東京2020オリンピック公式緑茶に決定し、6月17日には東京2020オリンピック記念デザインボトルも発売となった「綾鷹」。2007年の発売から12年が経つ今もなお、多くの人に愛され、今に至ります。フードジャーナリスト/1級フードアナリストの里井真由美さんも、そんな「綾鷹」ファンのひとり。ふだんからPETボトルのお茶といえば「綾鷹」を指名買いしているという彼女が今回訪ねたのは、京都・宇治の老舗茶舗「上林春松本店」。開発協力として共に歩んできた「上林春松本店」代表・上林秀敏さんとの対談を通じて「綾鷹」が多くの人に選ばれ続けている理由を探った、里井さんのレポートをお届けします。

取材・語り=里井真由美
構成=『Coca-Cola Journey』編集部
写真=洞澤佐智子

 

■「綾鷹」の“旨み”がグローバルスタンダードになっていくことを確信した旅

「綾鷹」のおいしさが世界に通ずるものになる日は、そう遠くないのかもしれない──。
いつものように仕事先に向かう車中で「綾鷹」を飲んでいると、京都・宇治での取材で見聞きしたことを思い出して、静かに心が弾みました。

海外へ行くと、想像以上に日本の文化、特に食への関心が高いことを肌で感じます。フードジャーナリストとしてそうした日本固有の食文化を世界に発信するお仕事にも携わっていることもあり、今回の取材をきっかけに、「綾鷹」の “急須でいれたような、にごりの旨み”を、ぜひ世界中の方々に伝えたい! と、強く思うのです。

フードジャーナリストが上林春松本店でひもとく、「綾鷹」のおいしさの秘密。

左から「綾鷹 ほうじ茶」「綾鷹 茶葉のあまみ」「綾鷹」「綾鷹 特選茶」

 

折しも東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開幕が1年後に迫り、これまで以上に世界中から日本への注目が高まっている最中。しかも「綾鷹」はその東京2020オリンピック公式緑茶に決定。例えるなら、かつては“苦い・おいしくない”と酷評されていた抹茶製品が、試行錯誤の改良によって、いまや世界共通語の“MATCHA(マッチャ)”として親しまれているように、すでにバランスの整った「綾鷹」の味わいは、きっとこれを機に世界の人たちにも広く浸透して受け入れられるはず……。

毎日当たり前のように飲んでいた「綾鷹」に、とてつもなく大きな可能性を感じた今回の取材。これからお伝えするレポートを通して、私が感じた熱量の高さを1人でも多くの読者の方々と共有できたら幸いです。

そもそも、どうして私は「綾鷹」を選ぶのだろう。そんな素朴な疑問が今回の取材の出発点でした。コンビニや駅の売店に立ち寄ってお茶を買う時、自然と手に取るのは決まって「綾鷹」。朝は「綾鷹 ほうじ茶」、日中や自宅用には「綾鷹 茶葉のあまみ」を。仕事柄、食べ物、飲み物、調味料にいたるまで日々さまざまなものいただくので、毎日決まって口にする物は限られているのですが、「綾鷹」はその中でもほぼ毎日飲んでいる個人的には稀な一品なのです。そんな「綾鷹」の開発協力の「上林春松本店」を取材して「私が選ぶ理由」をみつけるべく、宇治へ向かいました。

フードジャーナリストが上林春松本店でひもとく、「綾鷹」のおいしさの秘密。

「上林春松本店」は永禄年間(1560年頃)の創業で、宇治を代表する老舗茶舗。

 

「遠いところ、ようこそいらっしゃいました」
出迎えてくれたのは、黒の作務衣姿がキリリと決まった代表の上林秀敏さん。宇治を代表する老舗の茶師でありながら朗らかな笑顔といたって物腰やわらかな上林さんに、やや緊張気味だった取材班一同の気持ちは一気にほぐれます。上林さんが最初に案内してくださったのは、「上林春松本店」の直売小売店に隣接する「宇治・上林記念館」。永禄年間(1560年頃)の創業以来約450年間、脈々と茶業を営んできた上林家とお茶にまつわる貴重な資料が展示されています。

フードジャーナリストが上林春松本店でひもとく、「綾鷹」のおいしさの秘密。

記念館2階には、かつて使われていた拝見場が。北側の陽の光を天窓から取り入れるつくりになっており、黒い台でお茶の仕上がりを確認する。現在の拝見場も昔からのこのつくりと同様になっている。

 

二階建ての館内には、お茶づくりにまつわる年代物の道具や当時の様子を記した絵巻物、貴重な資料が整然と並びます。それぞれにお茶作りの歴史の一片を物語るエピソードがあり、その壮大さに驚くばかり。中には、なんとあの豊臣秀吉からの書状まで!

