来たる10月28日、これまで九州限定販売だったレモンサワー専門ブランド「檸檬堂」が、いよいよ全国で発売されます。そのブランド立ち上げを指揮していたのが、2019年7月1日に日本コカ・コーラのCMO(チーフ マーケティング オフィサー)に就任した和佐高志です。和佐はこれまで、「綾鷹」のリブランディングや、「ジョージア」ブランドの活性化、「からだすこやか茶W」のローンチなど、さまざまなヒット商品のブランディング、立ち上げに携わってきました。
ブランドを立ち上げ、育てていく際に最も大切にすべきことはなんなのか。「檸檬堂」というブランドはどのようにして九州地区で支持を得るに至ったのか。これまでの事例をもとに、愛されるブランドをつくる極意を和佐に聞きました。

文=『Coca-Cola Journey』編集部
写真=村上悦子

 

■「他とは違う」それがはっきりしているブランドは育つ

──今年の7月に日本コカ・コーラのCMOに就任されましたが、どのような経緯で、マーケティングの仕事を始めたのでしょうか。

和佐 少しさかのぼってお話しますと、実は大学ではマーケティングではなく、ジャーナリズムを専攻していたんです。でも卒論のテーマは、少し今の仕事に近いことを扱っています。それは、ビールのマーケットシェア。メーカーの宣伝部や広報部に取材し、あるブランドがどのようにしてシェアを逆転したのかを書きました。この時点でジャーナリズムよりもマーケティングに興味がわき、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社(P&G)に就職しました。P&Gでは当時の宣伝本部、現在のマーケティング部で部門別採用をしていたんです。マーケティングを学びたいと思っていた私にとっては、うってつけの職場だと思いました。

──新卒からマーケティングを専門的にやることになったんですね。

和佐 当時から、一生の内にひとつでも、自分がつくったブランドが定番になり、50年、100年と愛され続けたらいいだろうな、と思っていました。それが、消費者が普段よく使う製品だったらなおさらのこと。インダストリアルデザイナーのレイモンド・ローウィが手掛けた、たばこの「ピース」や「ラッキーストライク」のようなアイコニックな定番ブランドに憧れていたんです。

ヒットの陰にこの人あり。新CMO和佐高志が「檸檬堂」の全国展開を決めた理由。

日本コカ・コーラ株式会社 CMO
和佐高志

 

──日本コカ・コーラに入社したのは2009年です。和佐さんは日本コカ・コーラでも、さまざまなブランドの立ち上げ、立て直しを担当してきました。ブランドを育てるのに一番重要なことはなんだと思いますか?

和佐 プロダクトエッジ、言い換えると、意味のある差異性だと思います。差別化がうまくできているブランドは、どんな業界のどんなセグメントのブランドでも、消費者から圧倒的な支持を受けています。

「綾鷹」の例でいうと、これまでのPETボトルの緑茶とは違い、本当に急須でいれたような味わい・見た目のお茶であること。ここが差別化のポイントでした。私が入社した当時、にごりを出すという製造の難しさはクリアしていました。上林春松本店さんという老舗の茶舗とパートナーシップを組み、急須でいれたときの渋みや口当たりなども再現できていた。でも、それがうまく消費者に伝わっていなかったんです。そこで、商品コンセプトや価格、広告戦略などを変えてブランディングし直していきました。「選ばれたのは、『綾鷹』でした」というCMコピーが生まれたのもこのタイミングです。

 

■ブランドとして消費者に浸透させるための職人芸

──それによって、「綾鷹」は今のようなメジャーブランドに成長していったんですね。和佐さんは「檸檬堂」の立ち上げにおいても、指揮をとっていました。

ヒットの陰にこの人あり。新CMO和佐高志が「檸檬堂」の全国展開を決めた理由。

「檸檬堂」(左から「鬼レモン」「塩レモン」「定番レモン」「はちみつレモン」)

 

和佐 「檸檬堂」も同じですね。居酒屋で出てくるこだわりのクラフトレモンサワーが缶チューハイで飲める。これが、他にはない差別化ポイントです。その大もとのアイデアができてからは、ブランドネームやパッケージなど、何百という案を出し、最終的にこの形にたどり着きました。そこから、テレビCM、デジタルマーケティング、インストアなど、どう売り出すかの戦略をきっちり詰めていく。さらに、それを1年目、2年目、3年目とどう育てていくかということまで考えて実行していくのは、職人芸に近いものがあります。

──マーケティング担当はもちろん、R&Dやデザイナー、PR等コミュニケーションの専門家などとチームを組んでそれを実行していくんですね。

和佐 やはり、缶チューハイとしては後発ブランドなので、お客様に手に取ってもらうためにはこのパッケージや広告の戦略をうまく組み立てないといけません。それには、「ストッピングパワー」「ホールディングパワー」「クロージングパワー」の3つが備わっていることが必要です。まずは棚で目を引く「ストッピングパワー」。これは、パッケージの力が大きい。これまでの缶チューハイのパッケージというのは、大抵カラフルで、メタリックで、果実や水滴といったシズル感のあるものばかりだったんです。そこにいきなり、酒屋の前掛けみたいな紺色のパッケージがあったら目立ちますよね。

──他とは違うな、と思います。

ヒットの陰にこの人あり。新CMO和佐高志が「檸檬堂」の全国展開を決めた理由。

和佐 それでよく見てみると、4種類あるのに全部レモン。しかもそれぞれ「鬼レモン」「塩レモン」「定番レモン」「はちみつレモン」と少しずつ味もアルコール度数も違うようだ、と。製品のポジショニングが分かると興味が湧いてくる。ここで手にとらせるのが「ホールディングパワー」です。

