4月30日に静岡県静岡市清水区で開催された「コカ・コーラ FIFA ワールドカップTM トロフィーツアー」のイベント、エキシビジョンマッチの一コマ。キャンペーンアンバサダーの中山雅史さん率いるオールスターチームと地元の小・中学生チームが対戦し、大いに盛り上がった

6月14日にFIFA ワールドカップロシアTMが開幕した。
1978年よりオフィシャルパートナーを務めてきたコカ・コーラ社は、この4年に1度の祭典を盛り上げるべく、オリジナルトロフィーが世界各地を巡回する「コカ・コーラ FIFA ワールドカップTM トロフィーツアー」を実施。日本でも今年、東京、大阪、そして一般投票により決定した静岡県静岡市清水区をオリジナルトロフィーが訪問した。サッカー以外にも、コカ・コーラ社はオリンピックと1世紀近くにわたるパートナーシップ契約を結んでいるなど、スポーツとの関係は深い。
なぜコカ・コーラ社はこれほどにスポーツを重視するのか? そして、スポーツとのつながりはビジネスにどのように活かされているのか? コカ・コーラ社のスポーツマーケティングの背景について、オリンピック&エクスペリエンシャルマーケティング担当統括部長の渡邉和史に聞いた。

文=小山田裕哉
写真=松本昇大

 

■押し付けの宣伝はダメ。体験の一部になることが重要

──今年はFIFA ワールドカップロシアTM、そして再来年には東京2020オリンピックも控えていることから、日本でもスポーツに注目する企業が増えています。コカ・コーラ社は長年スポーツマーケティングに注力していますが、その理由を教えてください。

渡邉 古くは、1928年のアムステルダムオリンピックにさかのぼります。1886年にアトランタで誕生した「コカ・コーラ」が海外でも受け入れられるようになってきていたので、オリンピックを活用してブランドをさらに世界中に広げようと考えたことがきっかけです。それ以降、オリンピックとは1世紀近いパートナー関係を維持しており、FIFA ワールドカップTMについては、1978年からオフィシャルパートナーとなっています。

「なぜ、スポーツなのか?」という点については、それがコカ・コーラ社製品を1本でも多く売ることに結びつくからです。コカ・コーラ社はマーケティングを大事にしてきた会社で、消費者の心に寄り添うことをミッションとしています。心に寄り添うためには、人々の共感を得なければなりません。その手段にはいろんなものがありますが、特にスポーツは、幅広い層の人々の共感をもっとも得やすいコンテンツだと考えています。

「応援するチームに勝ってほしい」とか「好きな選手が活躍してほしい」という思いは誰しも抱きます。そのときに生まれる一体感に「コカ・コーラ」というブランドが寄り添うことで、共感が生まれ、製品が売れるというわけです。

FIFA ワールドカップTM開幕を機に振り返る。 コカ・コーラ社「スポーツマーケティング」の極意

オリンピック&エクスペリエンシャルマーケティング担当
統括部長 渡邉和史

──それは「たくさんの人が視聴するコンテンツに広告を出す」という考えと何が違うのでしょう?

渡邉 人々が盛り上がっているところに一方的に宣伝を押し付けても、ネガティブな反応が返ってくるだけでしょう。大切なのは、消費者のスポーツ体験の一部になることです。たとえば平昌2018冬季オリンピックの際には、選手がメダルを獲得した直後に「メダルおめでとうございます!」と、視聴者と一緒に選手を祝福するTVCMを放映しました。

また、東京メトロ丸ノ内線新宿駅のメトロプロムナードで開催した「#コーク氷のハイライト」では、大会中に熱く盛り上がったハイライトシーンを、翌朝までに氷の像で再現するというリアルタイムのプロモーションも行いました。

このように、人々がスポーツを通じてハッピーな気分でいるときに、それを一緒に盛り上げるようなコンテンツを提供することが重要です。それが結果的に、我々のPRがSNSでシェアされやすくなることにもつながっていきます。

FIFA ワールドカップTM開幕を機に振り返る。 コカ・コーラ社「スポーツマーケティング」の極意

FIFA ワールドカップロシアTMは6月14日開幕。
32ヵ国が参加する本大会の開幕戦は、ロシア対サウジアラビアだった

 

■スター選手と契約するだけでは意味がない

──コカ・コーラ社は国際的な大会のパートナーだけでなく、さまざまなスポーツ選手ともスポンサー契約を結んでいます。選手と契約する際の基準などはあるのでしょうか?