フードジャーナリストが上林春松本店でひもとく、「綾鷹」のおいしさの秘密。

豊臣秀吉からの書状。納めた茶壺のお茶がこぼれていたというお叱りの内容だそう

 

戦国〜江戸時代にかけての騒乱の世を、秀吉をはじめ、織田信長や徳川家康といった時の権力者たちからの寵愛を受けて宇治を代表する茶師として出世してきた上林春松家。誰もが知る歴史上の人物が愛したお茶が、現代を生きる私たちの時代まで変わらず受け継がれているということを実感し、とても感慨深いものがありました。その余韻を味わいながら資料館をあとにすると、いよいよ上林さんとの対談です。

 

■対談「“にごり”への着目から『綾鷹』のおいしさは始まった」

里井 代表直々に記念館をご案内いただき、ありがとうございました。想像以上の情報量の多さに驚きました!

上林 こちらこそ、興味を持ってご覧いただけたならうれしい限りです。

里井 そもそも宇治茶がここまで日本茶のハイブランドとして有名になったのは、どういった経緯があるのでしょうか?

上林 信長、秀吉、家康といった時の権力者たちから庇護・優遇されてきたという政治的な理由もありますが、宇治茶が支持された根源を辿れば、やはり“味”。その味をつくったのは恵まれた気候風土だけではなく、当時品質の良いお茶を育てるために当家をはじめとする宇治の茶師たちが創意工夫した結果編み出したと言われる、甘みと旨みがぎゅっと詰まった〈玉露〉など、代々おいしいお茶作りに情熱をかけてきたマインドが連綿とこの地に息づいてきたからこそだと思います。

里井 そんな茶師という専門職を代々受け継ぐ御社の開発協力のもと生まれた「綾鷹」は、今年で発売から12年。あらためて、これまでを振り返ってみて、今どのような感想をお持ちですか?

フードジャーナリストが上林春松本店でひもとく、「綾鷹」のおいしさの秘密。

上林 12年……、開発段階も含めると13年以上ですが、時の経つのはあっという間ですね。最初に「綾鷹」の開発協力依頼の話をいただいた時、すでにPETボトルの緑茶飲料はありましたし、そこに参入していくのはどうかな……と、正直思っていました。

里井 それが、なぜ引き受けることに?

上林 「今市場に出ているものよりもおいしいもの、味にこだわったグレードの高いお茶を作りたい」というご相談だったので、話を聞いたんです。私も茶業者なので、PETボトルの緑茶が初めて発売された当初、どういうものかと興味があって飲んだことがありました。そして思ったのが「おそらく、いっとき経てばなくなるだろう」ということ。

里井 つまり、「おいしくなかった」?

上林 そうですね。言い方が悪いですが出がらしのような印象でした(笑)。ですのでそれ以来、PETボトルの緑茶にはまったく触れていなかったんです。そんな中で「綾鷹」開発の話をいただいたので、久しぶりにPETボトルの緑茶を飲んでみたら、随分おいしくなっていて驚きました。それで、PETボトルでも本物に近いおいしいお茶を作れるかもしれないという可能性を感じたのが、お引き受けしたきっかけですね。

里井 その“本物に近いおいしいお茶”をPETボトルで実現するために、どのような点にこだわったのでしょうか?

上林 「綾鷹」のパッケージにも書かれている“急須でいれたような味”というのが一つの大きなコンセプトとしてあり、じゃあその急須でいれたお茶のおいしさって何だろう? と考えて出てきたのが、“にごり”というキーワードでした。

フードジャーナリストが上林春松本店でひもとく、「綾鷹」のおいしさの秘密。

里井 なるほど。確かに「綾鷹」の“にごり”は斬新でした。

上林 はい。当時発売されていた緑茶製品はクリアですっきりとした味わいが主流だったので、あえて“にごらせる”という真逆の発想をベースにすることになったんです。そこからですね、味が1段階も2段階も進化していったのは。完成した「綾鷹」は、最初に試作品として飲ませていただいたものから比べると、はるかにおいしくなりました。

 

