高台に立つ、岩手県の陸前高田市立矢作(やはぎ)小学校。佐々木真校長は、限られたスペースの中でも元気に遊ぶ子どもたちの姿に「どんな環境でも、子どもは楽しみを見つけるものなんですよね」と頬をゆるめた。東日本大震災の直後に入学した生徒は2016年には6年生になった。いまだ復興は道半ば。だが一歩ずつではあっても、復興は着実に前へと歩を進めている。


「こんにちはーっ!」

休み時間になると、校舎から飛び出す小さな背中。玄関ですれ違う、見ず知らずの来客にも物おじせず、元気なあいさつとともに跳ねるように駆けていく。

陸前高田市立矢作小学校には、市内約半分のエリアの小学生が通う。1年生から6年生まで生徒総数は49人。同校の佐々木真校長は、子どもたちのはつらつとした様子に、まなじりを下げる。

岩手県の陸前高田市は、風光明媚で、山海の恵みも豊かな地域だ。2011年、この三陸の港町から、東日本大震災とそれに伴う津波がすべてをさらった。残された希望の光。それは子どもたちの瞳の輝きだった。

「今の6年生は、震災直後に入学してきた子どもたちです。つまり、震災後の学校生活しか知らない。私たちが子どもだった頃に比べたら、いくぶん窮屈な学校生活かもしれません。それでも子どもたちには、与えられた環境を目いっぱい楽しむ順応性があります。学校生活のそこかしこで、そういう姿を見かけるんですよ」。

校舎内ではソーラーパネルで発電した電気を部分的に使っている

校舎内ではソーラーパネルで発電した電気を部分的に使っている


その矢作小学校に2015年10月、ソーラーパネルがやってきた。「コカ・コーラ 復興支援基金」により、太陽光発電と蓄電設備が設置されたのだ。万一を想定しての非常灯や、通常の電源とは別系統での非常用コンセントなども、体育館などに設置された。

日本コカ・コーラ株式会社とコカ・コーラシステムは、2011年3月11日に東日本大震災が発生した直後から、被災者支援策として飲料の提供を開始し、義捐金の拠出を決定。ザ コカ・コーラ カンパニー(米国本社)も義捐金の拠出を決定するとともに、同月下旬には「コカ・コーラ 復興支援基金」の設立を発表、有志の方々からの寄付も募った。緊急の救援活動に取り組みながらも、今後にニーズが浮上するだろう長期的な支援を実現するための対応だった。

この基金は主に、学校や各地域において被災した子どもたちを対象に活用され、現在大きくは3つの事業を柱に展開している。そのうちの一つが、太陽光発電・蓄電設備の設置助成だ。2011年から時期を区切って希望校から応募を受け付け、現在では岩手、宮城、福島の3県で計55の公立小・中学校への設置が完了している。

「当校のような高台にある学校は、万一の時、地域の避難所としての機能も備えなければなりません。2014年の第3期募集にて設置が決まり、作業をしている間は、地域住民の方々も『あのソーラーパネルが稼働するとどうなるんだい?』と興味を示されていました」

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屋根にソーラーパネルを備えた体育館でも、発電した電気を活用


震災が起きて以降、多くの住民は避難所生活を余儀なくされた。大多数の避難所に送電されるようになったのは、3月下旬のこと。つまり2週間もの間、日常の暮らしを支えていた電気が届かなくなったのだ。

「ふだん当たり前のように身の回りにあるものが失われるというのは、想像以上に不安感をかきたてられるものです。当時の電気のない不安な生活は、今も地域住民の胸に刻まれています。しかしソーラーパネルがあれば、仮にまた何らかの災害が起きて当校の体育館が避難所になるようなことがあっても、『万一の時も、ここには電気がある』という安心感を得ることができます」

矢作小学校では現在、日々16kWの蓄電が可能になっている。これは、体育館に避難所対応が求められた時、一晩過ごせるだけの電力だ。夜さえ越せば、20kW発電のソーラーパネルで翌日分の電力も蓄えられる。

もっとも子どもたちにとっては、まったく異なる側面からの効果もあった。モニターのおかげで、電気への興味や関心が格段に高まったという。

太陽光発電・蓄電設備の導入にあたり、校内には常時リアルタイムでの発電量が分かるモニターが設置された。モニターには、化石燃料を使った発電方式のアニメーション仕立ての解説や、蛍光灯の本数に換算した現在の発電量なども映し出される。

「休み時間などには興味深そうにモニターを見上げ、『今、蛍光灯で300本分も発電してるんだね!』なんて目をキラキラさせているんです。導入されてしばらくした頃、子どもたちに感想を書かせたんですが、その文中に『化石燃料』『再生可能エネルギー』といった、まだ授業で教わっていないはずのキーワードが盛り込まれていたのです。そのうえ、『電気を大切に使わなければ』『これから電気を消していこうと思います』などの記述もあり、自然に環境意識までもが高くなっていたことには驚かされました」

子どもたちのアンケート用紙は、大人びた字で「エコ生活を送っている」などと書き込まれたものから、つたない字で「地球にやさしく、人にやさしく、人の気持ちにやさしいそうちだと思いました」と記されたものまでさまざまだ。一人ひとりがそれぞれの視点で、“環境”に触れていることがよく分かる。 「子どもにとって、好奇心は成長のための大切な糧です。教科書やテレビなどの知識だけでなく、身の回りに興味の種があるということは、知らず知らずのうちにでも自発的に学ぶ姿勢につながる。あのソーラーパネルやモニターは、学びの素地を耕すという面からもその効果の大きさを実感しています」

校内に設置されたモニターでは、現在の発電量や電気使用量のほか、蓄電量、太陽の光の強さなどが分かりやすく表示され、子どもたちの興味を惹いている

校内に設置されたモニターでは、現在の発電量や電気使用量のほか、蓄電量、太陽の光の強さなどが分かりやすく表示され、子どもたちの興味を惹いている