この記事をまとめると、

① 運動時の水分不足は、脱水症だけでなく、命に関わる状態を招くことも

② 運動中は、水分のとり過ぎによる低ナトリウム血症にも注意が必要

③ 運動前後も含めて運動時は、糖分と塩分を含む飲料で水分補給するとよい

運動して多量の汗をかくと、脱水症に陥りやすくなります。十分に水分をとらないと運動パフォーマンスが低下する一方、電解質を失った状態で水分のみをとりすぎると命に危険が及ぶこともあります。運動時は、スポーツドリンクなどを上手に利用し、水分と電解質を適切に補給することが大切です。摂取する水分の量やタイミング、飲料の種類を個別に計画することで、より効果的に水分補給ができます。

 

1.運動時の脱水症
運動時に筋肉を動かすと、体では熱が作られます1)。通常この熱は、血管拡張や発汗により体から放出されます1)。このとき発汗した分の水分を補えないと、体の水分が減り、脱水症を起こしてしまいます1)。脱水症は、運動パフォーマンスに悪影響を及ぼす要因の一つです1)。具体的には、体の水分を体重の2%以上失うと持久性パフォーマンスが低下し、体重の3%以上の水分を失うと瞬発性パフォーマンスが低下するとされています1)

脱水症が進行すると、体温は上昇します1)。体重の2%までの水分損失は、体温に影響しませんが、それ以上になると、1%の水分損失につき深部体温が約0.3℃上昇します1)。特に、暑熱環境で長時間にわたって運動する場合は、高度の脱水症から循環不全を来たし、頭痛、めまい、吐き気などの熱疲労を起こします2)。熱疲労の状態で運動を続けると、熱射病を起こし、意識障害に陥ったり、体温調節機能不全によって発汗が止まったりすることで命を落とす危険もあります2)

 2.運動時の水分過剰
運動中に水分をとりすぎると、低ナトリウム血症を発症することがあります2)。低ナトリウム血症は、細胞中の水 分が過剰になると発症し、水毒症ともよばれます2)。軽症では症状がないこともありますが、場合によっては倦怠感、吐き気、嘔吐、筋肉のこむら返りなどの症状がみられます2)。重症になると、肺や脳が水分過剰の影響を受け、呼吸困難や意識障害を起こし、死に至ることもあります2)

これまでに、マラソンレース中に水分の過剰摂取によって低ナトリウム血症を起こし、死亡した例が報告されています2)。低ナトリウム血症の危険性が高くなるのは、走る速度が遅い、レース時間が長い、発汗量が少ない冬のレースである、体重が軽い場合が考えられています2)

運動時には、低ナトリウム血症に注意しながら、適切な水分補給によって脱水症を予防することが重要です。

3.水分補給のポイント
運動時の水分補給は、発汗量に見合った量の水分を補給し、発汗による体重減少率を元の体重の2%以内に抑えることがポイントです2)

必要な水分量
運動時にどのくらいの水分が必要かは、個人によって異なります2)。例えばマラソンを行う場合の水分摂取量の目安量は、1時間当たり400〜800mlです2)。しかし、運動強度が高い、気温が高い、体が大きいほど水分摂取量を多めに、逆の場合は少なめにするなど、柔軟な対応が必要です2)。そこで、喉の渇きに応じた自由な飲水が推奨されています2)。自由飲水による水分補給では、少量の水分が不足する傾向にあるようですが、体重減少率が2%以内であれば許容範囲です2)

飲料の種類
運動時に推奨される飲料は、飲みやすく胃にたまりにくい組成の飲料です2)。具体的には、100ml当たり、糖分4〜8gおよび食塩0.1〜0.2g(ナトリウム換算で40〜80mg)を含む飲料が適当とされています2)。ただし、糖分の含有濃度が高まると胃にたまりやすくなるので、注意が必要です2)。飲料の温度は、5〜15℃程度が推奨されています2)

タイミング
水分補給は、運動前、運動中、運動後のいずれのタイミングにも必要です1)。運動前のウォーミングアップ時には、発汗で体の水分を失うことや、体温が上がりすぎるのを防ぐために水分をとります1)。このとき、冷たい飲料を選ぶようにすると、運動中に深部体温が上昇するのを防ぐのに効果的で、無駄な発汗を抑えることができます1)。また、運動中の水分補給には、体温の上がりすぎを防ぐことに加え、失われた水分や電解質を速やかに補給するという目的があります1)。特に、暑熱環境で運動するときは、深部体温の上昇や持久性パフォーマンスの低下を抑えるために、冷たい飲料を選ぶとよいでしょう1)。そして、運動後は、失われた水分や電解質を補給し、コンディショニング(トレーニングや試合後の体の適応を最大限にする)するために水分をとります1)。体重損失分と同程度か体重損失分の120%程度の量を、運動後1時間以内に補給するとよいでしょう1)。このとき、タンパク質入りの飲料を補給すると、体内の水分量を調節するアルブミンというタンパク質の量が増えることがわかっています1)

4.高齢者や小児は特に注意が必要
高齢者や小児は、脱水症を起こしやすいという体の特性があります3)。高齢者では、体温調節機能が低下し、体液が減少するだけでなく、喉の渇きに鈍感になります3)。そのため、部屋の温度をこまめにチェックする、喉の渇きが起こらなくても早めに水分をとるなどの注意が必要です3)。また、体が熱くなりやすい小児では、特に、真夏など気温が皮膚温度より高いときに、体内に熱がこもって体温が過度に上がりやすくなります2)。新生児や乳児を除く小児は、喉の渇きを感じ取り飲水行動をとることができるため、運動時には自由に水分を補給できる環境を周囲の大人が整え、飲水指導をすることが大切です2)

運動時の水分補給は、運動パフォーマンスを維持するだけでなく、体の機能を正常に保つためにも重要です。水分補給のポイントを正しく理解し、水分補給の不足や過剰を避けることで、最大限のパフォーマンス発揮につながることが期待されます。

参考文献
1)競技者のための暑熱対策ガイドブック(独立行政法人日本スポーツ振興センター 国立スポーツ科学センター)
https://www.jpnsport.go.jp/jiss/Portals/0/jigyou/pdf/shonetsu_2-23pp.pdf
https://www.jpnsport.go.jp/jiss/Portals/0/jigyou/pdf/shonetsu-24-43pp.pdf
(最終アクセス:2018年10月9日)

2)スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(日本スポーツ協会)
https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/supoken/doc/nechusho_yobou_guidebook_2018.pdf
(最終アクセス:2018年10月9日)

3)熱中症環境保健マニュアル2018(環境省)
http://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf
(最終アクセス:2018年10月9日)

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