■対談「ほんの少しの心の余裕とひと手間が、お茶をおいしくする」

上林 ところで、“急須でいれたお茶”を味わっていただけますか? 今いれますので少々お待ちください。

(手際よく道具を並べると、まずはポットから湯冷ましにお湯を注ぎ、しばらくするとその湯気に手をかざす上林さん。聞けば、手のひらで感じる湯気の具合でお茶をいれるのにちょうどいい温度を見計らっているのだとか。毎日お茶をいれているからこその技! そして茶葉を入れた急須にお湯を移し、待つこと約1分半。白い茶器に映える鮮やかな緑色のお茶が最後の1滴まで丁寧に注がれ、その度にふわりと豊かな香りが立ち上ります)

フードジャーナリストが上林春松本店でひもとく、「綾鷹」のおいしさの秘密。

上林 お待たせしました。どうぞお召し上がりください。

里井 いただきます。…………おいしい! 甘み、旨み、苦みがまあるく一つの層になって口の中に広がる感じがします。

上林 あぁよかった。ちょっと私もいただいてみますね。……うん。いい感じに入ってますね。

里井 “いい感じ”というのは?

上林 お茶に対するお湯の量や温度、茶の開き具合など、全部がバランスよくまとまったということですかね。

里井 おいしいお茶をいれるコツはありますか?

フードジャーナリストが上林春松本店でひもとく、「綾鷹」のおいしさの秘密。

上林 お茶をいれるのがすごく難しいことと思われる方がいらっしゃいますが、別に全然そんなことはないんです。経験上の定義としてお湯の温度や抽出時間などはありますが、教科書があるわけではありませんから。

里井 いれる本人が決めていいということ?

上林 はい。もちろん。

里井 そうなんですか!?

上林 あまり難しく考えず、毎日いれながらお湯の温度や量をいろいろと試してみて、「今日のお茶はなんだかおいしく入った」「これはちょっと味が浅いな」と、自分が“おいしい”と思うバランスを探っていけばいいと思います。まあ、強いておいしくいれるコツを挙げるとすれば、ちょっとだけ心に余裕を持って、時間をかけることを惜しまないということですかね。ほんの少しの心持ちで、お茶はよりおいしくなります。と、CMでも言いました(笑)。

里井 「綾鷹」の“振ってから飲む”という特徴も、PETボトルではあるけれど、お茶をおいしくいただきます、という心を整えるひと手間とも言えますね。

フードジャーナリストが上林春松本店でひもとく、「綾鷹」のおいしさの秘密。

 

■対談「出口が間口になった──。『綾鷹』が気づかせてくれる緑茶のおいしさ」

里井 こういう急須でいれたお茶のおいしさ感じられる「綾鷹」ができたことで、急須でお茶をいれる人が少なくなるのでは……という心配はなかったのですか?

上林 そうですね。急須でいれたお茶の味を知らないまま、PETボトルから緑茶に触れたという人も今は少なくないと思います。そういった意味では、「綾鷹」は緑茶の“出口”の一つとして始まりましたが、「綾鷹」のおかげで手軽においしいお茶を味わう機会が増え、日本茶への関心が高まります。ですから「綾鷹」が、将来的には急須のお茶にたどり着く“間口”になっていると考えています。

フードジャーナリストが上林春松本店でひもとく、「綾鷹」のおいしさの秘密。

里井 なるほど。確かに「綾鷹」はお茶のおいしさに気づく入り口として大きな役目を果たしていますね。私のように「これじゃなきゃ」というコアなユーザーの方も多いと思います。

上林 開発当初から製品のイメージやストーリー以上に、何よりもおいしさを追求してきたので、そう言っていただけるのはとてもうれしいですね。とはいえ、まだまだお茶なら紅茶でもウーロン茶でも何でもいいという層も多いと思うので、そういった方々にも、たまたま「綾鷹」を手にとってもらえた時には、“おいしい”と思わせたいですね。

 

■対談「家庭の食卓からオリンピックへ! 『綾鷹』が広げるおいしいお茶を味わえるシーン」

里井 「綾鷹」を飲むのにおすすめのシチュエーションはありますか?

