日本では近年、1億総活躍社会を実現するための改革=「働き方改革」の必要性が認識され、官民で各種の取り組みがなされています。しかし、同改革の目的である「長時間労働の是正」「非正規社員と正規社員の格差の是正」「労働人口不足の解消(高齢者の就労促進)」を実現するために職場のルールや仕事のプロセスを変えてみたものの、働き方の本質部分は何ら変わることなく、同改革に対する違和感を覚えている方も少なくないようです。
本記事では、米国を中心とするミレニアル世代(*)への調査から見えてきた、新しいワーク・ライフ・バランスの意味を提示しています。もともとグローバル版の『Coca-Cola Journey』に掲載された記事であり、日本とは状況が大きく異なる面はあるものの、「働き方改革」を考える上での参考事例としてご紹介いたします。

*ミレニアル世代:米国で、2000年代に成人あるいは社会人になる世代を指す。1980年代から2000年代初頭までに生まれた人をいうことが多い。

文=テレサ・ミーク

 

■ミレニアル世代は“公私混同”が当たり前?

ジェニファー・ヴォン・ポールマン(29歳)は、差し押さえ物件などの不動産情報を提供するリアルティトラック社で渉外担当マネジャーを務めています。彼女の労働時間は週55時間ほどですが、その間、常にオフィスに滞在しているわけではありません。自宅で業務メールをチェックすることは頻繁ですし、職場で私用メールやフェイスブックでのやり取りをすることも日課の一部となっています。一方で、業務上必要と判断すれば、午前4時に出社することも厭いません。

会社が提供するジムで日常的に運動を楽しむ彼女ですが、「『結婚式を控えてエンゲージメントフォトの撮影があるから、昼間に仕事を抜ける必要があるんです』と言えば、上司は理解してくれますよ」とも証言します。

ヴォン・ポールマンの働き方は、ミレニアル世代が考える「ワーク・ライフ・バランス」が実現された一つの典型例です。ミレニアル世代は、上の世代に比べて時間の使い方が柔軟で、仕事とプライベートの時間を明確に区切ることを好みません。そして、1日の生活を通してテクノロジーの果たす役割が非常に大きいことも、この世代の特徴です。

雇用に関する世界的な調査とコンサルティングを行うユニバーサム社によると、ミレニアル世代がキャリア設計において最も重視するのは、ワーク・ライフ・バランスだそうです。この結果を見て、雇用者側が、「ミレニアル世代は甘やかされて育った怠け者だ」と考えてしまうことも珍しくありません。

しかし、ユニバーサム社の米州部門を統括するメリッサ・ムーレー・ベイリーは、「そのような見方は間違っている」と言います。「上の世代は、『ワーク・ライフ・バランス=仕事量を減らすこと』だと考えてきました。だから、ミレニアル世代の価値観をネガティブに捉えてしまうのです。しかし、労働時間を単純に少なくすることは、ミレニアル世代の関心事項の上位50%にも入っていません。彼らが求めているのは、時間をより柔軟に使えるようにすることなのです」。

従来の「ワーク・ライフ・バランス」とは、主に仕事とプライベートの時間をきっちり区別することを意味しており、たとえば自宅勤務や私用での休暇を取る際には、事前に上司と交渉することが必要とされていました。しかし、ミレニアル世代にとって、そのような区別はあまり意味を持たないようです。彼らはむしろ公私混同ともとれるような時間の使い方をし、それを上司も受け入れることを期待しているのです。

オンライン採用支援サイトを運営するスカウト・エクスチェンジ社ショーン・ビセグリア社長は、「優先順位の違いを理解する必要がある」と言います。同社の従業員55人のうち、7割が30歳未満ということもあり、この点はビセグリアにとっても重要な関心事項です。

