健康増進に生活習慣病の予防や改善。そして何より楽しい。身体を動かすメリットはあまりにも大きい。しかし、身体を動かしてみたいと思いつつも、具体的に何をどうすればいいのかわからない人も多いはず。そこで、剣道練士6段のスポーツドクター、野見山崇先生に、より効果的な運動の目安と水分補給のコツについて教えてもらった。


無理せず効果を維持する方法とは

福岡大学 医学部内分泌・糖尿病内科准教授の野見山崇先生によると、身体を動かす頻度の目安は「一般的に週3日」だという。「身体を動かすことで筋肉量が上がると、消費エネルギー 量も上がって痩せやすくなります。こうした効果は2日以上空くとゼロに戻りますが、3日に1度続ければ、効果を維持できます。ですから週に3日程度が理想なのです。それ以上を目指すなら、1日おきでもいいでしょう」。 身体の変化やパフォーマンスアップを自覚すると、もっともっとという気持ちになるものだが、毎日行うのはおすすめできないという。「アスリートであれば別ですが、一般の方が毎日運動を行うと疲労が蓄積したり、怪我をしやすくなります。やはり週3日、多くて1日おきがいいでしょう」 では、どんな運動がいいのだろうか。「有酸素運動でもレジスタンストレーニングでもかまいません。ただ、生活習慣病の予防や改善のために身体を動かすのであれば、レジスタンストレーニングよりも長時間できる有酸素運動がおすすめです。ウォーキングや自転車などを30分以上、週に3回続けてみましょう」 その際、注意して欲しいのが、「いきなりハードルを上げすぎないこと」だという。いきなり何時間も運動して疲れてしまい、一回で辞めてしまっては意味がない。それよりも、30分ずつのウォーキングを続ける方がいいそうだ。


 

ちょこちょこ運動でも身体は変わる

高齢者の方が運動を行う場合、おすすめは有酸素運動とレジスタンストレーニングの組み合わせだという。「レジスタンストレーニングはダンベルなどを使ってもいいですし、使わずに自重で行ってもいいでしょう。気軽にできるのは、部屋の端から端まで歩いてスクワットをするといったサーキットトレーニングです。回数などの目安などは特になく、怪我をしない程度に、できる限り行うのがポイント。身体のどこかに痛みを感じたら、すぐに止めましょう。ストレッチは柔軟性の向上にはつながりますが、怪我の予防にはあまり繋がりません。筋肉量が低下している人や、高齢者で登山をしたい人は特に、まずはレジスタンストレーニングで筋肉をしっかりつけてから有酸素運動を行うのがいいでしょう」 とはいえ、仕事や家事などで、なかなか運動する時間が取れないという人も多いはず。それでも、有効に身体を動かすことはできるという。「ちょこちょこ動くだけでも、運動効果があるんですよ。私の専門である糖尿病でも、こまめに動くことも運動療法につながることがわかっており、患者さんには『30分に1回動きましょう』とお伝えしています」 しかし、テレビやスマホを見ていると、30分はあっという間だ。そこで野見山先生が勧めているのが、テレビを見る時に、CMの間に足踏みをすること。「洗濯カゴから洗濯物を一つずつ取り出して干しに行くのもいいし、遠回りして歩くのもいいですね。現代人は無駄を省きたがりますが、遠回りこそ健康の近道です。ある企業では、生活習慣病予備軍の人に階段を使うよう指導を続けたところ、1年間でその方たちの中性脂肪の数値が改善したそうです。もちろん、健康な方の生活習慣病予防にも有効です。私も大学では研究室のある5階や病棟のある7階まで歩いているんですよ」

特に気をつけたい高齢者と子どもの水分補給

こうした運動を行う上で、欠かせないのが水分補給だ。「水分補給のコツは、運動前に水分を摂取しておき、運動中に失われた分を定期的に摂取すること。15〜20分ごとにコップ1杯が目安です。事前に水分を摂取せずに運動を始めると、途中で水分補給をするまでの間、短い時間でも脱水状態になってしまいます。汗で水分が失われても脱水しなくてすむよう、あらかじめ水分補給をして体内の水分をかさ上げしておきましょう」高齢者の場合、運動時はもちろん、普段から脱水状態には注意が必要だという。高齢者は脱水になりやすいためだ。 「筋肉や脂肪は保水臓器でもあるのですが、どちらも加齢によって減少するため、高齢者は体内で保水できるキャパシティが減るのです。また、加齢によって自律神経の機能が低下すると体温調整機能が働きにくく、発汗しにくくなります。さらに、高齢になると、体温が上昇を感知するセンサーや、喉の渇きを感知する口渇中枢の働きが弱まっていのです。こうしたことから高齢者は脱水や熱中症になりやすいので、こまめな水分補給を心がけていただきたいですね」 高齢者とは違う理由で注意が必要なのが、子どもだという。「身体が小さく、体重に対する体表面積が少ないため、発汗によって身体の中にこもった熱を放出することになります。ですから、子どもがスポーツをしたり外遊びするときは、大人以上に意識して水分補給を促してあげましょう」汗をかくと水分と一緒にナトリウムが失われる。そのため、お水やお茶よりも、ナトリウムや電解質といったミネラルが含まれるスポーツドリンクで補給するのが望ましい。

カロリーゼロのスポーツドリンクで水分補給を

一方、糖尿病患者の方の場合、水分補給のタイミングだけでなく、飲み物の種類も気をつける必要があるそうだ。「高血糖になると、腎臓が尿と一緒に糖を排出しようとして過剰に尿を出す浸透圧利尿が起こり、脱水しやすいのです。糖尿病の方は普段から注意が必要ですが、運動するときは特に気をつけましょう。健康な方であればスポーツ飲料でも構わないのですが、糖質が多く含まれるので糖尿病の方が摂取すると血糖が悪化する恐れがあります。糖尿病の方には、ミネラルが含まれたカロリーゼロのスポーツドリンクがベターです」 せっかく身体に合ったものを選んでも、定期的に補給するのが面倒だからと、運動前に一気に水分を摂取しようとする人もいるだろう。しかし、余分な水分は尿として排出されてしまう。減った分を定期的に補充するというサイクルが重要だ。 さらに、運動を行うすべての方に気をつけてほしいことがあるという。「運動する場所の気温と湿度です。湿度が高いと発汗しづらくなるため、熱中症のリスクが高まります。夏に限らず、身体を動かす時は気温と湿度には注意しましょう。WBGT値(暑さ指数)を目安にするのもいいですね。WBGT値が25℃以上なら運動は避けましょう。暑い時期に身体を動かすなら、空調の効いたジムで行ってください」 目的にあった運動と適切な水分補給で、スポーツの健康効果を最大限に引き出そう。


 

プロフィール

野見山崇先生
福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科 准教授。福岡大学基盤研究機関膵島研究所長。1995年に順天大学医学部医学科を卒業し、2002年に順天堂大学大学院医学研究科(博士課程)内科学・代謝内分泌講座 修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。剣道錬士六段。