演。14年には作・演出・開発を手掛けた舞台『パターン』が上演され、ラジオ番組『THE HANGOUT』(J-WAVE)にレギュラー出演するなど、活躍の幅を広げている。

写真左:谷尻誠たにじり・まこと)/1974年広島県生まれ。94年に穴吹デザイン専門学校卒業後、本兼建築設計事務所、HAL建築工房を経て、2000年にSUPPOSE DESIGN OFFICE設立。共同代表として吉田愛と共に様々なプロジェクトを手がける傍ら、武蔵野美術大学、昭和女子大学などで非常講師も勤める。住まいのデザインアワード2015 優秀賞など受賞多数。