食事や運動をはじめとする生活習慣の改善は健康増進につながりますが、モチベーションが維持できず、うまく実行できる人は多くありません。そこで、カウンセリングの方法として、従来の疾病中心のヘルスケアから患者中心のケアへのシフトが起こっています。患者中心のケアでは、専門家が指示するのではなく、患者自身が自分の健康を管理したいと思う理由を見つけ、それに集中できるよう手助けします。ヘルスケアの専門家が、生活習慣改善のモチベーションをアップさせる際に用いる手法のひとつが「動機付け面接」です。


行動変化の専門家であるLola Coke先生Julie Schwartz先生へのインタビュー

定期的な運動を行い、適正な体重を維持し、栄養豊富な食事をとることは、長期的な健康増進につながるという認識が高まっています。それにもかかわらず、多くの人々は、そのような健康にとって大切な行動を生活習慣にうまく取り入れることができずにいます。

医療及び栄養の専門家が患者の生活習慣を変えるためにどのような手助けをしているのかを知るため、シカゴのラッシュ大学看護学部のLola Coke先生、およびジョージア州でNutriWell Coachingを主宰するJulie Schwartz先生にお話を伺いました。

<Contents>
1.生活習慣改善への課題
●なぜ多くの人は、健康増進のために生活習慣を改善することができないのでしょうか?

●医療と栄養の専門家として患者の生活習慣の改善をサポートするにあたり、どのような課題に直面されていますか?

2.新しい生活習慣カウンセリングとは
●専門家が患者の生活習慣の改善をサポートするにあたり、なぜ新しいカウンセリング法に変える必要があるのでしょうか?

●医療および栄養の専門家による生活習慣カウンセリングの方法は変わりつつあるのでしょうか?

●疾病中心のヘルスケアから患者中心のケアへ移行することで、生活習慣カウンセリングの成果はどう改善されるのでしょうか?

●患者に生活習慣改善のモチベーションを持ってもらうための方法を教えてください。

3.動機付け面接の行い方
●動機付け面接について、具体例を教えていただけますか?

●動機付け面接は1対1で行わなければいけないのですか?

●動機付け面接は健康問題に対して有効だと証明されていますか?

 

1.生活習慣改善への課題

なぜ多くの人は、健康増進のために生活習慣を改善することができないのでしょうか?
  Coke先生:大きな理由として、ほとんどの人の日常的な行動パターンはすでに確立されてしまっていて、それを変えるのは難しいということがあります。また、健康状態は生活の変化によって左右されることがあります。しかし、例えば高血圧のように、いつも症状が現れるとは限りません。症状がないために自分の健康状態が危険だということに気づかず、生活習慣を変えようというモチベーションにつながらない人もいるのです。

変化というものは、すぐに起こるものではなく、時間をかけてゆっくりと起こります。自分の行動を変えるためには、変化を心から望み、変化によるメリットを理解すべきです。

Schwartz先生:Coke先生の意見に賛成です。多くの人は、変化に対して逡巡します。誰であろうと、その対象が何であろうと、変化を起こすということは、そう簡単なことではありません。変化とは不快なもの、ストレスを感じさせるものです。何かを変えるためには努力をしなければなりませんし、ご存じのように「失敗に対する恐怖」が伴います。

また、十分なサポートが得られないと考えてしまうこと(または実際にサポートがない場合)も、変化を困難にします。これは、食生活を変えようとするときによく当てはまります。周囲の人たちが健康的な食事をしていなければ、自分が健康的な食事を実践することは難しいでしょう。特に、家族や友人とよく食事をしたり、仕事の付き合いでレストランなどに行ったりすることが多い場合は、大きな課題となるでしょう。
 
医療と栄養の専門家として患者の生活習慣の改善をサポートするにあたり、どのような課題に直面されていますか?
  Coke先生:1つは、健康問題への「応急処置」を要求してくる人がよくいることです。このような患者は行動変化に抵抗するケースが多いので、非常に難しいですね。しかし、時間をかけてカウンセリングすることで、患者が自身の行動を変える理由を見つける手助けができます。専門家が患者の行動を変化させるために費やしたカウンセリングの時間は、決して無駄にはならないでしょう。

Schwartz先生:もう1つの課題としては、多くのヘルスケアの専門家がカウンセリングやコーチング、動機付け面接(Motivational interviewing : MI)のような行動変化に関するテクニックのトレーニングを受けていないということが挙げられます。1つや2つ、関連のコースを受講しているかもしれませんが、実践的な訓練は受けていないでしょう。ですから、専門家も変化に挑戦しなければならないのです。患者のカウンセリングを行うための新しい手法について学習すべきです。
 

