健康的で活動的な生活を推進し、持続可能な社会づくりに貢献する。そのような考えのもと、誰もがスポーツを身近に感じ、親しむことのできるようなさまざまな取り組みを行っているザ コカ・コーラ カンパニーにとって(もちろん渡邉にとっても)、若者の運動不足を解消することは取り組むべきテーマだった。ザ コカ・コーラ カンパニーの担当者から、日本でのOlympic Moves 実施の打診を受けて、渡邉は早速チームで調査を進めた。

すると、すでに実施している国々と違い、日本は中学生世代のスポーツ環境が二極化している状況にあることが分かった。日本では、スポーツをしたい生徒は部活動や地域のクラブで日々運動をしているが、彼らに比べてスポーツが苦手な生徒は極端に運動習慣が少なく、体力的にも差が大きかったのだ。

イモムシのようなウェアをつけて、這ったり転がったりして行う“イモムシラグビー”

イモムシのようなウェアをつけて、這ったり転がったりして行う“イモムシラグビー”。どこへ進むか予測しにくいボールを追うのは、想像以上の運動量で、かなり汗をかく


ザ コカ・コーラ カンパニーからは、当初、他国同様にオリンピックと同じ種目、学校対抗形式での実施が求められた。しかし「日本では、それではうまくいかない。意味がない」と、渡邉は言い切った。スポーツに苦手意識を持つ生徒たちが置き去りになるからだ。彼らにも、カラダを動かす楽しみやスポーツの喜びを知ってもらうことが、日本におけるOlympic Moves の意義と役割では―。そう考えた。

必要なのは、身体能力の良し悪しや運動経験の有無によらない、誰もが互角に戦える競技。さまざまな角度から調査検証をする中で知ったのが、日本で生まれた「ゆるスポーツ」という新しい概念だった。それらの種目から、まず5 種の競技を選んだ。

「ゆるスポーツ」の競技は、とても特徴的だ。たとえば“ベイビー バスケットボール” のボールは、衝撃が加わると「オギャー、オギャー」と赤ちゃんのように泣き出すので、通常の競技と違ってスピードやパワーは逆効果である。膝を使ってそっとパスを回しながら、ゴールであるゆりかごを目指すのだ。

衝撃を受けるとボールが泣き出す“ベイビー バスケットボール”

衝撃を受けるとボールが泣き出す“ベイビー バスケットボール”は、通常の競技のようにパワーやスピード勝負では勝てない


2015年11月、福島県相馬郡の新地町立尚英中学校で、次いで12月には、東京都東久留米市の市立南中学校でイベントが開催された。目新しい装具を付けると、足の速さも関係なくなる。ぶつかっても痛くなく、転がり合うことで逆に笑ってしまう。そんな、人に優しい5 種の競技に引き込まれ、汗ばみながら楽しむ生徒の姿は、渡邉の心を打った。

「参加したみんなが、とにかく笑顔なんです。初めて接する競技や装具に最初はとまどい気味だった生徒も、どんどんカラダを動かして笑顔になる。それを見ている先生たちも笑顔。会場の中に笑顔しかない。そんな場にいられて幸せだな、と感動しました」

イベントの中では、教師と若手アスリート、教師と生徒といったエキシビジョンマッチも行われた。声を枯らして応援する生徒、教師に全力でぶつかりにいく生徒……。そこには、熱気と笑顔があふれていた。

「せっかくカラダを動かす楽しさ、気持ち良さを知ってもらったのに、イベントその日限りのことでは意味がない。だから道具はすべて、そのまま学校に寄付しています。体育の授業で使ってもらったり、先生にリベンジするための練習に使ってもらったり。実際に継続的に楽しまれていると聞き、とてもうれしいです」

磁石でつながった軽くて長いバーベルを、みんなで上げ下げする“スピードリフティング”

磁石でつながった軽くて長いバーベルを、みんなで上げ下げする“スピードリフティング”。かけ声とともに、いかに息を合わせられるか、チームワークが欠かせない


このプログラムを活用し、広く深いムーブメントを築いていくことが使命だと、渡邉は語る。これからは都内を中心に、より積極的に実施していくという。

「スポーツを通して、誰もが健康で心豊かな毎日を過ごすための支援を幅広くしていきたい。学校や行政、社会を巻き込んでムーブメントをつくることで、無形の財産であるレガシーを築いていかなければ」

中長期的な目標は2020 年、東京。その旗ふり役でありドライバーとしての責任をしっかり果たせるよう、そして東京オリンピックが、それ以後も日本とコカ・コーラシステムの財産となり、レガシーとして残るよう、1日1日を大切にしていきたいと渡邉は語る。きっと2020 年には、夢中でスポーツに興じるあの頃の渡邉少年のような姿が、全国の中学校で見られることだろう。

大きな風船を装着してプレーする“バブルサッカー”

大きな風船を装着してプレーする“バブルサッカー”は、サッカーと異なり、ぶつかって転んでもOK。プレーするうちに互いに転がるのがおもしろくなる、笑い声が絶えない競技

「Olympic Moves」とは?

ザ コカ・コーラ カンパニーが持続可能な社会づくりを目指し、健康的なライフスタイルの普及を推進する一環として、IOC(国際オリンピック委員会)とともに若者の運動不足の解消に取り組むグローバルプログラム。世界中で導入されており、日本でも2015年からスタートしている。

わたなべ・かずふみ



<プロフィール>
わたなべ・かずふみ/幼少期より日米を行き来して育つ。広告代理店、FIFAを経て、2011年に日本コカ・コーラへ。現在、マーケティングアセッツ部長を務める。