渡邉 これも同じことで、単に今活躍しているスター選手と契約するだけでは意味がないと思っています。「その契約を通じて、コカ・コーラ社が何を成し遂げたいのか」を考えなければなりません。

たとえば2011年には、サッカー女子FIFA ワールドカップドイツTMで日本代表を優勝に導いた澤穂希さんとスポンサー契約を結びました。このときは「アクエリアス」の契約アスリートになっていただいたのですが、当時の「アクエリアス」には、若い女性アスリートにもっと製品を届けたいという課題がありました。同時にコカ・コーラ社は、同年12月に日本で行われたFIFA クラブワールドカップTMの、ボールクルーの募集権利も持っていたんです。

そこで澤さんの起用をきっかけに、ボールクルーの募集に女子も含めることをFIFAに提案しました。前例はありませんでしたが、女性アスリートの活躍を応援したいという理念に共感いただき、了解を得ることができました。澤さんにはアンバサダーとして選考に加わってもらい、最終的にはFIFAワールドカップの国際試合で初めて、女子のボールクルーを実現することができたのです。

ありがたいことに、こうした一連の活動に若い女子サッカーの選手たちがすごく喜んでくれて、「アクエリアス」のファンになってくれたんです。ただ澤さんと契約しただけでは、ここまでの共感は生まれなかったと思います。

──お話を聞いていると、非常に戦略的にスポーツマーケティングを考えてらっしゃるんですね。

渡邉 ビジネスですから、目的があり、それを達成するためにスポーツという強力なコンテンツを活用するのだという視点を忘れてはいけません。ゴールはコカ・コーラ社製品を買ってもらうことであり、そのためにみんながハッピーになれるマーケティング施策を考えるという順番です。

FIFA ワールドカップTM開幕を機に振り返る。 コカ・コーラ社「スポーツマーケティング」の極意

「すべては製品を売るため」と何度も強調していた渡邉
1928年のアムステルダムオリンピックのときも、
コカ・コーラ」が1,000ケース分、米国からオランダへと海を渡った

 

■世界中でもっとも聖火リレーのノウハウがある企業

──渡邉さんは現在、日本コカ・コーラで東京2020オリンピックのマーケティング担当を務めています。東京でのオリンピック開催決定を機にスポーツマーケティングに興味を持ったビジネスパーソンも多いですが、これまでお伺いしたようなコカ・コーラ社のスポーツに対するスタンスは、東京2020オリンピックでどのように活かされるのでしょうか?

渡邉 今、63(*2018年6月5日時点)の国内企業が東京2020オリンピックのオフィシャルパートナーになっていますが、中には目的が不明確なまま、「とりあえずオリンピックで何かしたい!」という思いだけで契約しているところもあると思います。しかし、背景にマーケティング戦略がなければ、せっかくオリンピックのパートナーになっても、免許がないのにクルマを買ったようなもの。

私は現在、コカ・コーラ社が聖火リレーのプレゼンティングパートナーになれるよう、権利の獲得に向けて尽力しています。権利を獲得したあかつきには、聖火リレーの価値をいかに最大化していくかを考えることになります。聖火リレーの具体的な日程と場所を決めるのは組織委員会であり、その中で走るルートを決めるのは各自治体ですが、プレゼンティングパートナーはその全行程において、どのように聖火リレーを盛り上げるかを考えるのが使命。これを企業側から見れば、聖火リレーを盛り上げることができたら、製品も売れるという関係になっているわけです。

FIFA ワールドカップTM開幕を機に振り返る。 コカ・コーラ社「スポーツマーケティング」の極意

日本コカ・コーラのエントランスには
過去の聖火リレーに使われたオリンピック・トーチが飾られている

渡邉 その点、コカ・コーラ社は1992年から聖火リレーを夏季・冬季とサポートしてきており、積み重ねてきた経験があります。この歴史の長さは世界で唯一なんですね。開催国も毎回変わりますから、世界中にグループ企業があるコカ・コーラ社が、聖火リレーに関してはもっともノウハウがあるのです。東京2020オリンピックでも、そのノウハウを活かしたさまざまな施策を行っていく予定です。このような明確なプランがないまま、「せっかくのオリンピックだから」とスポンサーになっても、あまり意味はないのではないかと思っています。