スカウト・エクスチェンジ社は最近、企業の人事担当者2万人を対象に、ミレニアル世代の働き方に関する調査を行いました。その結果見えてきたのは、ミレニアル世代は決して怠けてはいないが、ヨガや自転車といった趣味のためにオフィスを離れることが他の世代よりも多いという点です。「上の世代の人たちは、このような趣味には仕事の後か週末の時間を充てており、仕事中にヨガに行くなんてもってのほかでした。一方で、ミレニアル世代は、上司の許可を取らずにこうした活動のためにオフィスを離れることがざらにあります。『私用があるので』とだけ告げて、オフィスを立ち去ってしまうという感じです」(ビセグリア)。

 

■「労働時間」から「生産性重視」へ

優秀なミレニアル世代を職場にとどめたいがために、プライベートな活動の承認プロセスを設定するのは逆効果だと、ビセグリアは言います。「彼らは官僚的な制度のもとで管理され続けることを好みません。人材獲得というゲームで勝つ気のある企業は、すでに、彼らの考える『ワーク・ライフ・バランス』を尊重する文化を持っていますね」。

多趣味なミレニアル世代の多くは、仕事を終わらせるためにオフィスや自宅で残業することも珍しくありません。「大事なのは数字で示せる結果を出し、やるべき仕事を完遂させること。それが達成されている限りにおいては、彼らの自由裁量に任されるべきです」(ビセグリア)。

近年では、ワーク・ライフ・バランスを考える上で重要なのは、労働時間よりも労働生産性だという風に変化してきています。ミレニアル世代は、仕事中にもゲームやSNSをするという、マルチタスクの傾向があります。「業務時間中にエクセルとSNSを両方開いていて、それを隠そうともしないですね」(ビセグリア)。このような時間の使い方をしていれば、彼らの労働時間を明確にカウントすることはほとんど不可能。その認識のもとで、仕事とプライベートが混じり合った働き方を受け入れる雇用者も増えてきています。

これは、かつてはSNSが存在していなかったことを差し置いても、非常に大きな変化です。「たとえば今から15年前に、業務時間中にこっそりテレビを見ているのが上司に見つかったなら、問題になったでしょう。ところが現在では、従業員が私用でスマートフォンを使っているところに上司が通りかかっても、特に咎められることもありません」(ビセグリア)。

 

■職場での交流もワーク・ライフ・バランスの一部

ミレニアル世代のもう一つの傾向として、職場の同僚とも友人のように過ごしたがるという点が挙げられます。たとえば、仕事が終わったら一目散に家に帰るのではなく、職場の仲間と一緒に食事をするなどしてアフター5を楽しみます。これも、彼らの立派な生活の一部になるのです。ユニバ―サム社の調査で「ワーク・ライフ・バランスを重視する」と回答したミレニアル世代に対し、雇用者に求めることを聞くと、最も多く挙げられたのは「友好的な職場環境の提供」でした。

「ミレニアル世代の社会人は、上の世代と違って、仕事とプライベートの間に明確な線引きをしてはいません。彼らにとっては職場もまた、楽しみがあり、友人がいるから行きたいと思える場所なのです。そのような意味でも、公私の区別は本当にあいまいになっています」とユニバ―サム社ベイリーは説明します。

スカウト・エクスチェンジ社ビセグリアも、ミレニアル世代の行動パターンやその考え方に深く共感していました。彼自身、職場でハッピーアワーや野球観戦などのイベントを企画し、従業員の満足度向上を図っているのです。

冒頭に登場したミレニアル世代のヴォン・ポールマンにとっても、職場に友人がいることはバランスの取れた人生には欠かせない重要なピースです。「友人がいれば、やる気が湧きますから」と彼女は言います。

ミレニアル世代のワーク・ライフ・バランスを理解することは、もはや雇用者の必須課題です。その上で、若者のライフスタイルをコントロールしようとするのではなく、彼らとの関わり方を変えていくことが求められています。「優秀な人材を獲得したければ、企業側も状況の変化に適応していかなければならない。シンプルな話ですよ」とビセグリアは最後にまとめてくれました。