これまで長きにわたり、カフェインの利尿作用により脱水症状が起きると信じられてきましたが、近年、この説は必ずしも真実ではないことが明らかにされています。むしろ、カフェイン入りの飲料を避けることが、結果的に水分摂取量の低下につながり、脱水症状のリスクを高める可能性もあります。カフェインの日常的な摂取によって、私たちの体のカフェインに対する耐性は3~5日程度で得られることが知られており、カフェインによる脱水作用を過剰に恐れる必要はないでしょう。


水分補給の専門家であるAnn Grandjean先生へのインタビュー
カフェイン入りのコーヒー、紅茶、清涼飲料水を毎日数杯飲んでいる人に朗報です。このほど米国医学研究所(Institute of Medicine:IOM)は、カフェイン含有飲料も、1日に必要な水分量の補給に有用であると結論づけました。しかし、一般的にはカフェイン含有飲料で必要な水分量を補うことはできないという説が広まっているため、この事実をそのまま信用することは難しいという方も多いかもしれません。

長年信じられてきたカフェイン含有飲料に脱水作用があるという説に、科学がどのように挑み、反論してきたのかを理解するために、著名な水分補給の専門家、Ann Grandjean先生にお話を伺いました。

<Contents>
●私たちは長年にわたって、カフェインには脱水作用があると耳にしてきました。ところがIOMは、カフェイン含有飲料も水分補給に有用という説を発表しました。これはどのような経緯だったのでしょうか?

●カフェイン含有飲料には脱水作用があるという説は、エビデンスがあるものではなかったのでしょうか?

●先生の研究は、水分補給とカフェインに関する科学的知見を刷新することになりました。他の研究者とは何が違ったのでしょうか?

●カフェインをまれにしか摂取しない場合、弱い利尿作用があると伺いました。それは水分補給に有害とならないのでしょうか?

●大量の水分を必要とするスポーツ選手の場合はどうでしょうか。カフェイン含有のコーヒー、紅茶、清涼飲料水を避けるべきでしょうか?

●カフェイン含有飲料は水分補給に有用であることが科学的に証明されたにもかかわらず、なぜ多くの人がまだカフェイン含有飲料には脱水作用がある、と信じているのでしょうか?

 

私たちは長年にわたって、カフェインには脱水作用があると耳にしてきました。ところがIOMは、カフェイン含有飲料も水分補給に有用という説を発表しました。これはどのような経緯だったのでしょうか?
  Grandjean先生:IOMは、米国民の公式な栄養摂取ガイドラインとなる食事摂取基準(Dietary Reference Intakes:DRI)を改訂するため、10年毎に専門委員会を立ち上げています。2004年の水・電解質に関するDRI報告書を担当する専門委員会は、カフェインおよび水分補給に関する過去の文献とこの10年間に発表された比較的新しい研究報告とを慎重に再検討しました。その結果、健康者において、カフェイン含有飲料摂取後24時間の尿量は他の飲料摂取後と比較して増えていないこと、カフェイン含有飲料はノンカフェイン飲料と同様に、1日の水分摂取の必要量に有用であることを示す十分なエビデンスがあると判断しました。つまり、カフェイン含有飲料は水分補給に有用でないという一般的な認識が崩れ去ったのです。
 
カフェイン含有飲料には脱水作用があるという説は、エビデンスがあるものではなかったのでしょうか?
  Grandjean先生:はい。ですが、あらゆる試験は特定の疑問を明らかにするためにデザインされなければいけません。例えば、カフェインに関する多くの試験は「カフェインは、カフェイン耐性のない被験者の尿排出量を増やすのか」という疑問を明らかにするためにデザインされていました。つまり、これらの試験では、被験者のカフェイン耐性をなくすため、実験当日の1~4日前、あるいはもっと以前からカフェインの摂取を控える必要があります。ご存じの通り、私たちの体は、3~5日間カフェインを定期的に摂取すると、カフェイン耐性を獲得します。この耐性により、カフェインがもたらす微弱な利尿作用は低減されてしまいます。つまり、カフェイン耐性のない被験者でカフェイン摂取後の尿排出量に増加が見られたとしても、カフェイン含有飲料を常飲している人々の結果と同じになるとは限らず、実際の日常生活を反映した試験デザインとは言い難いのです。

この類の研究においては、その結果をそのまま日常生活に応用できるとは限りません。例えば、大半の試験では、カフェイン摂取後短時間の評価しか行われていません。カフェインの血中半減期は、個人間で大きく異なりますが、非喫煙者の成人健康者で約6時間、喫煙する成人健康者では約3.5時間と比較的短くなります。特にカフェインを大量に摂取した場合は、利尿作用は摂取後比較的短時間で発生するため、摂取後短時間のみでの尿の評価は、1日に必要な水分量に対するカフェインの影響に関して、誤った結論にたどり着いてしまいます。

カフェインを一度に大量摂取させ、摂取後短時間で尿を採取した多くの試験において、尿排泄量が増加したとの結論が出されています。しかし、通常の摂取量よりも多くのカフェインを急激に摂取すると、短時間で尿排泄が刺激されることが知られています。
 