2.新しい生活習慣カウンセリングとは

専門家が患者の生活習慣の改善をサポートするにあたり、なぜ新しいカウンセリング法に変える必要があるのでしょうか?
  Schwartz先生:伝統的なヘルスケアでは、疾病を予防することよりも、疾病を「治療する」ことが重視されていました。これは「患者には知識がなく、専門家が健康上の問題を見つけてそれを解決してやらなければいけない」という考えの上に成り立っています。その結果、伝統的な健康カウンセリングは高圧的で、アドバイスを与えることに重きが置かれてきました。その一方で、患者が指示に従うつもりがあるのか、または指示されたことを実際に達成できるのかといったことには、ほとんど考慮されなくなっています。これでは、患者の生活習慣がうまく改善せず、専門家が失望してしまうのも当然です。専門家の方も、そのうち「人は変わることができる」あるいは「人は変わる」と思えなくなり、患者に対して知らず知らずのうちに、このような態度をとるようになるので、生活習慣の改善が失敗に終わる割合を高めてしまうことになります。つまり、誰も救われることがない悪循環に陥ってしまうと言えます。

Coke先生:我々の研究でも、従来の「アドバイスを与える」という方法では、効果がないことが示されています。また、従来の方法による禁煙の成功率はわずか5~10%にとどまっていますが、それに対して、コーチングや動機付け面接といった患者中心の行動変化テクニックの有効性を示す論文が次々と発表されています。
 
医療および栄養の専門家による生活習慣カウンセリングの方法は変わりつつあるのでしょうか?
  Coke先生:はい。疾病中心のヘルスケアから患者中心のケアへと決定的なパラダイム・シフトが起こっていると我々はみています。それと同時に、健康上の問題は患者自身が管理するという、責任のシフトも起こっているのです。

また、医療及び栄養の専門家の間では、患者の生活習慣を改善させるにあたって、患者中心の行動アプローチにシフトしてきています。このアプローチは、患者を教育してアドバイスを与え、やるべきことを指示するだけのアプローチとは対照的なもので、患者の行動変化をサポートする際に極めて重要となります。

Schwartz先生:その通りだと思います。医師の多くは従来の方法が効果的ではないことに気づいており、患者の生活習慣の改善がよりうまくいく方法を模索しているのです。

動機付け面接やコーチングが、患者が変化することへのためらいを克服して生活習慣を改善する手助けとして有効であるという根拠が示されるにつれて、より多くの専門家がこれらのアプローチを採るようになってきています。

疾病中心のヘルスケアから患者中心のケアへ移行することで、生活習慣カウンセリングの成果はどう改善されるのでしょうか?
  Coke先生:我々が診る患者の多くは、食事や運動レベル、喫煙行動、服薬遵守などの生活習慣をいくつも変えなくてはいけないような健康上の問題を抱えています。これだけ多くのことを改善しなければならないという現実に、患者が圧倒されてしまうのも無理はありません。患者中心のケアでは、専門家が患者に何をすべきか指示する代わりに、患者とともに優先順位を決め、時間をかけて現実的なゴールを設定するのです。

Schwartz先生:我々は、健康そのものが必ずしもモチベーションとなるわけではないということを理解しています。したがって、ヘルスケアの専門家が患者中心のカウンセリングを行う主な目的の1つは、患者が自分の健康を管理したいと思う理由を見つけて、それに集中できるよう手助けすることなのです。

患者が運動習慣を改善したい場合、専門家は、患者が自身にとって最も重要となる運動のメリットを認識し、それに集中できるよう促します。運動によるメリットとしては、例えば、より精力的になったり、よく眠れるようになったりする、あるいは、自尊心・自立心の向上、可動性の向上、痛みの改善などがあります。
 
患者に生活習慣改善のモチベーションを持ってもらうための方法を教えてください。
  Schwartz先生:最初にCoke先生が話されたように、人は、変わることを真剣に望み、その変化によるメリットを知ることで、行動を変えられるものです。行動の変化によるメリットを1つか2つ見つけてそれに集中するように患者を促すことは、彼らのモチベーションをアップさせる助けになります。こうして、行動の変化をより長く継続させることができるのです。

患者が自分の状態を「把握」して、意識的に選択や変化の決断を下せるように手助けするために、ヘルスケアの専門家が用いるファシリテーション技法の1つに、動機付け面接があります。