上林 うーん、難しい質問ですね。どちらかというと気分の問題ですよね。ちょっと落ち着くきっかけやブレイクタイムが欲しいという時に「綾鷹」を選んでいただくと良いのではないでしょうか。

里井 確かに「綾鷹」はぐびぐびっと喉の渇きを潤すというよりも、味わってゆっくり飲むという方がしっくりきますね。

フードジャーナリストが上林春松本店でひもとく、「綾鷹」のおいしさの秘密。

上林 「綾鷹」をはじめとするPETボトルのお茶が一番画期的だったと思うのは、家庭の食卓が主だったお茶のあるシーンを、アウトドア(屋外)に広げたこと。移動する車や電車の中に、スポーツなどの観戦中に、散歩中や旅行先で……etc. 今や外でお茶を飲むことの方が多いのかもしれませんね。

里井 つまり「綾鷹」は、いつでもどこでもお茶のおいしさを体感させてくれるということですね。そう言った意味でも、東京2020オリンピック公式緑茶として「綾鷹」が選ばれたことは大きいですね。6月17日には、東京2020オリンピック記念デザインボトルも発売されましたし、東京2020オリンピックでは会場や選手村などで、選手のみなさんに提供されるそうですね。今どんなお気持ちですか?

上林 まさか、こんな大層なことになるなんて思いもしませんでした。海外の方に飲んでいただける機会が増えるのは素直にうれしいことですね。PETボトルの「綾鷹」のおいしさの体験から、日本茶文化への興味に繋がればいいなと思います。

里井 私もそれを心から願っています! 僭越ながら海外でお仕事をさせていただく機会があり、そんな時に日本の文化を象徴するお茶について、「綾鷹」を通じて、カジュアルにコミュニケーションをはかれるのは素晴らしいことだなと。

上林 かつては軟水と硬水の違いがあって、日本のお茶文化はなかなか海外に伝わらなかったのですが、今はPETボトルのお茶でおいしさをそのままに海外に伝えることのできる時代ですから。

里井 これは個人的な意見ですが、フレンチなどの西洋料理と「綾鷹」の相性がすごく良いと思っているんです。フレンチのバターやソースとのマリアージュは抜群。チョコレートをいただく時のお供にも「綾鷹」がぴったり。その案も日本を訪れる海外の方にお伝えできたらなあと、密かに考えています(笑)。

上林 へえ〜、そうですか。確かに、お寿司にワインを合わせるのが定着してきたように、思いもよらないところで食文化が融合するというのは多々ありますよね。まだまだ我々の知らない国境を超えた「綾鷹」の楽しみ方があるのかもしれないですね。

フードジャーナリストが上林春松本店でひもとく、「綾鷹」のおいしさの秘密。

里井 これまでのお話で、御社が〈温故知新〉を社是に、茶師としての伝統を守りながらも柔軟な発想で代々新しい挑戦を続けてきたという礎を垣間見た気がします。「綾鷹」の開発協力、そしてオリンピック公式緑茶という流れもそのひとつですね。

上林 語弊があるかもしれませんが、歴代の春松が、時代が変わり権力者が変わるごとに家を守るために生死をかけて行なってきたことに比べれば、私がやっていることはそれほど大したことではないと思うんです。ただやはり、「綾鷹」は、〈温故知新〉の最たるものだとも思います。「綾鷹」に携わったことで、従来の事業だけでは出会うことがなかったいろんな方の話が聞けて、いろんな考え方を知ることができました。このプロジェクトで学んだことが、今の私のひとつの指標になっているのは間違いないですね。

里井 今回お話を聞かせていただき、「綾鷹」のおいしさが上林春松本店が培ってきた450余年の歴史に裏付けられていて、食の流行り廃りがある中でも変わらない姿勢を保ち続けていることに感動しました。どのようなシーンでも、“お茶をおいしく飲んでほしい”という心が入ったものを体感できることこそ、「綾鷹」の魅力なのだと思います。今日は本当にありがとうございました。

上林 こちらこそありがとうございました。またお会いできるのを楽しみにしています。

フードジャーナリストが上林春松本店でひもとく、「綾鷹」のおいしさの秘密。

さとい・まゆみ/1級フードアナリスト、農林水産省 農業・農村・政策審議会委員。外食は年間700軒以上。デパ地下グルメやお取り寄せにも精通し、食の専門家として、様々なメディアで活躍中。1級惣菜管理士、米食味鑑定士、野菜ソムリエ上級プロなど多数の食資格をもち、農林水産省では国産食材を応援するフード・アクション・ニッポンアンバサダーとしても活動中。また、フランス観光開発機構 オフィシャルレポーターもつとめる。