先生の研究は、水分補給とカフェインに関する科学的知見を刷新することになりました。他の研究者とは何が違ったのでしょうか?
  Grandjean先生: 私たちが関心を持つ研究課題は「カフェイン含有飲料を標準の摂取範囲内の量およびパターンで常飲することが脱水症状に結びつくのか?」ということです。この場合、カフェイン耐性のない被験者を対象に摂取後短時間の尿排泄量から判断することや、通常の摂取量よりも多くのカフェインを摂取させる試験から結論を出すことは、科学的に適切ではないと考えました。むしろ、私たちの試験では、カフェイン含有飲料摂取者の「実生活」をより忠実に再現することにしたのです。

私たちは、18名の健康成人男性を対象に、水のみ、水と炭酸入りコーラ飲料、カフェインおよびエネルギー含有のコーラ飲料、カフェイン含有カロリーゼロのコーラ飲料などの各種飲料の組み合わせを4回に分けて摂取してカウンターバランスをとったクロスオーバー研究を行いました。その結果、各ボランティア被験者の水分補給状態に著しい差がないことがわかりました。さらに、次の試験では、2種類の方法で水分を摂取させ、結果を測定しました。一方の被験者群には、食事中に水を摂取させ、もう一方の被験者群では、食事中は水を摂取させませんでした。この試験でも、両群間の水分補給状態に有意差がないことが確認されました。これらの結果から、私たちは、カフェイン含有飲料は脱水症状の原因になるという一般に広まった説は事実ではないという結論に達したのです。後に、他の研究や報告においても、私たちの研究結果を追認する結果が出てきました。

興味深いことに、はるか昔の1928年に行われたカフェイン含有飲料を常飲する被験者を対象とした試験でも、摂取後24時間の尿排泄量は増えなかったことが示されています。
 
カフェインをまれにしか摂取しない場合、弱い利尿作用があると伺いました。それは水分補給に有害とならないのでしょうか?
  Grandjean先生:すでに述べたように、体内では、3~5日間定期的にカフェイン摂取すると、カフェインに対する耐性ができます。そのため、カフェインに弱い利尿作用があっても、カフェイン含有飲料を飲んだ後、それを常飲する人々の水分補給に害が及ぶことはありません。私たちの身体には、体液の恒常性を維持するための調節機能が備わっています。水は生命の維持に非常に重要であるため、私たちの身体がカフェインの弱い利尿作用を打ち消そうとすることは納得できます。最近の研究では、この調節が実際に行われていることが実証されています。
 
大量の水分を必要とするスポーツ選手の場合はどうでしょうか。カフェイン含有のコーヒー、紅茶、清涼飲料水を避けるべきでしょうか?
  Grandjean先生:すでに発表された対照試験に対する論評においては、運動中にカフェイン含有飲料を摂取しても、尿排泄量が増えたり、運動パフォーマンスに悪影響を及ぼしたりすることはないとされています。実際に、水で水分補給した場合、カフェイン含有飲料で補給した場合よりも多くの電解質が失われます。さらに、プロスポーツ選手やオリンピック選手とともに過ごした私自身の経験では、水分摂取の際にカフェイン含有飲料を減らすように指示すると、水分摂取が不十分になるケースが見受けられました。彼らはそれほど水分をとらないのです。そのため、場合によっては、脱水症状のリスクを高める可能性もあります。
 
カフェイン含有飲料は水分補給に有用であることが科学的に証明されたにもかかわらず、なぜ多くの人がまだカフェイン含有飲料には脱水作用がある、と信じているのでしょうか?
  Grandjean先生:研究によって、長年信じられてきた学説を覆し、人々に「受け入れられる」基準となるには時間がかかります。だからこそ、このように長年信じられてきた説を反証する科学的な結果を人々が理解できるように手助けすることが大切なのです。これは、カフェイン含有飲料には脱水作用があるという誤解を払拭する際にも重要です。科学的には明らかであっても、学校の教師、あるいはテレビ、雑誌、新聞などのメディアを通じて、この事実を幅広く、そして繰り返し発信していかない限り、人々の困惑は続くのではないでしょうか。もちろん多くのインターネットサイトで正しい情報へと更新することも必要です。これは挑戦です。古い情報は、たった数行でも情報として流布してしまいますが、新しい情報を正しく伝え直し、把握してもらうには、それ以上の時間、労力、スペースが必要となるのです。このインタビューが良い例です。多くの努力を要しますが、事実ではない学説に終止符を打つことは、大きな意味をもつのです。
 

参考文献
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経歴
Ann Grandjean, EdD, FACSM, CNSDr.
Ann Grandjeanは、人間栄養研究センター前ディレクター。同氏はネブラスカ大学運動部門と米国オリンピック委員会の栄養コンサルタントを務めた。


免責事項
本稿で引用されている専門家や組織の見解と意見は、あくまでも各自のものであり、必ずしも属する機関や協会、またThe Coca-Cola Companyの意見を代表するものではありません。

本記事に記載されている情報は、医療と栄養の専門家によるアドバイスとは異なります。特定の健康上の懸念がある場合は、医療と栄養の専門家にご相談ください。