動機付け面接は、もともと心理学の分野、特に依存症治療において、患者が変化に対するためらいを克服する手助けのために用いられていました。この面接で、専門家は、自由回答式の質問と多様なリフレクティブ・リスニング(傾聴)の技法を駆使して、相手の抵抗と格闘するのではなく、抵抗を認め、柔軟に対応します。

今日、動機付け面接はうまく設計され体系化された技法であり、さまざまな状況や行動に対する有効性が示されています。私もウエルネスコーチングにおいて、私の専門領域の1つである体重管理と共に動機付け面接を利用しています。
 

3.動機付け面接の行い方

動機付け面接について、具体例を教えていただけますか?
  Schwartz先生:やせたい願望はあるけれど生活習慣は変えたくないという方が、しばしば私のオフィスにやって来ます。
私は、初めて相談にいらっしゃった方には、「なぜここへ来たのか」「あなたが達成したいことは何なのか」を尋ねることから始めます。これは、相談にみえた方に最初から主導権を与えるという、動機付け面接の主要なテクニックです。

体重をコントロールしたいと相談にみえた方の場合は、もし「理想的な体重」になったら、何が変わるのかを尋ねます。この技法は、相手に「体重計」を越えて広く考えてもらうことで、変わりたいというモチベーションと同時にためらいについて洞察することができます。

それから、面接の初めに気が付いた「変化へのモチベーション」とリフレクティブ・リスニングの技法を組み合わせて、行動変化に対して患者が受け入れた、あるいは受け入れられる根拠を声に出して言ってもらいます。このときは、まだ変化のための行動を起こしていなくても構いません。

たとえば、相談にみえた方が、実際にトレーニングジムの会員にならなくても入会について調べるかもしれませんし、もしくは、レストランメニューの栄養情報についてインターネットで調べるかもしれません。この動機付け面接のテクニックにおいて重要なのは、彼らが達成可能で測定可能なゴールを設定することにより、成功と主導権を彼らに与えることです。そして、セッションの最後で、彼らに自分たちが設定したゴールの価値について考えてもらい、自分たちのゴールの重要性を継続して覚えていられるようにします。

Coke先生:動機付け面接を用いた患者中心ケアプロセスについては説明があったので、私からは症例を報告します。

私は最近、デスクワークが多く肥満となり、糖尿病を患ってしまったという患者を診たのですが、彼女は、運動量を増やして血糖をコントロールする必要がありました。彼女には毎週来てもらうようにしました。まずは、彼女のストレスレベルを下げることから始めました。ここで動機付け面接を通して、彼女の行動変化を妨げる主な障害を確認しました。ストレスレベルが下がると、彼女は他の健康問題にも目を向けることができるようになりました。彼女は糖尿病のため43歳の時に視力障害を起こしており、それが自分の血糖値のコントロールに取り組む強いモチベーションとなっていたのです。

次のステップは、摂取カロリーを減らし砂糖やその他の余分な炭水化物を食事から除く、という彼女自身の計画を声に出して言ってもらうことでした。彼女はそれを実行し、食生活を改善したことで気持ちが楽になり、ウォーキング・プログラムを始められるようになりました。最終的に彼女は、運動量を増やし、血糖値を自分でコントロールできるようになったのです。生活習慣全体の改善には約3ヵ月かかりました。

動機付け面接は1対1で行わなければいけないのですか?
  Coke先生:決してそんなことはありません。グループセッションや電話でのセッション、そしてもちろん、実際に向かい合って直接行うセッションなど、動機付け面接はいろいろな形で行うことができます。

Schwartz先生:Coke先生のお話は、まさに私の臨床経験を裏づけています。熟練したコーチはどのような状況にもうまく対応できます。患者が自分のゴールに達するのを目の当たりにすることは、私の大きな喜びであり、大変勇気づけられもします。しかも多くの場合、彼らは短期間で達成しているのです。
 
動機付け面接は健康問題に対して有効だと証明されていますか?
  Coke先生:はい。動機付け面接は、果物や野菜の摂取量や運動量を増やすのと同じように、患者の禁煙やダイエット、服薬遵守をサポートするのに利用され、成果を上げてきました。また、危険な性行動の改善や薬物依存症の患者にも有効です。

Schwartz先生:先にお話ししたように、私はウエルネスコーチングを実践する際に、その一部として動機付け面接を用いています。多くの無作為化比較対照試験における定性的評価で、ヘルスケアにおけるウエルネスコーチングの効果が検討されています。ウエルネスコーチングは、注意欠陥・多動性障害、喘息、がん、慢性疼痛、心臓病、糖尿病、骨粗鬆症、運動および体重管理などにおいて、良い結果を出しています。
 

動機付け面接、ウエルネスコーチングに関する参考資料

Appreciative Inquiry Commons
http://appreciativeinquiry.case.edu/

Bandara A. Self-Efficacy. W.H. Freeman, 1997.