──有名な大会だから協賛するのではなく、具体的なマーケティング施策とセットでどんなスポーツを支援するかを考えるべきということですね。

渡邉 これはオリンピックの聖火リレーだけでなく、コカ・コーラ FIFA ワールドカップTM トロフィーツアー」でも同じです。私は2014年に担当しましたが、FIFA ワールドカップTMのオリジナルトロフィーというのは、オリンピックの聖火と同じように、人々の一体感を生むアイコンとして大きな力を持っています。その強力な価値を製品と結びつけるために、今回は日本における最後の訪問地を一般投票で決める「FIFA ワールドカップTM オリジナルトロフィーを呼ぼう」というキャンペーンを行いました。

こうしたことができるのも、我々が「何のためにスポーツマーケティングをやるのか?」「このパートナーシップをどう活用したら、製品の売り上げに貢献できるのか?」という根本の問いかけを常に続けてきたからなのです。

■“一緒に成長できる”若手アスリートと契約

──2020年を見据えたスポーツマーケティングという意味では、どんなことに取り組んでいますか?

渡邉 「コカ・コーラ」のメインターゲットであるティーンに対してアピールしていくために、近年はデジタルリテラシーの高いアスリートと契約することが増えています。端的に言えば、TVCMに出演して話題になるかどうかより、SNSで存在感を発揮できる方を選ぶようにしています。

ここ最近、「コカ・コーラ」とのパートナーシップを発表したアスリートでいえば、NY在住のフリークライマーの白石阿島さん、現役高校生としてリオ五輪に出場した水泳選手の今井月さん、そしてスケートボードの西村詞音さん碧莉さん姉妹がいますが、みなさん10歳代で、将来メダリストになることを期待して他社に先駆けて契約しました。

FIFA ワールドカップTM開幕を機に振り返る。 コカ・コーラ社「スポーツマーケティング」の極意

2020年までの間に契約選手たちがどんな成長を遂げるか。
今から楽しみでならない

──若手のアスリートをインフルエンサーと捉えている?

渡邉 スポーツマーケティングに共感が重要という意味では、そう言えるかもしれません。すでに実績のある方というより、ティーンが一緒に成長していけるようなアスリートを応援することで、メダル獲得を目指す感動ストーリーに「コカ・コーラ」というブランドが寄り添っていくことができます。これは2020年以降も見据えた活動です。

もちろん、「コカ・コーラ」は幅広い層に支持されるブランドでもありますから、多くの方に知られている水泳の北島康介さんをCOO(チーフ・オリンピック・オフィサー)に起用し、若いアスリートと消費者との橋渡し役を担っていただいています。

■東京オリンピックを打ち上げ花火で終わらせないために

──スポンサー契約のほかにも行っていることはありますか?

渡邉 世界中で実施されている、「Olympic Moves(オリンピック ムーブス)」というプログラムがあります。若者の運動不足解消を目的とした教育プログラムで、2003年にオランダから始まったIOC(国際オリンピック委員会)との共同プロジェクトです。

日本では中学校の運動部に入っている生徒と入っていない生徒で運動時間が二極化していることに注目し、オリンピック種目にヒントを得た誰でも楽しめるスポーツを学校の授業で体験してもらっています。この活動を通じて、普段運動をしない若者にスポーツに対する劣等感を取り払ってもらい、ひいてはオリンピックの素晴らしさを伝えることができればと思っています。

──これは2020年以降も続けていく?

渡邉 東京2020オリンピックという絶好の機会を打ち上げ花火で終わらせないためには、継続的な取り組みにしていかなければ意味がないと思っています。「東京2020オリンピックは盛り上がったよね」で終わるのではなく、「東京2020オリンピックがあったから日本のスポーツの地位が上がった」と言われるように、コカ・コーラ社としてできる限りのことをしていきたいですし、全力で2020年を盛り上げていきます。

FIFA ワールドカップTM開幕を機に振り返る。 コカ・コーラ社「スポーツマーケティング」の極意

わたなべ・かずふみ / 1974年生まれ。カリフォルニア州サンディエゴ出身。上智大学入学を機に帰国し、同大学卒業後は広告代理店、FIFAを経て、2011年に日本コカ・コーラ入社。現在は東京2020オリンピックのマーケティング担当を務める。