最後に、他の商品と比べて、「おいしそう」「そう言えば聞いたことある」「今こういうのが飲みたい」など、かごに入れて会計まで持っていく要因となるのが「クロージングパワー」です。この流れをうまくつくれると、ブランドは育っていきます。

──そして、飲んで「おいしい」と思ったらリピートしたくなる。固定ファンになってくれるわけですね。「檸檬堂」を開発するにあたって、製造上の苦労などはありましたか。

和佐 果汁が通常のレモン缶チューハイよりも多いので、数%のアルコールでは殺菌しきれないんです。そのため加熱処理で殺菌するんですけど、果汁の味を落とさず、炭酸で缶が破裂しない程度に調整するのが難しいですね。

 

■「檸檬堂」は、味がいいから支持されている

──チームで一つのブランドを作り上げていく中で、コンセプトがずれてしまったりすることはないんですか?

ヒットの陰にこの人あり。新CMO和佐高志が「檸檬堂」の全国展開を決めた理由。

2018年5月、福岡市にて開催されたサンプリングイベント
(画像:本人提供)

 

和佐 よくあります。それは細かく修正していきますね。そういうときは、客観的な視点に立つのが大切です。チームの中にどっぷり入っていると、どうしても近視眼的になってしまう。だから、チームメンバーがデザインやPRのプランなどを持ってきたときに、私はなるべくその製品を買う消費者の立場に立って見るようにしているんです。それは、前職からの癖かもしれません。前職では化粧品など、私自身がターゲットではないブランドもたくさん担当しました。そのため、ターゲットだったらどう考えるだろうと、他の人の視点に立つのが当たり前になっているんです。

──ブランドマネージャーではなく、ターゲットの目で商品を客観的に見る。

和佐 もちろんお客様へのインタビューなどのリサーチもしますが、毎回リサーチを通して判断するわけにはいかない。その場で決めなければいけないときに、ターゲットのフィルターを通して判断できる。それが私は得意なのかもしれません。

そのために、当時は女性雑誌をほぼすべて、隅々まで読んでいました。出版社の雑誌担当の人に、今どういうポートフォリオで雑誌を編集しているのか、何がトレンドで、彼女たちは何に興味があるのか、教えてもらったりもしていましたね。今でも書店で最初に行くのは女性雑誌コーナー。表紙を誰が飾っているのかを見るだけでも、トレンドをつかむヒントになります。

ヒットの陰にこの人あり。新CMO和佐高志が「檸檬堂」の全国展開を決めた理由。

──「檸檬堂」が九州地区限定で発売をスタートしたのが、昨年の5月28日。反響はいかがですか。

和佐 おかげさまで九州のレモン缶チューハイ市場では、「定番レモン」味がナンバーワンになるところまで支持されています。SNSで「#檸檬堂」で検索すると、「こんなにおいしい缶チューハイがあるんだ」「早く東京でも買いたい」など、毎日何件も投稿が上がってくる。マーケティング冥利に尽きるくらい、「檸檬堂」に対する愛が感じられます。

──そこまで愛されるようになった、一番の要因は何だと思いますか?

和佐 味ですね。飲んでもらうと分かるんですけど、今まで飲んでいた缶チューハイとは全然違う。本当においしいんです。こだわりの居酒屋で出てくるできたてのレモンサワーをそのまま缶に詰めた、そんな感じ。人に勧めたくなる、お土産に買っていく、九州からわざわざ取り寄せている……発売当初から、ありがたいことにそういう声をあちこちで聞きました。それはひとえに、味がいいからでしょう。やっぱり、「缶でもこれくらいおいしいレモンサワーが飲みたかった」、という消費者がたくさんいたのだと思います。消費者が欲しいと思っていたものを、きっちり作り込んで提供できると、そのブランドは圧倒的に支持されます。

──そんな「檸檬堂」が満を持して、2019年の10月28日から全国展開します。

和佐 少しお客様に待ってもらいすぎたかな、という気もします。通常だったら、もっと早く展開してもよかったのかもしれない。やはりコカ・コーラ社にとってアルコール飲料を発売することは、ある意味冒険だったんです。アルコール飲料を出しているのは、世界約200か国でビジネスを展開するコカ・コーラ社のなかでも日本だけです。それもあって、慎重になっていました。でも、現在発売中の4種類が好調であることや、今後の展開も考えた上で、定番ブランドとして育てていける準備が整ったので、全国展開を決めました。

──今後、「檸檬堂」をどのようなブランドにしていきたいですか。

和佐 基本コンセプトに忠実に、味のクオリティに妥協せず、定番ブランドに育てていきたいです。私がマーケティングの仕事を始めた当初に憧れていた、「レモンサワーと言えば『檸檬堂』」というくらいの定番ブランドに育ったらうれしいですね。50年以上続いてこそ真の定番だと思うので、50年、100年と続く、誰もが知るブランドを目指したいです。

 

ヒットの陰にこの人あり。新CMO和佐高志が「檸檬堂」の全国展開を決めた理由。

わさ・たかし / 1990年プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社(P&G)入社。日本・韓国支社での、洗剤、ホームケア、紙製品、化粧品部門等のブランドマネジメントの要職を経て、2009年日本コカ・コーラ入社。「綾鷹」や「太陽のマテ茶」などにおいて国内外問わず多数のビジネス賞を受賞。2013年同社副社長、2019年7月にCMO(チーフ マーケティング オフィサー)に就任。