文=エイドリアン・ウィチャード=エッズ


■ 「空」に憑かれた少年、熱気球のパイロットになる

アイダホ州在住の熱気球のパイロット、スコット・スペンサーは、14歳の時、生まれて初めて熱気球を購入したそうです。

「物心ついた時からずっと、空を飛びたいと強く思っていました。そして、自力で空を飛ぶのに一番安い方法は気球を飛ばすことだったんです。でも、初めてバーナーに点火した時、うっかり父親の小麦畑を40エーカー(約16万㎡)も燃やしてしまってこっぴどく叱られ、しばらくは飛ぶことをあきらめざるを得ませんでした」と、現在60歳になったスペンサーは言います。

そんな目に遭っても、少年スペンサーの空に対する憧れが薄れることはありませんでした。彼はその2年後に初飛行を成功させ、大学卒業後は、職業パイロットのライセンスを取得するための訓練と学習に没頭していったのです。
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熱気球サービス会社Lighter Than Air America を経営するスコット・スペンサー



 今では飛行経験44年のベテランパイロットとなっているスペンサーは、熱気球3機を保有するコカ・コーラ社の公式チームの責任者を務めています。このうち2機は伝統的なバルーン型ですが、残り1機は巨大な「コカ・コーラ」ボトルの形をしたもので、全長約56メートルは、熱気球として世界一の高さを誇ります。

「自分にとっての副操縦士は、経験と直感」と語るスペンサーは、「コカ・コーラ」の「空のアンバサダー」を自認しています。「気球を上昇させるとき、重りの砂袋をいっきに落とすことで、浮力を調整しているんだろうと想像している人が多いのではないでしょうか。でも実際には、目指す高度に達するまで一さじ単位で砂を落とすような、とてもデリケートな作業なんですよ」(スペンサー)。

また、気球での飛行には、気球自体の大きさや形、天候条件に影響される上下振動がつきものですが、有能なパイロットはバーナーの温度を1度単位で微調整することによって、そのような振動を最小限に抑えることもできるそうです。
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■ 熱気球のパイロットに必要な資格

熱気球のパイロットは、生半可な覚悟でなれる職業ではありません。米国では、連邦航空局(FAA)が管理するライセンスを取得する必要があり、そのためには最低でも10時間の飛行経験、10回の安全な飛行記録を有することと、ヘリコプターからジェット機まであらゆる航空機を対象とする航空規制に関する筆記試験に合格することが条件となります。そして、気球そのものの維持管理にも多大な資金、体力、そして十分な保管場所が必要となるのです。

ニューメキシコ州アルバカーキを拠点に、熱気球のインストラクターを16年間務めてきたアル・ローウェンスタインによると、一般的な熱気球の価格は3万ドル~5万ドル(約360万円~600万円)で、その重量は200キロを超えるそうです。これだけの装備を運ぶだけでも、頑丈な乗り物と体力のある地上クルーが必要になることが分かるでしょう。そして熱気球のパイロットとしての活動に要するコストはといえば、燃料費(飛行時には大型のプロパンタンクが使われます)、気球の保管にかかる費用、毎年の定期検査費用に日常的なメンテナンス費、クルーの人件費や食費などなど……「もちろん、シャンパンもお忘れなく!」とローウェンスタインは付け加えます。