しかし、実際に森林の保全活動を始めると、農家として毎日畑や田んぼに出ていた経験がある木野さんですら、「こんなにつらい仕事はない」と感じたほど、山の仕事は大変だった。それでも「森を守らなければならん」という一心で続けてきた。

「森林というのは、木材を育てるためだけの場所ではないのです。空気の浄化、水資源の確保、土砂災害の防止など、実に多様な機能があります。日本は国土の70%が森林です。つまり、森を守るということは、国土を守るということでもあるのです」

そう語る木野さんに協力を申し出たのが、くしくも麓共有林と同じ130 年の歴史を持つ「コカ・コーラ」の会社だった。えびの市内に工場を所有しているコカ・コーラウエスト株式会社が2014年11月、宮崎県、えびの市、西諸地区森林組合、そして麓共有林と協定を結び、麓共有林の森林面積203.23ヘクタールに相当するエリアを「えびの城山 さわやか自然の森」と名付け、ともに森林づくりを行うと宣言したのだ。もともと同社のえびの工場では、「工場で使った水をすべて地域と自然に還元する」ことを目的としたWater Neutrality(ウォーター・ニュートラリティー)活動を行っており、工場から出る排水でも魚が泳げるようになるくらいに水を浄化するなど、積極的に水資源保護に取り組んでいた。

森の中は区画ごとに整理されている

森の中は区画ごとに整理されている。苗木を植えたばかりのエリアの下刈りには、10人がかりで作業しても、丸一日かかるという


とはいえ、最初にコカ・コーラウエストから森林保全活動への支援の申し出を聞いた時、木野さんは、「正直、ピンとこなかった」と振り返る。

「大企業がなぜ、うちらの森に興味を持つのかが分からなかったのです。ほかの株主たちも何のメリットがあるのかと疑っておりました。でも、お話をする中に『えびのの美しい水に、私たちは恩返しをしなければならない』という言葉があったんです。私はその気持ちがうれしくて、維持管理費をサポートいただく提案を受けることに決めました。支援は必要ですが、やっぱり互いに手を取り合うためには、この森と水を守るのだという決意が通じ合っていなければならない」

前出の森林組合長の平さんもうなずく。

「森を守ることは、水を守ることにつながります。私が常々申し上げているのは、日本のように水道水をそのまま飲める国は世界中にいくつもないということ。森を守り、水源を守るという行為がいかに大切か。コカ・コーラさんとの取り組みをきっかけに、多くの人がそのことに気づいてくれたら、と思っています」さらに、森林保全と地域の持続的発展に取り組むために、日本コカ・コーラ株式会社と2013 年に協定を交わした日本製紙グループも、西諸地区森林組合および麓共有林と連携。「森と水とスマイル」活動の一環として、日本製紙グループは総合バイオマス企業の強みを活かし、コカ・コーラシステムの水源域である麓共有林から出荷される木材を安定的に買い取り、カスケード利用(※)を通して、麓共有林の安定した維持管理を後押ししていく。えびのの森を守る活動を一過性のもので終わらせず、中長期的な展望を持った持続的な取り組みとするための連携スキームが、ここにできあがった。

森の中をどんどん分け入って行く木野さん

森の中をどんどん分け入って行く木野さん。その足取りはとても軽やか


「先日、えびの市産の米である『ヒノヒカリ』が、最高評価の特Aを宮崎県で初めて獲得しました。私も米農家だったから分かるのですが、おいしい米づくりには、おいしい水が欠かせません。これも美しい森を守り続けている成果の一つです」

今日も木野さんは山に入り、汗を流しながら森を守り、水を守り続ける。

「山での仕事が大変なのは変わっていませんが、1日の仕事が終わって、母ちゃんと話しながら宮崎の芋焼酎で乾杯すれば、疲れなんて吹き飛びます。だから、まだまだ頑張りますよ」

えびのの森の未来を感じる、力強い言葉だった。

※カスケード利用……木材を建築用材として利用したあと、製紙原料や発電用の燃料としてなど、余すことなく利用すること。


「森と水とスマイル」とは?

日本製紙グループと日本コカ・コーラが、森林資源・水資源の保全と地域の持続的発展に中長期的に取り組むために、2013年に協定を結び、始まったプロジェクト。日本製紙株式会社の社有林もしくはコカ・コーラシステムの工場の水源域を対象に、さまざまな活動を展開する。

きの・つぎおさんプロフィール

<プロフィール>
きの・つぎお / 1939年生まれ。2012年より麓共有林株主会委員長を務める。農業を営みながら、毎日山に入り、麓共有林の管理、保全活動を行っている。