Cooperrider D and Whitney D. Appreciative Inquiry: A Positive Revolution in Change. Berrett-Koehler Publishers, 2005.

Elfhag K and Rossner S. Who succeeds in weight loss? A conceptual review of factors associated with weight loss maintenance and weight regain. Obes Rev. 2005; 6: 67-85.

International Coach Federation
http://www.coachfederation.org/

Addiction Technology Transfer Center (ATTC) Network
http://www.attcnetwork.org/regional-centers/content.aspx?rc=northwest&content=STCUSTOM4

Miller WR and Rollnick S. (2002). Motivational Interviewing: Preparing People for Change. Guilford Press. New York, NY.

Pro Change Behavior Systems
http://www.prochange.com

Prochaska JO and Velicer WF. The Transtheoretical Model of health behavior change. Am J Health Prom. 1997; 12: 38-48.

Rollnick S, et al. (2008). Motivational Interviewing in Health Care: Helping Patients Change Behavior. Guilford Press. New York, NY.

Seligman ME. Authentic Happiness. Simon & Schuster, 2002.

Wellcoaches Corporation
http://www.wellcoaches.com

Zander RS and Zander B. The Art of Possibility: Transforming Personal and Professional Life. Harvard Business School Press, 2000

経歴
Lola Coke, PhD, APRN-BC, CNS, FAHA,  FPCNA
Dr. Lola Cokeは、現在、イリノイ州シカゴのラッシュ大学看護学部成人健康・高齢者看護科の准教授を務めている。循環器科のスペシャリストとして30年間勤務し、心血管臨床看護専門家として15年間の経験をもつ。その救急治療経験は、中間的循環器救急治療から心臓切開手術および血管手術後の治療まで、多岐にわたる。

研究分野は、「レジスタンス・トレーニングが心疾患を経験した女性の家事労働と生活の質に与える影響」である。2001年にアルバート・シュヴァイツァー助成金を取得し、恵まれないアフリカ系米国人女性のための「健康な心臓」プログラムを開発した。このプログラムは2年間継続され、博士は現在、プログラムの相談役を務めている。2006年には、レジスタンス・トレーニングの研究に対して米国心臓協会の心血管看護評議会(Council on Cardiovascular Nursing)から「Martha Hill New Investigator」賞を授与されている。

Dr. Cokeは、シカゴのイリノイ大学において生物行動健康科学の博士号を取得後、最近では、特別研究員として勤務されている。動機付け面接の資格を有しており、動機付け面接のワークショップとオンラインセミナーを行っている。米国心臓協会の心血管看護評議会のメンバーであり、協議会のウェブサイトの共同ウェブ編集者および委員を務める。

Julie Schwartz, MS, RD, CSSD, LD, ACSM-HFS, 公認ウエルネスコーチ
Dr. Julie Schwartzは、現在、栄養およびウエルネスコーチングを実践しており、ヨガ・スタジオNutriWell Coachingの経営者である。フロリダ大学で健康教育/健康促進の学士号を取得し、学士/修士連携課程を通じてジョージア州立大学からスポーツ栄養学の修士号を取得している。

同氏は、公認上級ウエルネスコーチであり、12年以上のウエルネスコーチング経験を持つ。健康イニシアティブ、体重管理、栄養学、スポーツ栄養学、行動変化について、25年以上にわたり個人・グループおよび企業での指導実績がある。相談にみえた方に寄り添い、前向きな思考、芯の強さ、積極的な態度や会話に焦点を合わせ、クライアントが夢や生活習慣、価値観に沿って現実的なゴールを設定し、それを達成できるよう指導している。

免責事項
本稿で引用されている専門家や組織の見解と意見は、あくまでも各自のものであり、必ずしも属する機関や協会、またThe Coca-Cola Companyの意見を代表するものではありません。

本記事に記載されている情報は、医療と栄養の専門家によるアドバイスとは異なります。特定の健康上の懸念がある場合は、医療と栄養の専門家にご相談ください。